新歓欠席


 7月9日に検査を終え、診察は7月14日。診察までのたった5日がまたしても私には遠い道のりに感じでいた。



 診察日までの間、相変わらず心身共にボロボロではあったが仕事だけはこなせていた。いや、こなさないと駄目だと必死だった。

 

 新人だから仕事を覚えないと。私には聴覚情報処理障害とかいう妙な枷があるかもしれないから、特に気を張って、もっと努力して、人一倍頑張らないと駄目なんだ……。


 そう思い、ぺーぺーの新人のくせに肩肘張り過ぎたのが駄目だったのかなと今は思う。



 7月12日に新人歓迎という名目で飲み会が行われることになっていたが、私はどうしても乗り気になれなかった。

 診断も出ていない今の状況では飲み会を楽しむことも出来ないし、大勢の人が集まる空間は聴覚情報処理障害の症状が顕著になりそうで怖かった。

 それにその頃はお腹の調子が悪く、食べたら直ぐに下痢をしていたのでそんな状態で参加するのも嫌だった。お店までもかなり遠く、下痢を抱えての車の運転もキツかった。

 欠席したいと思ったが、


 新人なのに参加しないのは今後に響くだろうか? 嫌なやつだと思われるだろうか?


 そんな風に考えてしまい、なかなか欠席の意思を上司に伝えられないでいた。

 だが意を決して上司に話し合いの場を設けてもらい、欠席をお願いした。上司は快くオッケーしてくれたのだが、その話し合いで違和感を覚えた。


“え? まだ聴覚情報処理障害そのことで悩んでたの? びっくりした。もう解決したと思ってた”


“でも仕事はちゃんと出来てるのに、何でそんな思い悩む必要があるのか分からない”


“仕事も出来てるし大丈夫、気にしなくていいよ”


 というのが上司の言葉の端々から伝わってきて、唖然とした。

 私は皆と同じように仕事をする為に、かなり努力をしているつもりだった。その努力や、聞こえづらさによるストレスは誰にも見えないかもしれないが、私にとっては大きな負担なのだ。だから「大丈夫」とか「気にしないでいい」と簡単に言われると、私の苦労を否定されたようで辛かった。

 結局私はまたその場で泣いてしまった。上司は泣く私を見て、No.2的な人と私の教育係の人には私の事情を話してくれると言った。なので私は、


「話しかける時は“あおじさん”みたいな感じで、声かけがほしいです」

「前方以外の方向から話しかけられると反応が出来ない場合があります」


 と新人のくせに配慮を求めたりした。



 そうして私の事情を知ってくれる人が増え、色々と配慮をしてくれるようになったのだが……結局“何だ、仕事出来てるじゃないか”みたいな空気になってそれもおざなりになっていった。

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