現代で死んで現代に転生したはずだが、そこは知らない現代になっていた。

八咫

現代とは?

2025年も終わりに近づいている頃、今日も今日とて残業帰りの烏丸祐吉は同僚の橋田咲と帰宅していた。


「咲、お前はいつも助けてくれるが早く帰ってもいいんだぞ?」

「やることあったら早く帰らせてもらうけど、帰ったところでやることねぇんだ。仕事すりゃ金増えるし万々歳だろ?」

「働きすぎると上から言われるぞ?」

「昨日言われたばかり。」


咲はけらけらと笑って気にしていない顔を浮かべていた。

自分も咲のような生き方をしてみたいと思うがすぐにその考えを消した。

自分にはできないから、できていたら苦労などしてないからだ。


「そんじゃまたな祐吉。」


交差点、横断歩道を渡りながら手をぶんぶんと振り、こんな日常が明日も来ると思って帰っていく。自分もそんな日常が明日もあると信じて帰ろうとした。





「転生させてあげる。」

「……?」


言葉が出なかった。

いきなり景色が変わって、目の前には人がいて、転生させてあげると言われた。

……整理したくても無理だった。自分で言っていて意味が分からなかった。


「え…っと……?」

「ん? あぁ、君ね死んじゃったんだ。」


軽いな。少なからず軽く話すことではないだろう。


「咲君と別れてすぐ。君は交通事故で死んだ。」

「痛みなく死ぬなんて、よほど勢い余った車に轢かれたんだな…」

「そうですねぇ、300も出してたらそうなるんですかねー。」

「300!? レクサス買ったバカが遊んで出したのに巻き込まれただろ絶対!」

「うーん…私は詳しくないので知りませんがそうなんでしょう。

 可哀想なので転生させてあげますよ?どんなところにでもどうぞ、転生させてあげます。」

「……えぇ、じゃあ『現代』で。」


自分の回答にその人は目を見開いた。

本当にそれでいいのかとも聞かれた。

しかし、思う。


「こういうのは定番として魔法の使える異世界に行くのがいいんだろう。

 だが、そんなところで生きれる保証もないし、なんか不便を感じて嫌になりそうだから行かない。」


ぶっちゃけ、面倒なんだ。冒険者で魔物を狩るのとか、勇者にすらなりたくはない。だから、現代でいい。AIもいい意味でも悪い意味でも進化していて画期的で実用的な機械もある。人の世として働くのも商品の値段があまりに高いのも目を瞑れば、危険を冒すことなく楽に生きれる。戦いもない、平和な世界が、そこにあるんだから。


「……では、現代に転生します。」


最後に見たその人の顔は……笑っていた。


「…珍しい人だったなぁ。現代に転生って……になることやら。」




5000年ちょうど。

『和泉家』に長男として生まれた。


(おぉ、記憶を持ったまま生まれるとこんな景色なのか。)


口で泣いていながら生まれた時の景色をみて感動に近い感情を得ていた。

しかし、この現代が己の知る現代とはかけ離れていることをこの男はまだ知らない。


5005年。

つい最近、『和泉翔太』は五歳に至った。両親は自分を保育園や幼稚園に送ることはなかった。母が専業主婦だからか、家でよく世話をしてくれていた。父はサラリーマンのように見えるが仕事内でいい位置にいるのかお金はあるようだ。

そして、五歳になった贈り物なのか妹ができた。母が子を身籠り、自分は仕方なく保育園に向かわせる話が聞こえていた。


「いかなくてもいいよ。ご飯も作るよ。」


これでも昔は32歳の独身童貞おっさん……童貞は余計だな。一人暮らしスキルは身に着けていたんだ。

両親に家事ができるところを見せつけ一安心させる。

転生して役に立てるのはこういうところだろうな。そう思いながら、現在は家の掃除をしていた。玄関、廊下、トイレ、洗面所…と、順に掃除をしていて両親の部屋を掃除していた。

その時だった。


ガタンっ!


(まずい…かなり重い音がしたな、大事なものが傷ついてなければいいが……)


そんな不安を抱え、自分は音がしたほうに顔を向けた。

落ちていたのは、L字型で全体が黒く、先には小さなノズル…そして、いま生きている現代では御法度であろう物……『拳銃』がそこに落ちていた。


「……は?」


素っ頓狂な声を出さざるを得なかった。

拳銃…拳銃? 「あぁ、おもちゃか。なんだびっくりした。」と言いたかった。しかし落ちた衝撃か、マガジンが飛び出て、『実弾』もともに飛び出ていた。

頬をつねる。痛い。これは現実。 そう、『現実』……


「何か落としたの? あ、こら。翔太、それはお父さんのものだし危ないから触らないの。」


母は、これを見ても『普通』だった。この中でおかしいと感じているのは、たぶん自分だけだろう。母からは部屋を追い出され、違うところの掃除を任された……

夜になって、いつもの時間に父が帰ってきた。俺はその日から少し、両親に恐怖を覚えるようになった。


5006年。

妹、『和泉奈々』が生まれ、自分は晴れて小学一年生になる。

ここで己は知るかとになる……『外』がどうなっているのかを。

小学校は外見が普通…いや、外見普通だ。

授業項目に、算数、国語、歴史はある。しかし、『魔術、剣術、戦闘指南』と、自分が昔に通っていた小学校との授業とはかけ離れた項目があった。


「初めまして。東星学園に入ってきた未来ある勇敢な生徒諸君。私は、君たちの担任になった『八雲明奈』という。」


指定された教室で、女性教師が告げた。


これが『現代』? 転生した場所を間違えられたわけではなく? 現代とは……


「君、話を聞いているか?」

「すみません、現状に驚き、放心していました。」

「大人のような話し方だな…まぁいい。では、これから授業を開始する。」




______自分はこの世界で生きれるのだろうか…………

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