04「ネームド『隻眼』」
神殿を後にしたアポロは、あてどなく歩き始めた。
やがてたどり着いたのは、国境近くの猥雑な砦都。傭兵たちが酒を飲み、情報を交換し、次の戦場を探す場所。
生きる糧を得るため、そして、己の力を試すため、彼は傭兵ギルドの門を叩いた。
初陣は、小競り合いのようなものだった。
だが、敵の剣が迫った瞬間、アポロの身体は思考よりも速く動いていた。
思考と体躯を加速する力。時の流れが緩やかになり、敵の動きが手に取るようにわかる。腰の魔導銃サンダーボルトがアポロの魔力を吸い上げ、敵兵は紙屑のように吹き飛んだ。
彼は、己の内に秘められた力の大きさに戦慄した。同時に、生きていることを、これほど強く実感したのも初めてだった。
戦場から戦場へ。彼は感情を殺し、ただ引き金を引いた。いつしか、その圧倒的な戦闘能力と、決して感情を見せない隻眼から、彼はこう呼ばれるようになる。
「ネームド『隻眼』」
単独で戦況を覆す、規格外の狼。
彼は、失った過去を振り返る代わりに、血と硝煙の中に己の存在理由を刻みつけていった。
その隻眼に、かつて神殿で見た少女の笑顔や、神官の言葉が浮かぶことは、まだ、なかった。
ましてやその隻眼に憂いの色が浮かぶことなど、まだ誰も知らなかった。
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