新米死神ラセツちゃん その1
アジャラカモクレン・キュウライス・テケレツのパァ
うつつの人々が寝静まった頃、死生の大時計はなんとも奇妙な鐘の音を鳴らす。六六六の四四四九九九番地。ぬかるみ線の丑虎口を出た所に死神の教習所はある。
ラセツちゃん、ジゴクくん、オニシュラくんの三名が在籍しており、教官にあたる担当は狂缶という死神だった。今日は見習い死神の三名が適正テストを終え、どの担当に決まるかを狂缶から発表され実習に向かう、大事な日であった。教室では皆一様に緊張した様子で、ラセツちゃんは何度も座り方を正している。
ガラガラガラ、と教室の扉が開いて狂缶がやってきた。狂缶は死のしおりを教卓へ置き、開口一番にこう言った。
「今日はいよいよ皆さんの担当が決まる日です。どうですか心持ちというのは」
僅かな静寂の後、ラセツちゃんがこう言いよどんだ。
「あの~私ってほんとにテスト受かったんですか……?」
「はい。ラセツさんも、しっかり合格点に達していましたよ」
狂缶の言葉にラセツちゃんは心の中で嘆いた。とびきりの臆病屋で、本当は今日の実習から逃げたくて仕方ないからだ。
「さっさと教えろよ」
ジゴクくんがそう急かした。
「全くだ。何処であれやることは変わらない」
オニシュラくんも同調した。
「皆さん、もう少し喜びを露わにしても良いのでは? 抑制は死の隣人ですよ」
「死のリンジン? そりゃそうだろ俺たち死神だぜ」
ジゴクくんがそう返した。この口上は狂缶の口癖であった。
「では適正テストの結果を発表する前に、最後の問題を問います」
狂缶のその言葉で、教室には緊張が張り詰めた。
「私達の、最大の役目とはなんでしょうか?」
三名の沈黙の後にオニシュラくんが淡々と答えた。
「人間の死後、成仏できない魂をあの世へと送るため」
「素晴らしい。その通りです」
オニシュラくんはまんざらでもなさそうにピンと背筋を伸ばした。
「では何故、その役割が私達にあると思いますか?」
狂缶が真に問いたいのはそれだった。三名は予想だにしない問いに困惑するも、
「そう決まってるから」
「仕事だから」
ジゴクくんとオニシュラくんはそう答えた。
「どちらも良い答えです。ではラセツちゃんはどう思われますか?」
ラセツちゃんは頭の中で何個も答えを考えたが、そのどれにも自信が無く、もう顔が真っ赤になるまで迷った末に、導き出された答えはこうだった。
「さ、さみしいからですか……」
ラセツちゃんのその答えに一同が黙っていると、
「あ、さ、さみしいっていうのは……私のことじゃなくて……人間のことで……。想像でしかないんですけど……なんとなく、成仏できない魂って、さみしそうだなって……。だって、死んだのにあの世にも行けなくて、もし死神がいなかったら永遠に彷徨うことになるので……。それってなんか、とってもさみしいんじゃないかって……」
「なんだそりゃ」
ジゴクくんは笑った。ラセツちゃんは恥ずかしそうに顔を伏せた。
「なるほど……。分かりました」
狂缶は三名のそれぞれの答えを鑑みてから、
「適正テストの結果を発表します。まずオニシュラさん」
「はい」
「あなたの担当はオキアミです」
オニシュラくんは一瞬、困惑したがすぐに飲み込み口答えしなかった。
「次にジゴクさん」
「おう」
「あなたの担当はニワトリです」
「はぁ⁉」
ジゴクくんの明らかに不満げな様子に反応せず、狂缶は続けて、
「そしてラセツさん」
「は、はい!」
「あなたの担当は人間です」
「ニ、ニンゲン……? え、にんげん……人間⁉」
ラセツちゃんは面食らって、今にも倒れそうな様子で頭を抱えた。何故なら人間の担当は死神のなかでも最も位が高く、難しいものとされているからだ。ラセツちゃんは、その逆の最も仕事が無いと言われているダチョウ担当になる事を願っていた。
「これで皆さんの担当が決まりましたね。これから晴れて実習となります。何か分からない事があれば、この後私に聞いてください。では終わりの挨拶を」
ジゴクくんは恨みがましそうにラセツちゃんを睨みつけていた。当のラセツちゃんは魂が口から抜け出した様に唖然としていた。
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