夜になりました。

夕凪あゆ

第1話


夜になると

胸の穴は 深く口を開ける

昼間は笑い声で覆い隠せたのに

暗闇はすべてを剥ぎ取って

痛みだけを残していく


街灯の下を歩くたび

影が長く伸びて

その黒だけが、私の居場所な気がするの。


星を見上げても

その光は遠すぎて

穴の奥には届かない

むしろ、夜空の広さが

わたしの欠けている部分を

冷たく照らし出す

そして、ただ欲を掻き立てる。


友達の声が頭をかすめる

「また明日」

その約束があるはずなのに

夜の中では

穴がそれさえ飲み込んでしまう

穴の中で、彼女が「消えて仕舞えば良い」

と囁いている。


どうしてこんなに痛むのだろう

どうしてこんなに私を映しだすの?


息を吸えば 冷たい風が

穴をさらに広げる

眠りにつくまで

わたしは夜と

同じ痛みを抱いている


夜になると

胸の穴は 静かに疼き出す

昼間は隠せた痛みが

闇のなかで輪郭を強めて

冷たい風を通していく


星は遠すぎて

触れることもできないのに

その瞬きは

たしかに空に存在していて

消えていないという証を

小さく投げてくれる


友達の笑い声を思い出す

「また明日」

その短い言葉が

夜の深さを少しだけ浅くしてくれる


穴はふさがらないし、痛みは消えないけど、

ひとすじの光とか

誰かの声が差し込むたび

その空白は冷たいだけの闇じゃなくなる


闇も光も全部私の姿で、全部愛してあげたい。

だから私は今日も、明日を願いながら眠りにつく。

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夜になりました。 夕凪あゆ @Ayu1030

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