第24話 修学旅行、二日目

修学旅行二日目、俺は萌を遠くから見ることしかできなかった。


金曜日の朝。

俺――小林悠斗は、ホテルの部屋で目が覚める。


時計を見る。

午前6時半。


隣のベッドで、斉藤たちがまだ寝ている。

クラスの男子2人。4人部屋。


斉藤のいびきが、聞こえる。



窓を開ける。

京都の朝。


空気が、澄んでいる。

少し、冷たい。

空が、青い。


いい天気だ。

でも、心は晴れない。


(今日も、萌と話せないのかな)



昨日。

金閣寺で、遠くから手を振った。

萌も、手を振り返してくれた。


それだけ。

でも、それだけで嬉しかった。


(今日は、話せるといいな)


そう思いながら、窓を閉める。



朝食。

大きな宴会場。


俺は、男子グループの中。

萌は、女子グループの中。


遠くに見える。

彩と、楽しそうに話している。

笑っている。


でも、時々。

笑顔が、消える。

俯く。


(萌も、辛いんだろうな)



斉藤が、話しかけてくる。

「お前、また萌ちゃん見てるだろ」

「え?」


斉藤は、ニヤリと笑う。

「バレバレだよ」

「そうかな」

「そうだよ」


俺は、ご飯を食べる。

味噌汁と、焼き魚。

でも、味がしない。



斉藤は、続ける。

「お前、このまま修学旅行終わるの?」

「え?」

「せっかく京都まで来たのに」


俺は、黙る。


斉藤「話しかけないの?」

「でも……萌が、待ってほしいって」

「分かってる。でも、話すくらいいいだろ」



俺は、萌の方を見る。

萌が、笑っている。


でも、その笑顔は。

(無理してる)


斉藤「お前が支えてやらなくて、誰が支えるんだよ」

その言葉が、胸に響く。


「でも……」

「まぁ、お前が決めることだけどな」


斉藤は、ご飯を食べ続ける。



朝食が終わる。

二日目の観光。


嵐山に行く。

バスで移動。


俺は、男子グループと一緒。

窓際の席。

斉藤が、隣。


「嵐山、楽しみだな」

「うん」


でも、頭の中は。

(萌)

それだけ。



嵐山に着く。

竹林を歩く。


高い竹が、空を覆っている。

緑の天井。


風が吹くと、竹が揺れる。

ザワザワと。


綺麗な音。


観光客が、たくさんいる。

みんな、写真を撮っている。



俺も、スマホを取り出す。

竹林を撮る。


その時。

遠くに、萌の姿が見える。


女子グループと一緒。

竹林を歩いている。

笑っている。

写真を撮っている。



カメラを、萌に向ける。

でも、撮らない。

ただ、見ているだけ。


萌が、こっちを見た。

目が、合う。


一瞬。

でも、萌はすぐに目を逸らす。


(萌……)



斉藤が、肩を叩く。

「おい、行くぞ」

「あ、うん」


俺は、萌から目を離す。

でも、心は。

(萌)

そこにある。



竹林を抜ける。

お土産屋さんが、並んでいる。


斉藤が、店に入る。

「何か買ってこうぜ」

「うん」


俺も、店に入る。

八つ橋、扇子、ストラップ。

色んなものが並んでいる。



俺は、ストラップを手に取る。

桜の形。

可愛い。


(萌に、似合いそう)


でも、すぐに棚に戻す。

(今は、買えない)

(渡せないから)


胸が、痛い。



店を出る。

歩き続ける。


渡月橋が、見えてくる。

大きな橋。

川が、静かに流れている。



俺は、橋の真ん中で立ち止まる。

欄干に、手をつく。


川を見下ろす。

水が、キラキラ光っている。


綺麗だ。


風が、吹く。

気持ちいい。



「小林!」

斉藤が、後ろから声をかける。

「何してんの?」

「いや……ちょっと」


斉藤は、俺の隣に来る。

一緒に、川を見る。



「お前、萌ちゃんのこと、ずっと見てるよな」

俺は、黙る。


斉藤は、続ける。

「お前、このまま修学旅行終わるの? せっかく京都まで来たのに」


俺は、考える。


(斉藤の言う通りだ)

(このまま、何もしないで終わるのか?)


でも。


(萌が、待ってほしいって言った)

(俺は、それを守らなきゃ)



「でも……」

「分かってる。萌ちゃんの気持ちも大事だよな」


斉藤は、肩を叩く。

「まぁ、無理すんな。でも、後悔すんなよ」


そう言って、歩いて行く。



俺は、一人で橋に立っている。

遠くに、萌の姿が見える。


彩と、橋を渡っている。

笑っている。

でも、どこか寂しそう。


(萌……)


俺は、萌の方に歩き出す。



「萌」

萌が、振り返る。

驚いた顔。


「悠斗……」


彩が、気を利かせる。

「じゃあ、私は先に行ってるね」


そう言って、離れる。

ありがとう、彩。

心の中で、呟く。



二人きり。

橋の上。

風が、吹く。


萌の髪が、揺れる。


「どうしたの?」

萌が聞く。

「いや……ちょっと話したくて」


沈黙。


俺は、続ける。

「萌、辛そうだった」



萌は、俯く。

「そんなことない」

「嘘だろ」


萌が、顔を上げる。

目が、潤んでいる。


「……辛い」

「そうだよな」



萌は、涙を拭う。

「でも」

声が、震える。


「これは、私が決めたことだから」

「悠斗は、気にしないで」


俺は、萌を見る。

真っ直ぐ。


「気にするよ」



「萌のこと、好きだから」


その言葉が、口から出た。

萌の目から、涙が流れる。


「悠斗……」



「でも、俺は待つ」

俺は、続ける。


「萌が、自分の足で立つまで」

「何年でも」


萌は、声を出して泣く。

「ごめん……」

「ごめんね」



俺は、萌の頭を撫でる。

優しく。


「謝らなくていい」

「でも……」

「萌は、正しいことしてる」


萌が、俺を見上げる。

涙でぐちゃぐちゃの顔。

でも、綺麗だ。



「ありがとう」

萌が、小さな声で言う。

「どういたしまして」


二人とも、川を見下ろす。


風が、吹く。

水が、キラキラ光っている。



沈黙。

でも、悪くない沈黙。


萌が、涙を拭う。

「悠斗」

「ん?」

「修学旅行、楽しんでる?」


俺は、少し笑う。

「まぁ……ちょっとは」


「そっか」

「萌は?」

「私も、まぁまぁ」


二人とも、笑う。



それから。

彩が戻ってくる。


「ごめん、待った?」

「ううん」


萌は、彩の方に歩いて行く。

振り返る。


「悠斗、またね」

「うん」


萌が、去っていく。



俺は、一人で橋に立っている。

でも、さっきより。

心が、軽い。


(萌と、話せた)

(少しだけだけど)


それだけで、十分だった。



橋を渡る。

男子グループのところに戻る。


斉藤が、ニヤリと笑う。

「話したのか?」

「うん」

「良かったじゃん」

「ありがと」


斉藤「礼はいいって」

そう言って、肩を叩く。



午後。

お寺を回る。


天龍寺。

庭園が、綺麗だ。


でも、俺の頭の中は。

(萌と話せた)


それだけ。

嬉しい。

すごく、嬉しい。



夕方。

ホテルに戻る。

部屋に入る。


ベッドに座る。

窓の外を見る。


夕日が、沈んでいく。

オレンジ色の空。

綺麗だ。



(萌……)

渡月橋での会話を、思い出す。


「何年でも」


俺が言った言葉。

嘘じゃない。

本当に、何年でも待つ。



夕飯。

また、宴会場。


萌の姿を、遠くに見る。

彩と、話している。

笑っている。


さっきより、笑顔が自然だ。


(良かった)


俺の言葉が、少しは萌の力になったのかな。

そう思うと、嬉しい。



夕飯後。

部屋で、男子たちと話す。


でも、心は。

(萌)

そこにある。



夜。

電気を消す。

部屋が、暗くなる。


窓から、月が見える。


(萌……)

(頑張れよ)

(俺は、ずっと待ってるから)


そう思いながら、目を閉じた。



でも、眠れない。

萌の顔が、浮かぶ。


渡月橋で泣いていた顔。

でも、最後は笑っていた。


その笑顔が、愛おしい。


(萌……)

小さく、呟く。


(好きだよ)


風が、窓を揺らす。

月が、綺麗だ。


(明日、最終日)

(また、話せるといいな)


そう思いながら。

やっと、眠りについた。




--------

【あとがき】

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