第6話 片桐との食事
片桐先輩との食事に行く日が来た。
土曜日の昼、駅前のカフェ。
私――佐伯萌は、片桐先輩と向かい合って座っている。
オシャレなカフェ。
木目調のテーブル、観葉植物、落ち着いた音楽。
片桐先輩は、白いシャツにジャケット。
私服もカッコいい。
「今日は来てくれてありがとう」
片桐先輩が笑顔で言う。
「いえ、誘ってくれて嬉しかったです」
メニューを見る。
パスタ、サンドイッチ、ケーキ。
「佐伯さん、何にする?」
「えっと……このパスタにします」
「じゃあ俺も同じで」
店員さんを呼んで、注文する。
*
会話が始まる。
「学校、楽しい?」
「はい。新しいクラスも慣れてきました」
「そっか。俺も去年はクラス替えで大変だったな」
片桐先輩は、話を丁寧に聞いてくれる。
質問も的確。
会話が途切れない。
でも、心のどこかで。
(悠斗だったら、もっとバカ話してたな)
悠斗なら、漫画の話とか、ゲームの話とか。
笑いながら、テキトーな話をしてた。
でも、片桐先輩は違う。
大人っぽくて、紳士的。
これが、普通のデートなんだろうか。
*
パスタが運ばれてくる。
「いただきます」
「いただきます」
美味しい。
でも、何を話せばいいのか分からない。
片桐先輩が先に話しかけてくる。
「佐伯さん、最近雰囲気変わったよね」
私は驚いて、顔を上げる。
「え?」
「なんていうか、頑張ってる感じがする」
私は黙る。
バレてる?
「そう……かもしれません」
片桐先輩は優しく笑う。
「誰か、好きな人いるの?」
心臓が跳ねる。
「え…なんで?」
「なんとなくね。誰かのために頑張ってる顔してるから」
私は俯く。
そんなに分かりやすいのか。
「俺じゃないよね?」
その言葉に、私は慌てて顔を上げる。
「……ごめんなさい」
片桐先輩は笑う。
でも、嫌な笑いじゃない。
「謝らなくていいよ。分かってたから」
「え?」
「君、小林くんのこと好きでしょ?」
私の顔が、真っ赤になる。
「バレバレだよ。君が小林くんを見る目、すごく優しいもん」
私は何も言えない。
片桐先輩は続ける。
「でも…悠斗は、私のこと女として見てくれない」
その言葉が、自然に出てきた。
片桐先輩は少し考えてから、言う。
「本当にそうかな?」
「え?」
「小林くん、君のこと気にしてるよ。俺が君と話してる時、すごい顔で見てた」
私の心臓が、バクバクする。
「本当ですか?」
「うん。嫉妬してる顔だったよ」
嫉妬。
(悠斗が…私に?)
でも、すぐに頭を振る。
「それは…気のせいだと思います」
片桐先輩は首を傾げる。
「でもさ、君も頑張りすぎてない?」
「え?」
「無理してるでしょ?髪型とか、距離置くこととか」
私は、ハッとする。
「なんで…分かるんですか?」
片桐先輩は優しく笑う。
「見てれば分かるよ。君、たまにすごく疲れた顔してる」
私は何も言えない。
「小林くんが好きなのは、そういう君じゃないと思うよ」
「じゃあ…どうすれば」
「いつも通りの君でいればいいんじゃない?」
いつも通り。
(それができたら、苦労してない)
でも、片桐先輩の言葉は、心に残った。
*
食事が終わって、カフェを出る。
駅前の広場。
人が行き交っている。
「今日は、ありがとうございました」
私が頭を下げる。
片桐先輩は笑う。
「いや、俺も楽しかったよ。君と話せて」
「でも…恋愛相談みたいになっちゃって」
「全然いいよ。むしろ、小林くんのこと応援してる」
私は顔を上げる。
「え?」
「君たち、お似合いだと思うから」
その言葉が、嬉しかった。
でも、同時に切ない。
「片桐先輩は…優しいですね」
「そんなことないよ」
片桐先輩は空を見上げる。
「俺も昔、好きな子に想いを伝えられなくて後悔したから」
「え…」
「だから、君には後悔してほしくないんだ」
私は、片桐先輩を見る。
この人、本当に優しい。
でも。
(私が好きなのは、悠斗だけ)
「頑張ってみます」
「うん。応援してる」
片桐先輩はそう言って、手を振って去っていった。
*
一人で帰る道。
夕日が、沈み始めている。
(いつも通りの私)
片桐先輩の言葉が、頭の中でリフレインする。
(悠斗が好きなのは、いつも通りの私?)
でも、いつも通りの私じゃ、悠斗は気づいてくれなかった。
(どうすればいいの?)
答えは、出ない。
家に着く。
「ただいま」
返事はない。
リビングに入る。
テーブルの上に、いつものメモ。
「夕飯は冷蔵庫」
誰もいない。
部屋に入る。
鏡を見る。
(いつも通りの私)
片桐先輩の言葉が、頭に浮かぶ。
「いつも通りの君でいればいい」
(でも…)
悠斗の顔が浮かぶ。
(悠斗は、どう思うんだろう)
(いつも通りの私を、女の子として見てくれるのかな)
答えは、出ない。
ベッドに座る。
スマホを見る。
悠斗からの返信はない。
「片桐先輩と食事してきた。楽しかった」
既読はついている。
(返事、ないんだ)
少し、寂しい。
*
【視点切り替え:悠斗】
同じ時刻、俺の部屋。
俺――小林悠斗は、ベッドに横になってスマホを見ている。
(萌…今頃、片桐と食事してるのか)
胸が、モヤモヤする。
(なんで、俺はこんなに気になるんだ)
スマホを置く。
天井を見つめる。
(萌が、他の男と笑ってる)
(それが、嫌だ)
でも、それ以上考えられない。
母の声が聞こえる。
「悠斗、お昼ご飯できてるわよ」
「今行く」
*
リビングに行く。
母が料理を並べている。
チャーハンと味噌汁。
「いただきます」
「いただきます」
テレビをつける。
ニュースが流れている。
母が話しかけてくる。
「今日は出かけないの?」
「別に、予定ないし」
「そう。じゃあ、午後は一緒に買い物行きましょうか」
「めんどくさい」
母は笑う。
「あら、最近は萌ちゃんと出かけないのね」
その名前を聞いて、俺の手が止まる。
「まぁ…向こうも忙しいし」
母は俺を見る。
優しい目。
「喧嘩した?」
「してない」
「でも、何かあったんでしょ?」
俺は黙る。
母は続ける。
「最近、萌ちゃん来ないもの。前はよく遊びに来てたのに」
「……そうだな」
母は少し考えてから、言う。
「お母さんには分かるのよ」
「何が?」
「あなた、萌ちゃんのこと気になってるでしょ?」
俺の心臓が、跳ねる。
「……別に」
「嘘つかなくていいわ」
母は優しく笑う。
「萌ちゃん、小さい頃から可愛い子だったわよね」
「まぁ…」
「いつもあなたの後ろをついて歩いて」
母は懐かしそうに笑う。
「あなたが転んだ時も、泣きながら一緒に泣いてたわ」
そんなこと、あったっけ。
「お母さんから見ても、萌ちゃんは良い子よ」
俺は黙って、ご飯を食べる。
母は続ける。
「大切にしなさいね」
その言葉が、胸に刺さる。
「……うん」
でも、心の奥で。
(俺、萌を大切にしてたのか?)
答えは、出ない。
*
午後。
母と買い物に行った。
スーパーで食材を買う。
帰り道、母が言う。
「萌ちゃん、元気にしてる?」
「多分」
「最近会ってないの?」
「学校では会ってる」
「そう」
母は少し寂しそうに笑う。
「お母さん、萌ちゃんのこと娘みたいに思ってたのよ」
「大げさだろ」
「だって、小さい頃からずっと一緒だったもの」
確かに。
萌は、いつも俺の家に来てた。
一緒にゲームして、漫画読んで、宿題して。
母も、萌のことを可愛がってた。
「また遊びに来てくれるといいわね」
「……そうだな」
家に着く。
荷物を置いて、部屋に戻る。
*
ベッドに横になって、スマホを見る。
萌からLINEが来ている。
「片桐先輩と食事してきた。楽しかった」
短い文章。
スタンプもない。
俺は、胸がギュッとなる。
(楽しかった…?)
返信を打とうとする。
でも、何を書けばいいのか分からない。
「そっか」?
「良かったな」?
「次は俺と行こうぜ」?
どれも、違う気がする。
結局、何も送れなかった。
スマホを閉じる。
(萌…)
窓の外を見る。
夕日が、沈んでいく。
(俺、どうしたいんだ?)
答えは、出ない。
でも、一つだけ分かる。
(萌が、他の男と楽しそうにしてるのが、嫌だ)
それだけは、確かだった。
--------
【あとがき】
🌟沢山のフォローやお星さま、ハート、本当にありがとうございます!
皆さんの応援がモチベーションになっています(⁎˃ᴗ˂⁎)
これからもどうぞよろしくお願いします✨
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