File29 -生々しい正当性

いらっしゃい。

おや、いつにも増して暗い顔をしているね。


…………理由を聞かないのかって?

聞いて欲しいなら話したまえよ。


時間は有限。

幾ら積んでも買えないんだ。

君のアピールに付き合って欲しいなら、それなりに貰わないと割に合わないよ。


あー、すまない。

だいぶイジワルだったか。

私はいつも話す側だから、聞く事に慣れていないんだ。


機嫌を直して貰うためにも、一つ披露しよう。


題して「生々しい正当性」。


◇◆◇◆◇◆


私刑、リンチ、拷問……。

大体が報復や情報奪取のために行われる、黒い行為。

もちろん日本の法律では、いずれも禁止されている。


あぁ。

いきなり物騒な話題で申し訳ないが、必要な事だ。

しっかり聞いていてくれ。


今回はそのうちの、拷問についてだ。


名称だけで忌避感がある者もいるだろうが、

その実高度な技術を必要とする作業。


だってそうだろう?

相対する人物に同じ者はいないんだ。

そんな者達の状況を見極め、適切な処置を施し、必要な情報を得る。


弱いとする意味が無いし、

強すぎて死んでしまっても意味がない。

ある意味で、医者等と同レベルで身体を熟知していなければ出来ない芸当なんだよ。


……世の中には、それを趣味にしている者もいるんだがね。


ああ。

君の言う通り悪趣味だ。

それに、それを趣味にする者達は往々にして"苦痛に歪み死んでいく様を見たい"願望があるからだ。


そんなものは拷問とは呼ばない。

サディストと呼ぶのもおこがましい、ただのイかれた人殺しだ。

だからこそ"ワイン絞り"なんて物が出来たりする。


それはなんだ、って?

……自分で調べてくれたまえ。


それはともかく。

意外と需要があったりするのが不思議だよ。


え?

そりゃあるだろう。

あくまでフィクションの中でだが、拷問を題材にした創作物は探せば出てくる。

中にはギャグテイストもあるがね。


恐怖と同じ、安全圏から痛めつけられる様を見たい。


人間は欲に塗れている。

それなのに安心を求めて腐心する。


その二律背反こそが。

……人間である証明、なのかもしれないね。


あ、だからといって勘違いしないでくれよ?

私は拷問を肯定しているわけではないんだ。

ただの純粋な興味からこの話を組み立てただけ。


その方がタチが悪い?

それについては諦めてくれ。

生来培った性格なんだ。


◇◆◇◆◇◆


さて、どうだっただろう。

タイトルもあまり捻りはないから、すんなりと頭に入ってくれたら嬉しいね。


……結局なにを伝えたいのかわからない、か。

良く気付いた、その通りだ。


"話をする"。

その行為にこそ実態があるんだ。

極論だが内容はどうだっていい。


話をする。

それだけで気持ちは軽くなるもんだ。

共感や正当性も得られるかもしれない。


あとはその選択をできるかどうか。

さぁ、君はどうする?


なに、振られた?



あー……そうか。

いや、そのなんだ……私は恋愛経験がなくてね……。


まあ、うん。

気を……落とすなよ?


笑わなくたっていいだろう、まったく。

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