擬神ダムネーションズ ~ゲテモノ揃いの黎明社~
綾川八須
0 逢魔ヶ時は見届けた-牢檻。
「
女声の呼び声に、孝里はトロトロとした闇から醒め、瞼を持ち上げた。まず視界に入ったのは、影と砂漠のような鮮やかなオレンジ。しかし地面は沈むような柔く微小な砂ではなく、粗く細かな隆起を繰り返す岩肌で、布越しであっても尻や太腿の裏がチクチクと痛んでいた。
自分がどうやら俯いているらしいことに気付いて、孝里は今の体勢を脳内で組み立てていく。座り込み、項垂れ、そして腕は背後で拘束されて何かに繋がれているらしい。客観的に見れば罪人のようである――しかしそれが事実であることを、孝里は干上がった大地に地下水が滲み出すかのように、枯渇した記憶をじわじわと思い出していた。
空気は冷たいが、炎のにおいが漂っている。周囲に松明が焚かれているらしい。この時代では松明など珍しい。時代錯誤な方法を用いて照らされるこの場が一体どこで何なのか、孝里は疑問を抱いた。洞窟の奥深くか、もしくは地下か。とにかく、電気が通っていないことは間違いない。
「起きたかい?」
女の声で目覚めたのに、すっかりその存在を忘れていた。孝里は痛む首を大儀そうにわずかに上げて、上目遣いに視線を伸ばしていく。影が規律正しい枠の形に切り替わって、やがて錆びた鉄の格子へと辿り着いた。
――ここは、
洞窟内もしくは地下の
「今の君、処刑される直前のお父さんにそっくりだね」
女を記憶を想起させながら、声に懐古を滲ませた。彼女が思い起こす当時の場面を孝里は知らないが、何年前のことなのかは理解している。
「……親子ですから」
「そう、親子だねえ。だから、こんな状況になってしまっている」
女は笑んだまま溜め息を鼻から漏らした。
「どうしてこうなったか、思い出せる?」
「……十年も前から、思い出さないといけないですね。でも多分、断片的にしか」
「そうかい。まあ、状況整理がてら、ゆっくり思い出してみると良い」
孝里は従順に、記憶の度に出た。
大勢の人々が通り過ぎて行く。景色が流れ、悍ましい異形の姿が混じる。泳ぎ、歩き、走る。そして、遡行の終着点――そして、この十年の旅路の出発点に辿り着いた。
夕日に燃え盛るような、白亜の病室。一床のベッドの上で、オーバーテーブルを境に向かい合うよう斜めに位置取る、二人の少年少女。広げられた作文用紙。光を放つ床頭台のテレビ画面。孝里は少年に溶け込むように憑依して、その日の追体験を始めた。
ざわざわと音が湧き立つ。作文用紙の題名は『将来の夢』。孝里の感情は退屈と憂鬱と、鮮烈な眩しさへの少しの煩わしさ。
俯いている孝里は、少女が口を開いたことにも気付かない。
「ねえ、孝里。私、死んだら何になると思う?」
――そうだ、この言葉だ。
始まりの決定打は、約束だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます