第5話 本気

side 森秋 千奈


「もう駄目。サイアク。萎え。終わった〜!!」


私は絶賛大後悔中である。


「もう絶対連絡してくれない…頭のおかしいヤツだって思われたもん。いきなり名前呼んで、いきなり口調変えて!」


土曜日の夕方で仕事もなく家でぐったりしながら「はあ…。」と息を漏らしているとスマホからピロンと通知が飛んできた。


「っ!? ツネトくんか!?」


私は急いでスマホを手に取りアプリのDMを開いた。


『久しぶり!覚えてる?今暇かな?』


くそが。


「なんやコイツ!どしたん話聞こか臭がプンプンするわ!即ブロです。誰ですか本当に。」


思わず関西弁が出てしまうほど腹の立つタイミング。

星の数ほど知らない人通話してきた私にとって一人一人覚えていられるわけない。そんなキャパないし。特別声が良くて、純粋で、気があって、話してて楽しいツネトくんは例外だけれど。


そうしているとまたスマホからピロンと通知が流れてくる。


「次は誰やねんっとぉぉぉぉ!?」


アプリのDM画面を開くと、そこにはツーネットという名前が表示されていた。


「な、なんだろう。変なこと言われるかな。絶対前のこと言及されるよね…。それはとても嫌です。でも話したい!」


私は恐る恐るDMの画面を開いた。


♡ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


side 美祢 ツネト


俺はそろそろ彼女に連絡を入れようと思う。どんな姿でも、俺は彼女と楽しく話した時間を覚えている。だからもう一度連絡するんだ。


なんか俺重くないか…?と思いつつもDMを送った。


『この間はいきなり切ってしまってごめんなさい。今夜また通話しませんか?』


送信。

すると通知が1件。


『いいよ。ただし、条件を三つつけていい?』


条件。なに、就職面接?バイトの採用試験?

いや、ここは地獄のインターネット。地獄にもルールはあるってことだ。


『聞かせてください。』


『①途中で切らないこと(回線落ちは許す)

②本名でお互い呼び合う。私の名前は千奈!!

③ 通話は0:00までには終わる。』


「優しいんだな。」


俺の名前は自業自得と言えど知られてるから、彼女も自分の名前を教えてくれたんだろう。これでフェアだってことだな。


俺は返信を返した。


『了解。じゃあ一旦俺も優しい千奈にひとつだけ言わせて。』


『前の通話、焦って切ったけど、俺はどんな千奈でも一緒に楽しく話せると思ってるし、話したいと思ってる。』


数秒、間が空く。

画面の向こうで、誰かが息を呑んだ気配がした。


『……それ、君が言うと反則だよ。

じゃ、22時。電話、かけるね。』


俺は自分で送った内容を見て冷静になると、すごく恥ずかしくて「うおおおお」と体を起こした。


♡ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


side 森秋 千奈


22時までの準備は戦いだ。

私はクローゼットの前で、人格のつまみを三つ上下に動かす。

• かわいげ:7

• ギャル味:3

• 打算:4(下げすぎると事故る)

「今日は“素直7:ギャル3”で行きます。CMYK配合かな?」


鏡の前で深呼吸。

口角、声の高さ、笑うタイミング。

完璧。

でも、完璧な女になりきるのはときどき寂しい。


ピッ——通話の発信音。


『もしもし、千奈?』


一言目で、喉が熱くなった。

やだ、声、好き。


『うん。ツネトくん、こんばんは。』

『この前は本当にごめん。焦ったよね。』


『……ちょっとだけ。

でも、切った後、自分の方が焦らせたかもって思って後悔したよ。』


沈黙。

その沈黙が、私を落ち着かせる。


『ねえ、今日は“質問ゲーム”にしよ。交互に一つずつ。嘘は禁止。』


『いいね。じゃあ僕から一問目。

千奈は、どうしてこのアプリを使ってるの?』


『——承認欲求が強いの、私。かわいいって言われるのが好き。でも、演じるのはもう辞めようかなって思ってる。』


『前回は俺の好きそうな喋り方をしてたってことなだね。』


『そう。いつもそうしてる。幻滅しちゃった?』


『ううん、むしろ千奈が演じ疲れちゃうなら俺の時は素でいて欲しい。そのままで、その、か、可愛いと思うから。』


『そ、そっか~』


は?可愛い?反則だって!!!


『つ、次、私の番!ツネトくんは、どうして最初、切ったの?』


『千奈の“ツネトくん?”が、本気に聞こえた。

遊びじゃなさそうで、逃げた。』


『ふふ。逃げ足は速いんだ。

……でも、戻ってきた。えらい。撫でていい?』


『音声で撫でる方法を発明してから言って。』


『じゃあ言葉で。よしよし。』


通話の向こうで、笑う気配。

やっと、私の緊張も笑いに溶けていく。


『二問目。ツネトくんは、現実とネット、どっちが怖い?』


『ネットは怖いと思ったけど、俺はきっと現実の方が怖い。ネットは切れても現実は切れないから。』


『わかる。

現実は“ログアウト不可”だもんね。』


少しだけ真面目な空気が流れた。

その静けさは、嫌いじゃない。


『三問目。千奈って、本当はどんな人?』


『カメレオンみたいな感じ?

でも、カメレオンも“日向ぼっこ”はする。

——ツネトくんと話すのは日向ぼっこみたいですき。』


言った瞬間、恥ずかしくてスマホで顔を覆う。

沈黙の向こうで、彼が息を呑んだ。


『……そ、そっか。俺は陽向みたいなものか〜』


『ね、最後の一問、私から。』


『どうぞ。』


『インターネット越しの恋って、本気になったら駄目だと思う?』


少しの間。

遠くで時計が一回、鳴った。


『駄目じゃないと思う。

だって僕は、今、恋ではなくても本気で話してるから。』


……ダメ。

今日の私は“素直7:ギャル3”の配合が甘すぎた。

心の奥の甘いところに、真っ直ぐ刺さる。


『じゃあ私も本気でいるね!ツネトくん♡』



◻︎

ついにヒロインが1人本気になりました。

とっくに本気なヒロインもいましたね。

もう1人超強いヒロインが現れる予定です。

☆とフォローで待機していてください。


あと慣れないながらも異世界ものを書きました。そちらの方も見ていただけると幸いです。

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