第24話 修学旅行、二日目
修学旅行二日目、俺は萌を遠くから見ることしかできなかった。
金曜日の朝。
俺――小林悠斗は、ホテルの部屋で目が覚める。
時計を見る。
午前6時半。
隣のベッドで、斉藤たちがまだ寝ている。
クラスの男子2人。4人部屋。
斉藤のいびきが、聞こえる。
*
窓を開ける。
京都の朝。
空気が、澄んでいる。
少し、冷たい。
空が、青い。
いい天気だ。
でも、心は晴れない。
(今日も、萌と話せないのかな)
*
昨日。
金閣寺で、遠くから手を振った。
萌も、手を振り返してくれた。
それだけ。
でも、それだけで嬉しかった。
(今日は、話せるといいな)
そう思いながら、窓を閉める。
*
朝食。
大きな宴会場。
俺は、男子グループの中。
萌は、女子グループの中。
遠くに見える。
彩と、楽しそうに話している。
笑っている。
でも、時々。
笑顔が、消える。
俯く。
(萌も、辛いんだろうな)
*
斉藤が、話しかけてくる。
「お前、また萌ちゃん見てるだろ」
「え?」
斉藤は、ニヤリと笑う。
「バレバレだよ」
「そうかな」
「そうだよ」
俺は、ご飯を食べる。
味噌汁と、焼き魚。
でも、味がしない。
*
斉藤は、続ける。
「お前、このまま修学旅行終わるの?」
「え?」
「せっかく京都まで来たのに」
俺は、黙る。
斉藤「話しかけないの?」
「でも……萌が、待ってほしいって」
「分かってる。でも、話すくらいいいだろ」
*
俺は、萌の方を見る。
萌が、笑っている。
でも、その笑顔は。
(無理してる)
斉藤「お前が支えてやらなくて、誰が支えるんだよ」
その言葉が、胸に響く。
「でも……」
「まぁ、お前が決めることだけどな」
斉藤は、ご飯を食べ続ける。
*
朝食が終わる。
二日目の観光。
嵐山に行く。
バスで移動。
俺は、男子グループと一緒。
窓際の席。
斉藤が、隣。
「嵐山、楽しみだな」
「うん」
でも、頭の中は。
(萌)
それだけ。
*
嵐山に着く。
竹林を歩く。
高い竹が、空を覆っている。
緑の天井。
風が吹くと、竹が揺れる。
ザワザワと。
綺麗な音。
観光客が、たくさんいる。
みんな、写真を撮っている。
*
俺も、スマホを取り出す。
竹林を撮る。
その時。
遠くに、萌の姿が見える。
女子グループと一緒。
竹林を歩いている。
笑っている。
写真を撮っている。
*
カメラを、萌に向ける。
でも、撮らない。
ただ、見ているだけ。
萌が、こっちを見た。
目が、合う。
一瞬。
でも、萌はすぐに目を逸らす。
(萌……)
*
斉藤が、肩を叩く。
「おい、行くぞ」
「あ、うん」
俺は、萌から目を離す。
でも、心は。
(萌)
そこにある。
*
竹林を抜ける。
お土産屋さんが、並んでいる。
斉藤が、店に入る。
「何か買ってこうぜ」
「うん」
俺も、店に入る。
八つ橋、扇子、ストラップ。
色んなものが並んでいる。
*
俺は、ストラップを手に取る。
桜の形。
可愛い。
(萌に、似合いそう)
でも、すぐに棚に戻す。
(今は、買えない)
(渡せないから)
胸が、痛い。
*
店を出る。
歩き続ける。
渡月橋が、見えてくる。
大きな橋。
川が、静かに流れている。
*
俺は、橋の真ん中で立ち止まる。
欄干に、手をつく。
川を見下ろす。
水が、キラキラ光っている。
綺麗だ。
風が、吹く。
気持ちいい。
*
「小林!」
斉藤が、後ろから声をかける。
「何してんの?」
「いや……ちょっと」
斉藤は、俺の隣に来る。
一緒に、川を見る。
*
「お前、萌ちゃんのこと、ずっと見てるよな」
俺は、黙る。
斉藤は、続ける。
「お前、このまま修学旅行終わるの? せっかく京都まで来たのに」
俺は、考える。
(斉藤の言う通りだ)
(このまま、何もしないで終わるのか?)
でも。
(萌が、待ってほしいって言った)
(俺は、それを守らなきゃ)
*
「でも……」
「分かってる。萌ちゃんの気持ちも大事だよな」
斉藤は、肩を叩く。
「まぁ、無理すんな。でも、後悔すんなよ」
そう言って、歩いて行く。
*
俺は、一人で橋に立っている。
遠くに、萌の姿が見える。
彩と、橋を渡っている。
笑っている。
でも、どこか寂しそう。
(萌……)
俺は、萌の方に歩き出す。
*
「萌」
萌が、振り返る。
驚いた顔。
「悠斗……」
彩が、気を利かせる。
「じゃあ、私は先に行ってるね」
そう言って、離れる。
ありがとう、彩。
心の中で、呟く。
*
二人きり。
橋の上。
風が、吹く。
萌の髪が、揺れる。
「どうしたの?」
萌が聞く。
「いや……ちょっと話したくて」
沈黙。
俺は、続ける。
「萌、辛そうだった」
*
萌は、俯く。
「そんなことない」
「嘘だろ」
萌が、顔を上げる。
目が、潤んでいる。
「……辛い」
「そうだよな」
*
萌は、涙を拭う。
「でも」
声が、震える。
「これは、私が決めたことだから」
「悠斗は、気にしないで」
俺は、萌を見る。
真っ直ぐ。
「気にするよ」
*
「萌のこと、好きだから」
その言葉が、口から出た。
萌の目から、涙が流れる。
「悠斗……」
*
「でも、俺は待つ」
俺は、続ける。
「萌が、自分の足で立つまで」
「何年でも」
萌は、声を出して泣く。
「ごめん……」
「ごめんね」
*
俺は、萌の頭を撫でる。
優しく。
「謝らなくていい」
「でも……」
「萌は、正しいことしてる」
萌が、俺を見上げる。
涙でぐちゃぐちゃの顔。
でも、綺麗だ。
*
「ありがとう」
萌が、小さな声で言う。
「どういたしまして」
二人とも、川を見下ろす。
風が、吹く。
水が、キラキラ光っている。
*
沈黙。
でも、悪くない沈黙。
萌が、涙を拭う。
「悠斗」
「ん?」
「修学旅行、楽しんでる?」
俺は、少し笑う。
「まぁ……ちょっとは」
「そっか」
「萌は?」
「私も、まぁまぁ」
二人とも、笑う。
*
それから。
彩が戻ってくる。
「ごめん、待った?」
「ううん」
萌は、彩の方に歩いて行く。
振り返る。
「悠斗、またね」
「うん」
萌が、去っていく。
*
俺は、一人で橋に立っている。
でも、さっきより。
心が、軽い。
(萌と、話せた)
(少しだけだけど)
それだけで、十分だった。
*
橋を渡る。
男子グループのところに戻る。
斉藤が、ニヤリと笑う。
「話したのか?」
「うん」
「良かったじゃん」
「ありがと」
斉藤「礼はいいって」
そう言って、肩を叩く。
*
午後。
お寺を回る。
天龍寺。
庭園が、綺麗だ。
でも、俺の頭の中は。
(萌と話せた)
それだけ。
嬉しい。
すごく、嬉しい。
*
夕方。
ホテルに戻る。
部屋に入る。
ベッドに座る。
窓の外を見る。
夕日が、沈んでいく。
オレンジ色の空。
綺麗だ。
*
(萌……)
渡月橋での会話を、思い出す。
「何年でも」
俺が言った言葉。
嘘じゃない。
本当に、何年でも待つ。
*
夕飯。
また、宴会場。
萌の姿を、遠くに見る。
彩と、話している。
笑っている。
さっきより、笑顔が自然だ。
(良かった)
俺の言葉が、少しは萌の力になったのかな。
そう思うと、嬉しい。
*
夕飯後。
部屋で、男子たちと話す。
でも、心は。
(萌)
そこにある。
*
夜。
電気を消す。
部屋が、暗くなる。
窓から、月が見える。
(萌……)
(頑張れよ)
(俺は、ずっと待ってるから)
そう思いながら、目を閉じた。
*
でも、眠れない。
萌の顔が、浮かぶ。
渡月橋で泣いていた顔。
でも、最後は笑っていた。
その笑顔が、愛おしい。
(萌……)
小さく、呟く。
(好きだよ)
風が、窓を揺らす。
月が、綺麗だ。
(明日、最終日)
(また、話せるといいな)
そう思いながら。
やっと、眠りについた。
--------
【あとがき】
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これからもどうぞよろしくお願いします✨
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