訳あり能力者たちの云々
ラプタ
第零話 「チュートリアル」
「新人くん、早く早く!こっちだよ〜!」
「⋯なんでお前の方がはしゃいでるんだよ⋯」
「え〜、だって私こうやって誰かに教えるって言うの初めてだし!いいじゃん!」
「だとしてももう少し落ち着け。ほら、新人も困ってるだろ」
そう言いながら申し訳なさそうにその人は僕のことを見てきた。そのため慌てて僕は返事をする。
「い、いえ、大丈夫です。では改めて、今日は指導お願いします」
「おー、やる気は十分だな。それじゃ、そろそろ出発⋯ほらお前ら、話してないで行くぞ」
「「はーい」」
そうして、僕たちはとある目的地⋯まあ、所謂廃墟なのだが、そこに向かうことになった。
そうして歩いて数十分ほど経って、僕はある疑問が思い浮かんだので質問する。
「⋯そういえば、今回なんで徒歩で廃墟に向かってるんですか?皆さんなら【異能力】を使うか、素の身体能力が高いので本気出せばすぐ着くんじゃ⋯」
そう言ったところで、「はいストップ」と突然制止させられてしまった。なにか言ってはいけないことを言っただろうか、なんて思っていると、パン、と男の人が手を叩いた。
「まぁ、その事については今から話すよ。⋯その前に!軽く自己紹介をしておこう」
そう言った瞬間、先程から元気いっぱいの女の子が「はいはい!」と手を挙げた。
「じゃあ私からしまーす!私は『二階堂 李咲』、仲良い人からは『サキ』って言われてます。よろしくね!」
「⋯普通こういう時は兄から言うものなんだと思うが⋯」
はぁ⋯、とその人はため息を吐きながらも、自己紹介を始めた。
「あー、なんか順番通りじゃなかったけどまぁいいや。⋯俺は『二階堂 優李』、サキ含む四人きょうだいの長男だ。よろしく」
そう言ってその人⋯いや、優李さんは僕に握手を求めてきた。【異能力】を宿していない、ただの凡人の僕にもここまで優しくしてくれるこの人たちのおかげで⋯心が温まる感覚がした。
「んー?ちょいちょい、私の事忘れてるでしょ」
すると、優李さん達の後ろにいる女性⋯いやまて、確かに忘れてしまっていた。なんというか見えなかったというか⋯。とりあえず謝っておこう。
「あ、す、すみません」
「ん、いいよ。冗談ジョーダあでっ」
女性の言葉を遮って、優李さんが軽くチョップをする。
「魔法使ってちょっと浮いて移動してるからだ、楽しやがって。言っただろ、一般人には魔法使ってるお前見えにくいんだって」
「はいはい、そんますん」
(な、なんだか仲良さそうだなあ⋯)
そんなことを思っていると、その女性はもう一度僕の方を向いて、口を開いた。
「ってことで、私は『西園寺 アクア』。お祭りとかにある射撃が得意だよ。よろしくね」
手を差しのべられたので、先程と同じように握手をする。
「じゃ、自己紹介も終わったし⋯さっき新人が質問してきたことについて答えようか」
僕たちは歩みを止めることなく、話を続けていく。
「まず、新人⋯お前は【異能力】を宿している者⋯【異端者】もしくは【能力者】のことについて、どれだけ知っている?」
「⋯⋯あー、えっと」
「あぁ、いや大丈夫。知らないのが当たり前だからな。じゃ、説明するけど⋯長いからな?」
フッ、と笑ったあと、優李さんは説明を続けた。
「まず、さっきも言ったが俺たちみたいな【異能力】を宿した者を【異端者】もしくは【能力者】と呼ぶ。能力者の中には【異能力】を二つ以上宿している“残機型”一つのみ宿している“単機型”この二種類に分けられる。まぁこれに関してはあんま考えなくて大丈夫だ。そして、能力者たちは強制的に[クラン]という組織に入隊させられるんだ」
「[クラン]は大きく二つに分けられていて、主に敵と戦闘するのが俺たちみたいな《専属クラン》に
所属しているやつらだ。んで、新人。お前みたいな一般人もクランにこうやって入隊するんだが⋯そいつらは専属クランには所属せず、あくまで補助。簡単に言えば⋯そうだな、縁の下の力持ちと言った所⋯⋯っ、なんだよ」
そこで、女の子⋯李咲さんが優李さんの口を手で抑えた。優李さんは鬱陶しそうに手を払い、問うが⋯李咲さんは不満を顕にした顔をしながら答えた。
「はい、そこまで!おにぃばっかりズルいから私も説明します!」
相変わらずの元気っぷりに、優李さんは呆れたようにため息を零したが、「⋯ほら、やるならやれ」と許可を出したため、今度は李咲さんが説明を始めた。
「じゃあ続けるけど、君たちみたいな一般人にも役割が二つに分けられてるんだよね。専属クラン所属の人達が戦ってる時に近くで見守って状況を報告し続けたり、何も知らない一般人を避難させたりさせるかなり危険な《報告係》。そしてもう片方が、戦闘が終わったあとの建物だったりを綺麗にする、もしくは直す⋯危険では無いけど大変な《隠蔽係》。新人くんは⋯」
そこで李咲さんが僕を見てくる。きっと、心配してくれているのだろう。僕だって本当は不安だけど⋯でも、そんな不安を消し飛ばすくらいの勢いで、僕は答えた。
「⋯はい。僕は《報告係》志願です」
僕がそう答えると、西園寺さんが「おぉ〜」と軽く拍手をしてくれた。なんだか少し照れくさい⋯。
李咲さんは心配が無くなったのか、ニコリと微笑んだ。
「うんうん、それだけの勇気があるならきっと大丈夫だね。ってことで私は説明するの疲れたのであとはアクアちゃんに任せま〜す」
「はーい任されました〜」
「⋯そこは最後まで説明しろよ⋯」
(ほんと、この人たちは仲良いなぁ⋯)
思わず微笑んでいると、三回目になるが⋯西園寺さんによって、またしても説明が再開された。
「ってことで説明役を任されたけど⋯私で最後かな?私が説明するのは、私たち【能力者】が相手している敵について。多いから頑張って覚えてよ〜?」
「は、はい」
「結論から言うと、敵は大きく分けて{魔獣}{魔族}
{シャイン}の三つでーす。じゃ深堀りしてくけど、魔獣にも種類⋯いや、種族と言うべきかな?があってね、まず、スタンダードな⋯魔族が動物を改造して生まれたのが見た目バリバリ化け物である『
「⋯話が脱線しちゃったけど、魔獣の中でも最も厄介なのが『霊獣』。こいつらはね、例えるならば⋯今はもう絶滅したらしいけど、『吸血鬼』だったりを指すかな。まぁ、霊だったり有名な妖怪だったりの事だね。以上!{魔獣}の種類はこれで終わり。あ、あと魔族も説明しなくていいかな?さっき言ったようなものだけど、魔獣を生み出したり操っているやつのことだね。こいつらも厄介でねー、知能があるんだよ。まぁ人間様を舐めるな!ってことでなんとか対抗してるんだけどね」
「そんなことはさておき、最後は{シャイン}について。はっきり言って、こいつらは意味不明!カスです!」
「おいおいおいおい」
「なに優くん、ホントのことでしょ?」
「まぁ確かにそうだけど⋯」
「邪魔が入ったけど、続けるね。{シャイン}はね、私たちと同じ【異能力】を宿してるの。本来ならクランに入るべきなのに⋯。なんか反乱起こしてくるんだよね。『自分たちがセカイを真の意味で救う光だ!』なんて、イタいこと言ってる連中。もう本当にウザイ。⋯⋯ま、こんなとこかな。説明は終わり!ほら、廃墟ももうそろそろだよ!」
歩きながら必死に紙にメモしていたのだが、どうやらもう着いてしまうらしい。メモをしまい、訓練で叩き込まれた行動をする為に僕は動き出す。
その時、優李さんが僕の肩を軽く叩いて、言った。
「じゃ、気張ってこうぜ。俺たちは中にいる魔獣をなんとかしてくるから⋯立派な報告係になる為の第一歩、頑張れ」
そうして、笑顔で三人は廃墟の中に入っていってしまった。
(期待、されてるんだな⋯)
僕は頬をパン!と叩き、気合を入れる。
そうだ、僕は⋯。
絶対に、立派な報告係になってみせる。
***
「⋯⋯っ、おにぃ」
「⋯いや、大丈夫。俺は大丈夫だから」
「でも⋯⋯」
アクアとサキが心配そうに俺を見てくる。
⋯あぁそうだよ、辛いよ。そして憎い。俺は⋯
優しすぎるんだ。それくらい、分かってる。
たった数回顔を合わせただけで、情というものが生まれてしまった。
俺はその墓に花を添える。
(⋯せっかく、一級報告係になったってのに⋯
なにやってんだよ、新人)
⋯いや、違う。もう彼は新人では無い。俺が色々とやらかしたこの二年間のうちで、ベテランになっていたのだ。
見たかった、彼を。彼の命が尽きる前に、その勇姿を見届けたかったのに。
「⋯俺は、上層部が嫌いだ」
「⋯私も。大嫌い」
俺の言葉に、アクアが賛同する。
「報告係には代わりがある、なんて考え方をしやがって。人間としての心がないんじゃないのか、
アイツらは」
一人そう吐き捨て、俺は墓の前で
彼は、仲間である⋯入隊したばかりのやつを庇って死んでしまった。
⋯ほんと、真面目で優しいあいつらしい最期だ。
そう思いながら俺は立ち上がり、後ろの方で待ってくれていたアクアとサキの元へ行く。
「⋯もう大丈夫なの?」
「あぁ、本当に大丈夫だ。いつまでもグズグズしてちゃ、新人にも、先生にも怒られるからな」
「⋯そっか。それじゃ、受けてる依頼やりに行きなよ。助けるべき人、いっぱいいるでしょ?」
「⋯⋯そうだな」
⋯見ててくれ、新人。
俺はお前みたいに、己の命を全力で燃やし続ける。
この復讐を遂げる、その瞬間まで。
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