第8話 本当の自分
萌が、いつものポニーテールで登校してきた日、俺は驚いた。
火曜日の朝。
俺――小林悠斗が教室に入ると、萌が既に席についている。
髪型が、変わっている。
いつものポニーテール。
巻いていた髪が、元に戻っている。
メイクも、薄い。
スカートも、普通の丈。
(あれ…?)
クラスメイトもざわついている。
「佐伯さん、髪型戻したの?」
「前の方が可愛かったのに」
「でも、こっちも可愛いよ」
俺は、自分の席に座る。
チラッと萌を見る。
萌が、こっちを見ている。
目が合う。
萌は、少し照れたように笑って、すぐに目を逸らす。
俺の心臓が、ドキッとした。
(なんだ、この感じ)
*
一時間目の授業。
俺は全く集中できなかった。
チラチラ萌を見てしまう。
ポニーテール。
いつもの萌。
(こっちの方が、萌らしい)
でも、なんで戻したんだ?
片桐との食事が楽しかったんじゃないのか?
(よく分からない)
*
昼休み。
俺が購買に行こうとすると、萌が声をかけてきた。
「ねぇ、悠斗」
久しぶりに、萌から話しかけられた。
「ん?」
「一緒にお昼、食べない?」
俺は驚く。
「いいけど…彩は?」
「今日は委員会あるって」
「そっか」
二人は購買でパンを買って、教室に戻る。
*
教室、昼食。
二人並んで、パンを食べる。
久しぶりの、この感じ。
窓から、風が入ってくる。
気持ちいい。
萌が先に話しかける。
「ねぇ、この前の漫画の続き、読んだ?」
俺は驚く。
「え…読んでないって言ってなかった?」
萌は少し恥ずかしそうに笑う。
「やっぱり、やめられなかった」
俺も笑う。
「そっか」
「で、どうだった?続き」
「めっちゃ面白かった。主人公が覚醒して」
「え、マジで!?ネタバレやめて!」
「ごめんごめん」
二人は笑う。
いつもの、バカ話。
漫画のこと、ゲームのこと。
どうでもいいこと。
でも、楽しい。
俺は気づく。
(これだ。これが、俺の知ってる萌だ)
(髪を巻いて、メイクして、距離置いてた萌じゃない)
(漫画の話して、笑い合える、この萌だ)
そして、気づく。
(俺、この萌が好きだ)
心臓が、バクバクする。
萌が俺を見る。
「悠斗、どうしたの?」
「え、別に」
「顔、赤いよ?」
「暑いだけ」
萌は笑う。
いつもの、明るい笑顔。
俺は、その笑顔を見て思った。
(やっぱり、好きだ)
でも、すぐに頭を振る。
(いや、幼なじみとして、だ)
*
放課後。
俺が下駄箱で靴を履き替えていると、萌が来た。
「悠斗、一緒に帰らない?」
久しぶりに、そう言われた。
「あぁ、いいよ」
二人で、校門を出る。
*
帰り道。
並んで歩く。
久しぶりの、この距離。
少し気まずい。
でも、萌が話しかける。
「ねぇ、悠斗」
「ん?」
「最近、ちょっと無理してた」
俺は萌を見る。
「無理?」
「髪巻いたり、距離置いたり」
「……うん」
「でも、やっぱり私らしくないなって」
萌は少し寂しそうに笑う。
「だから、元に戻そうと思って」
俺は、何と言えばいいのか分からない。
(元に戻る?)
(じゃあ、また昔みたいに?)
それは、嬉しい。
でも、複雑だ。
「変だよね。女の子として見てもらうの、頑張ってたのに」
萌は立ち止まる。
俺も立ち止まる。
「でも、もう疲れちゃった」
「萌…」
萌は笑う。
でも、目は笑っていない。
「悠斗は、私のこと女として見てくれないし」
その言葉が、胸に刺さる。
「それは…」
俺は、何か言おうとする。
でも、言葉が出てこない。
(見てる)
(見てるよ、萌)
(女の子として)
でも、それを言ったら。
(何かが変わる)
(今の関係が、壊れる)
中学の時の、水野さんの顔が浮かぶ。
泣きながら走り去った姿。
(俺が、壊した)
(また、誰かを傷つける)
(萌を、傷つける)
(それが、怖い)
萌は俺を見て、少し寂しそうに笑う。
「いいの。幼なじみとして、これからも仲良くしてね」
そう言って、先に歩いて行く。
俺は、その背中を見送る。
(萌…)
(俺、何て言えばよかったんだ?)
(「見てる」って?)
(でも、それを言ったら…)
言葉が、出てこない。
*
一人で、残りの道を歩く。
夕日が、沈んでいく。
今日の萌の姿が、頭から離れない。
ポニーテール。
いつもの笑顔。
漫画の話。
(やっぱり、この萌が好きだ)
(でも…)
(言えない)
(認めたら、何かが壊れる)
家が見えてくる。
玄関を開ける。
「ただいま」
「おかえり」
母の声。
リビングに行く。
母が夕飯の準備をしている。
「今日は萌ちゃんと帰ってきたの?」
「途中までは」
「そう」
母は嬉しそうに笑う。
「また仲良くなったのね」
「まぁ…」
母は俺を見る。
「良かったわ。お母さん、心配してたのよ」
「大げさだろ」
「だって、あなた元気なかったもの」
俺は黙る。
母は続ける。
「萌ちゃんと一緒にいる時の方が、楽しそうよ」
「そうかな」
「そうよ」
母はニッコリ笑う。
俺は、部屋に戻る。
*
ベッドに横になって、天井を見つめる。
(萌と、また昔みたいに戻れた)
(漫画の話して、一緒に帰って)
(それだけで、嬉しい)
でも。
(萌は、もう諦めたって言った)
(女の子として見てもらうの、諦めたって)
(それって…)
胸が、ギュッとなる。
(嫌だ)
(萌に、諦めてほしくない)
でも、どうすればいいのか分からない。
スマホを見る。
萌にLINEを送ろうとする。
でも、何を書けばいいのか。
(今日は楽しかった?)
(また明日も一緒に食べよう?)
(諦めないで?)
どれも、違う気がする。
結局、何も送れなかった。
スマホを閉じる。
(俺、最低だな)
(萌は、頑張ってた)
(女の子として見てもらうために)
(でも、俺は気づかないふりをして)
(そして、萌は諦めた)
目を閉じる。
(でも…もう壊れかけてるんじゃないのか?)
悠斗の内面【第1話のセリフと同じ】
(俺、何やってんだ)
*
翌朝。
学校に行く準備をする。
鏡を見る。
いつもと同じ顔。
でも、何かが違う気がする。
(萌のこと、好きだ)
(やっと、認められた)
(でも…)
(言えない)
深呼吸する。
(でも、このままじゃダメだ)
(いつか、言わなきゃ)
でも、今日じゃない。
まだ、怖い。
家を出る。
学校に向かう道。
空が、青い。
風が、気持ちいい。
でも、胸のモヤモヤは消えない。
(萌…)
(待っててくれるかな)
答えは、分からない。
でも、一つだけ分かる。
(俺、変わらなきゃ)
(いつか)
そう思いながら、学校に着いた。
教室に入る。
萌が、席についている。
いつものポニーテール。
俺を見て、少し笑う。
でも、その笑顔は、どこか遠かった。
--------
【あとがき】
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