コミュ障バッファー、ダンジョンに立つ(できるだけ後方に)
杜守幻鬼
第1話 コミュ障、バッファーになる
父さん、母さん、お元気ですか。僕はコミュ障です。
世界にダンジョンが生えてもう一年ですね。僕はまだ行ったことがありませんが、今日、暫定ダンジョン協会でスキル鑑定というものを受けました。
スキル、ってわかるでしょうか。簡単に言えば、ダンジョン内限定で使える魔法っていうか超能力っていうか、まあそんな、特技的なサムシングです。
人によって持っているスキルが違うそうですが、僕のスキルはちょっと珍しいやつでした。
バフ、わかりますか。入浴剤じゃないです。能力を引き上げたり付与したりする能力です。
バフスキル持ち自体は珍しくないのですが、僕の場合は
対象が自分以外限定でした。
☆
……うん! 現実逃避終わり!!
脳内で両親に手紙をしたため終わり、夏海崇(なつみたかし)は暫定ダンジョン協会の休憩スペースを出た。
世界にダンジョンなんていう、心の中の永遠の中学二年生が大歓喜大興奮のシロモノが現れたのは約一年前。しかもダンジョン内では、スキルなんていう、心の中の永遠の中学二年生が気絶しそうなアレも実在することがわかった。「鑑定」というスキル持ちが、ダンジョン外でも限られた範囲でスキルを使用でき、ダンジョン未経験者のスキルも大まかに鑑定できることがわかり、最近、一般人でも成人であれば鑑定してもらえるようになった。行かないわけにはいかない。一人行動が好きすぎて、いっしょに遊びに行くような友人はいない崇だが、行動は早い。
めっちゃレアスキル持ちだったらどうしよう、俺ソロでダンジョン行きたいから強いのがいいな、スキルがもし相手が死ぬようなはちゃめちゃ強いスキル(語彙は死ぬ)でソロ踏破とかできちゃったりして……伝説の探索者とかなっちゃったりして……あなたがあの孤高の……! とか言われちゃったりして……などと、夢だけは膨らんだ。だが結果は。
レアはレアだが、範囲対象がレアなだけのバッファーだった。レアというか、初めての事例らしい。
バフが、自分には効かない。
絶望的にソロには向かない。
ダンジョン、行ってみたかったなぁ……
寂しげに肩を落とす崇二十四歳。来月二十五歳、四捨五入して三十になる前に、今の平凡な会社員とは別の可能性を信じてみたかった。
だが、ダンジョンは危険なのである。魔物と呼ばれる存在が当然のようにいて、環境も厳しく、怪我や命の危険だってある。実際に死者も多いのだ。入り口付近ならほのぼのとしたものらしいが、それでもこんなスキルではほのぼのではない。ゲームの世界なら単体対象のバフなんか珍しくはないのに、現実ではイヤな方向にレアなんて。自己単体強化なら結構いるらしいので、そちらならよかったのに。
百歩譲って、気心の知れた友人がいれば、バフをかけて付き添いをお願いできたかもしれない。こんなときばかりは友人がいないことが悔やまれる。ああ、友人……
……いや、待てよ……?
崇はふと気づいた。
いるじゃないか、友人。
早速連絡を取るべく、彼はスマホを取り出した。
☆
『……というわけで、ダンジョンに付き合ってもらえないか!? 一回でいいから!! 怖いのは最初だけだから!! ね!?』
『おいwww 必死すぎるwww』
『お願いします!!!! 息子さんを僕にください!!』
『息子じゃないし下ネタに聞こえるwww』
崇が今、勇気を振り絞ってSNSでDMを送っているのは、五年来の「友人」かつ「戦友」である、『あきなん』だ。本名は知らない。
そう! 本名は知らない! 顔も知らない! ボイチャも使わないから声も知らない! ずっとネトゲに付き合ってくれているオンライン上のゲーム仲間である!!
『でも見たくない!? 実際のダンジョン!! あきなんもまだだよね!?』
『見たいよそりゃ。ていうかナツミちゃんが必死で面白いから言わなかったけど、俺普通に行っていいよ』
『ホント!? ありがとう!!』
『あ、これ、実質オフ会だ!』
『え……やめろよそう言われると緊張する……』
『www テンションwww』
『あきなん、美少女だったりしないよね……?』
『するかwww ナツミちゃんが美熟女ってのを俺は期待するけどな!』
『期待の熟し具合が逆に気になる』
なんだかんだと、あっさりダンジョン行きとリアル初対面が決まった。あきなんは当日スキル鑑定をするらしい。それからお互いに適した装備を協会でレンタルすることにした。
テンションに任せて待ち合わせの場所と日時を決め、一息ついたところで崇は気づいた。己の緊張に。
本当に美少女だったらどうしよう……虫を見るような目で見られたらどうしよう……俺、そんなひどい見た目じゃないよね……?
当日は少しおしゃれすることにして、崇は約一週間後の顔合わせとダンジョンを緊張しながら楽しみにするのであった。その間も毎日ネトゲでいっしょに遊ぶ訳だが。
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