第19話 大立ち回り
⑲
ルークの話だと、王たちはついさっきまで、謁見の間で第一王妃関連の客人と会っていたはずだ。
この騒ぎで移動している可能性もあるけど、下手人がどこにいるか分からない現状、比較的守りやすい謁見の間からは無闇には動かないはず。
「謁見の間は、中から行った方が近いな。建物の中心辺りにある」
「直通の穴を開けてもいいのよ?」
「お前の魔法に巻き込まれたら全員死ぬだろ。ちゃんと俺に復讐させてくれ」
「それもそうね」
俺もルナの本気は見たことがないけど、王都を丸ごと吹き飛ばすくらいならできると言っていた。
力を封印されていて尚それだからな。
とにかく、謁見の間に向かおう。
第二王妃の私室の扉を開くと、不思議そうな顔で振り返った騎士の姿があった。
見知らぬ顔に驚く彼の背中へ剣を突き立て、手で口を塞ぐ。
魔剣クレリプスは近衛騎士の鎧を軽々と貫いて、心臓を穿った。
「あいつら、普段から騒ぎがちだったんだろうな。それなりに物音がしてただろうに」
「ヒステリックそうだったもの、王妃も王女も」
女神とはいえ、同じ女性から見てもそうなのか。
案外第三王子は苦労人だったのかもしれないな。まあ、どうでもいいけど。
一振りで剣の血糊を払ってから、螺旋状に続く階段を駆け降りる。
連絡通路は二階。当然、そこには沢山の騎士たちがいた。
「なっ、なんだお前はっ!?」
「まさかさっき聞こえた騒ぎはっ……!」
驚きながらも抜剣して構えているあたりは流石の練度だ。ルナの認識阻害のせいでなかなか気味悪く映ってるだろうに。
しかしそれだけ。
間合いの一歩手前でほんの僅かに速度を上げ、手前二人の首を刎ね飛ばす。
気付けないレベルのリズム変化に騎士たちは反応できない。
スピードを落とさないままに駆け抜け、警戒を強めた騎士を剣ごと両断。
怯んだ隣の騎士の顔面を掴んで放り投げ、後続に当てる。
「豪快ね」
「この方が早いからな。それより、道中の騎士は手伝ってくれてもいいんだぞ? 暇だろ」
宙を飛びながら付いて来てるだけだしな。
いや、だけというのもおかしいか。消費の大きな飛翔魔法だ。宮廷魔法師でも見たら卒倒する。
「あら、そうでもないわよ? 五年前に同じような騎士に追われてた時は、あんな酷い顔してたのに、今はこうして、その騎士たちを薙ぎ倒してるんだもの。時の流れを感じてなかなか面白いわ」
子の成長を喜ぶ親か?
なんて話している間にも騎士たちは次々とやってくる。王族の私室に続く道だけあって、警備が厳重だ。
「こういうの、あなたがいた世界じゃ無双系って言うんでしょう? なるほど、これは痛快ね」
「あったな、そんなの。クラスメイトが話してたよ」
「そういう話もまた聞かせてほしいところね。それはそれとして、本当に多い。復讐相手を取り逃しても可哀想だし、そろそろ手伝ってあげましょうか」
「そうだな、そうして、くれっ、と」
雑談の間だけでも十人は切ったぞ、まったく。
一応進んではいるけど、たぶん、俺たちが第二王子殺しの下手人と踏んで王たちの避難に動き出しているはずだ。
元々が行き当たりばったりの計画だし、これ以上足を止められては本当に取り逃しかねない。
「走りなさい」
緩めていた速度を一気に上げる。
攻撃への対処を気にしない速度だ。
前方にはまだ、陣形を組んだ複数の騎士。
本来なら自殺行為だ。
でも、問題ない。
頭上を、左右を、目に見えない何かが通り過ぎる。
景色を僅かにブレさせるそれは、風の砲弾か。盾を構えて賊を待つ騎士たちを、木の葉のように吹き飛ばす。
あの勢いだ。多くが骨の一本や二本は折っているだろう。
実際、何人かは首があらぬ方向に曲がっている。
「人に豪快だとか言っておいて……」
「だって、この方が早いんでしょう?」
「それもそうだ」
謁見の間に近づくほどに騎士は増える。別の道に誘導しようとしている様子もあったし、やはり王は動いていないのだろう。
少し殺しすぎたようにも思うけど、まあ、大丈夫か。腐っても最古の一つに数えられる大国だ。戦力については、そこらの中小軍事国家を余裕で上回るものがある。
何せ、いない方が当たり前のSランククラスが二人もいたほどだ。
「来たぞっ! 対人魔法の使用を許可する! 生け取りにする必要はない!」
近衛か。宮廷魔法師たちもいるな。
それぞれには対魔の加護と、結界。しっかり対策してきている。
「ルナ、一応油断するなよ。全員Aランククラスだ」
「みたいね。あの程度の加護と結界なら簡単に吹き飛ばせるけど、それじゃあ他にも色々まとめて吹き飛ばしちゃいそう」
仮にも普人族最高峰の魔法師たちの張ったものなんだけどな。
「なら軽く援護だけ頼む」
「ええ」
スピードを緩めたルナとは逆に、一気に加速して前へ出る。
近衛たちはどうやら、盾の得意なやつが受け止める間に横から切りつけるよう算段しているらしい。
一人だけ少し前にいるのは、誘っているんだろう。
無視してもいいけど、まあ、ここは乗ってやるか。
小手調べに上から振り下ろした剣は、盾でしっかり受け止められる。
そこらの騎士なら盾ごと両断する程度の一撃ではあったから、さすがは近衛というべきか。なかなか盾の扱いが上手い。
一瞬動きを止めた俺に、左右から振り下ろされる剣。間髪入れない連携。しかしまだまだ甘い。
弾かれる勢いのままに剣を引き戻して右側からの斬撃を受け止め、押し込むことで左からの剣を躱す。
流れるままに盾を蹴り飛ばして、シールドバッシュも防いだ。
ガラ空きになる背中。左からの切りつけてきたやつは、もらった、とでも考えているだろう。
押し込む力をふっと抜き、剣の角度を調整して右からきたやつを背後に流す。出迎えるのは、仲間の剣だ。
仲間を切り動揺する近衛へ返す刃を閃かせ、魔法を撃とうとしていた宮廷魔法師たちにベノムウルフのナイフを投げつける。
「くそっ……!」
ヤケクソなのか、盾使いが突進してきた。
それに合わせて、一閃。今度は盾ごと切り捨てる。
「ひっ……」
「こんなの、騎士団長クラスじゃ……」
腰が引けたな。それじゃあ時間稼ぎすらできないぞ。
一気に蹴りを付ける。
そう思って加速する前に、パリンっとガラスの割れるような音が聞こえた。
続けて氷の槍がいくつもの線を描き、敵を殲滅する。
「結界を破るなら色々巻き込むんじゃなかったのか?」
「魔法で強引に破るならね。援護も要らなそうだったし、火遊びが鬱陶しかったから術式を紐解いて崩壊させたのよ」
火遊び……。
ルナに向けられていた火の魔法のことを言っているようだけど、一応対人戦に特化した殺傷力の高いやつなんだよな……。
そもそも他人の展開中の魔法に干渉してるのが俺の常識からしたらおかしい。
理屈は教わっていてもできるとは思わない。
まあ、なんにせよ、だ。
「これで邪魔者はいなくなったな」
「じゃあ、このキラキラした大きな扉が謁見の間の入り口なのね?」
「ああ。騎士団長も、いるな」
扉で隔たれていてもよく分かる。
レフトア王国が有する最大戦力で、父様と同じ、Sランククラス。
Aランククラスの近衛たちとも一線を画す人外の気配だ。
それが、この扉の先にいる。
「さて、ご尊顔を拝んでやるとしようか」
「まあ、頑張りなさい。ちゃんと見届けるから」
飛翔を止めたルナに頷いて、大きな観音開きの扉へ手をかける。
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