第2話

「遅いな、田中さん」


「まだ、待ち合わせの時間にはなってないよ」


 昨日、探索を終えて別れる際に、明日の12時にダンジョンに来いと言われたので二人で早めに来ていた。


 ふぁと欠伸をするアキヒロ。

 昨日の探索の後、思っていたより時間が余ったので、田中が兄弟に持っていけとお菓子を大量に買ってくれた。

 そんなに悪いですよと遠慮しようとしたのだが、何も考えてないかのように籠一杯にお菓子を乗せて会計を済ませてしまった。

 ほぼ無理矢理渡されたお菓子を手に保育園に迎えに行くと、妹のリナのテンションが爆上がりし、それが夜遅くまで続いたので寝れなかった。次の日の朝からバイトもあるので、遅くまで寝る事も出来なかった。


 おかげで寝不足だが、妹がはしゃぎ、弟も喜んでいたので田中には感謝しかない。


「アキはどんなスキルだと思う?」


「うーん、どうだろう、治癒魔法のスキルとかだと嬉しいかな」


「良いよな治癒魔法。昨日調べたんだけどさ、スキルの半分が外れスキルって呼ばれるモノらしいぜ」


「へーどんなのが外れなの?」


「視力アップとか味覚強化とか、珍しいものだと胃腸改善なんてものもあったな。とにかく部分的なモノは外れって言われてるみたいだ」


「それは嫌だな。無いよりは良いんだろうけど、せめて探索で使えるモノがいいな」


「だな、俺も剣技とか槍技とか武器で無双する系が良いな」


「無双するって、まあ期待するくらい良いよね。スキル知ったら、どうせガッカリするんだし」


「後ろ向きな事言うなよ、夢くらい見ようぜ」


 そんな会話をしていると、田中が重そうな体でのっしのっしと歩いて来るのが見えた。

 サトルも大きいが、田中はその一回り大きい。

 その大きさで、昨日は俊敏な動きを見せてくれた。ダンジョンで得た力なのだろうが、凄まじいと言う他なかった。

 見たのは数える程度だが、一瞬で移動してモンスターを倒していた。いずれ僕らもあんな事が出来るようになるのだと、興奮してしまったものだ。


 そんな田中が、片手を上げてようと言ってくる。


「おはよう、昨日は眠れたか?」


「俺はバッチリです! でもアキが眠そうで……」


「止めろよ。 僕は全然大丈夫なんで気にしないで下さい」


「なんだよ、自分のスキルが気になって眠れなかったのか?」


「いえ、その、昨日のお菓子で妹が喜んじゃって……」


 田中の冷やかしに真面目に返したアキヒロ。

 その返答を聞いて、田中は目頭を押さえた。


「ああ、違うんです。別にそれだけが原因じゃないんです。朝からバイトがあったってだけなんで……」


 それが更に追い討ちのようになり、田中は顔を手で覆った。

 小声で「朝からだらけてる俺って……」と何か呟いているが、よく聞こえなかった。


「まあいいや、早速スキルチェックしに行こうぜ」


「ギルドに行くんじゃないんですか?」


「そっちは探索者登録してないと見てくれないんだよ。だから登録してなくても、スキルを確認できる所を教えてやるよ」


 そう言って歩き出す田中の背を追って、アキヒロとサトルも歩き出した。

 こうして向かった先は、二人もたまに来るショッピングモールだった。

 このショッピングモールは、近くにダンジョンがあるせいか、多くの探索者向けの商店が入っている。勿論、普通のアパレルブランドや本屋に玩具屋、レストランやフードコートもあるが、四分の一は探索者向けの店だ。


 その中の一つ、武器屋もののふのうつわやに入店すると迷わずにカウンターへと進む。その横にはスキルチェッカーなる装置が置いてあり、一回百円とオモチャのような存在感を醸し出していた。


「あの……疑う訳じゃないんですけど、これでスキルが分かるんですか?」


 アキヒロの疑問に田中は自信満々な表情で答える。


「ああそうだ。俺も毎回確認してるから間違いない」


 途端に不安になったのは言うまでもない。

 別に信用してない訳ではないが、毎回というワードに引っ掛かりを感じるのだ。

 探索者協会に登録しているなら、協会で鑑定士にスキルを鑑定してもらえる。それなのに、わざわざここでする理由が分からなかった。


 ほら早くと言って、スキルチェッカーに百円投入する田中。

 互いに見合うと、無言でサトルが一歩前に出る。

 そして指差された所に手を置くと、ブンッと音が鳴りスキルをモニターに表示する。


ーーー

レベル 2

《スキル》

地属性魔法

《状態》

無し

ーーー


「おお?おおおああやったーーーっ!?」


 モニターのスキル内容を見て絶叫するサトル。

 いきなり叫び出したサトルに驚くアキヒロと田中だが、田中は画面を見て納得するが、アキヒロは何が良かったのかイマイチピンと来ていなかった。


「アキヒロは知らないのか? 魔法スキルは中々レアらしくてな、魔法スキルがあるだけでスカウトが来たりするらしいぞ」


 へー凄いですねと感心するアキヒロだが、俺は来た事ないけどなと田中が暗い感じで呟いていた。

 なんだが不幸が憑る気がして、アキヒロは一歩田中から離れた。


「アキ!俺はやったぞ!魔法スキルだぜヒャッホイ!!」


 ここまではしゃぐ友人を見るのは初めてだった。

 それだけ凄いんだなと思いながら、おめでとうと言ってお祝いする。


 テンションの上がったサトルは、何故か田中に抱きつこうとしていたが、片手で制されて、静かにしろと押さえつけられる。


「今度はアキヒロだ。 店主が睨んでるから早くしろ」


 カウンターを見ると、店主であるお爺さんが五月蝿いとこちらを睨んでいた。

 アキヒロは百円を投入すると、スキルの確認を急いで行う。


ーーー

レベル 2

《スキル》

雷属性魔法

《状態》

なし

ーーー


「あっ、僕も魔法スキルだ」


「なぬ!?」


 田中に制されながらも、でへでへと喜んでいたサトルは、アキヒロの呟きに反応して田中の手を振り切る。

 そしてモニターを見ると、雷属性魔法の文字。


「……もしかして、魔法スキルって珍しくないのか?」


 サトルはネットで見た情報との違いに困惑する。探索者向けのスキル紹介のサイトには、魔法スキルは百人に一人も居ないと書かれていた。

 それが二人も同時に得るというのは、記事を疑ってしまうくらいには、奇跡のような確率だった。


「田中さん、どうなんですか?」


 分からなければ知っている人に聞けば良い、そう判断したアキヒロが田中に尋ねる。


「そうだな……。前に魔法の講座を受けた事がある。受講者が五十人くらい居たんだが、その中で魔法スキルを持っていたのは五人だけだった。 残りの人は、どうにかして魔法が使いたくて来たって人達だったな」


「十人中一人か……全然珍しくないじゃん」


「サト、それは違うよ。魔法の講座に参加した人達で五人なんだ。十人に一人とか、そんな簡単な確率じゃないよ。やっぱり魔法スキルは珍しいんじゃないかな?」


「そうなの?」


 サトルの問い返しに頷くアキヒロ。

 するとサトルは、うしっと声を上げて拳を握り嬉しさを表現する。アキヒロも段々と嬉しくなり、やったと言って満面の笑みを浮かべた。


 やがて二人は顔を見合わせ、ハイタッチで互いに祝福する。


「なあ、魔法使いって言えばやっぱり杖だよな!?」


「そうだね、杖だね」


「どうよこの杖! 俺にピッタリじゃないか!?」


「うん、かっこいいよ!これなら女子も、サトを放っておかないよ!」


「マジでか!? 俺、これ買っちゃおっかな〜?」


 サトルはチラリと田中を見る。

 だが、田中は何の反応も示さず、ただ二人を見て腕を組んでいる。


「俺がこの杖持ったら、大魔法使い間違い無しだな〜。欲しいな、欲しいなー」


「おい」


「はい、何でしょう!?」


「金は持ってるのか?」


 じっと眺めていた田中が反応したと思ったら、直接的な言葉を投げかけて来る。

 サトルは杖を買って貰えないかと、期待の眼差しで田中を見ているが、それはいくら何でも無理だろとアキヒロは思った。


「……いえ、持ってないです。でも、これがあれば直ぐに稼ぐ事が出来ます!」


 無理のあるプレゼンを始めるサトル。

 どこにその言葉を信じるだけの実績があるのかとツッコミたくなるが、田中は敢えてスルーをしてやる気が出そうな言葉を選んだ。


「お前な、そんな事して手に入れた武器で戦って楽しいと思ってるのか? 探索者ってのはな、自分で稼いで、装備を充実させて、凶悪なモンスターを倒して、成長して、また稼いで装備を充実させて行くんだ。その過程で色んな事を学んで楽しんで、人として大きく成長するもんだぞ。その楽しみを俺の手で奪えって言うのか? よく考えて想像してみろ。これから探索者になるお前は、仲間と一緒に困難を乗り越えて格好いい男になるんだ。それが最初に与えられた杖のおかげだって言われたらどうだ? 常に俺の顔がチラつくんだぜ、嫌だろそんな未来」


 長々と語られた田中の言葉だが、確かにと納得する。

 何かに付けて田中の顔が思い浮かぶなんて、どんな拷問だと震え上がってしまう。

 それに、語られた探索者としての醍醐味はゲーマーなサトルの琴線に触れ、感動した様子だ。


「すんません田中さん!俺が間違ってました!」


 涙を流して田中に謝罪するサトル。田中は気にすんなと肩をポンと叩いていた。

 僕は何を見せられているんだろうと、ただ茫然としているアキヒロだった。


 サトルは杖を戻すと、頑張ろうぜとアキヒロの肩を叩く。その目はキラキラしており、青春してるなぁとアキヒロは思った。


 田中は気を良くしたのか、更に言葉を続ける。

 お金が出来たらギルドに登録しろとか、それによるサポートは必要だから絶対しろとか、金が無いなら尚更しろと言って来る。

 長居しているせいか、店主の視線が段々とキツくなって来ている。場所変えましょうと提案しようとすると、武器屋に同級生が入って来た。


「……お前ら、こんな所で何やってんだ?」


 その人物の名前はカズヤ。

 カズヤとは中学からの付き合いで高校に入学した当初は、正確には一学期の間は普通に会話していたのだが、夏休みを明けた途端まるで人が変わったように近寄り難くなっていた。一時的なものかと見守っているのだが、幼馴染の女の子以外とは殆ど会話しないので、最近は関わりが無くなっていた。


「おう、カズヤやんけ!」


 説明を中断した田中は、まるで珍獣を見つけたようにカズヤに反応した。

 この二人は知り合いなのかと疑問に思い聞いてみる。


「あの、田中さんはカズヤと知り合いなんですか?」


「おう、お前らもカズヤ知ってるのか?」


「えっと、同級生です」


「何だよ、友達かよ。学校でも痛い感じなのか?」


「痛いって言うか、何だか雰囲気が変わって近寄り難くなりましたね。中学の頃は一緒に遊んだりしたんですけど、何だか別人のようで……」


「それは厨二病だな。間違いない、見ていて痛い奴は大体厨二病だ」


「いや、厨二って言うのじゃなくて、いつもピリピリした空気を出して、何を考えているのか分からないんです」


「それが厨二病だ」


「お前ら、散々人を厨二呼ばわりしやがって、いい加減にしろよ!」


 カズヤは厨二呼ばわりされて怒り田中を威嚇するが、片手で頭を抑えられて前に進めなくなる。

 離せ!と腕を叩くがまるで効いた様子が無い。

 田中とカズヤの力差があり過ぎて、ビクともしないのだ。


 そんなカズヤに田中はある事を尋ねる。


「なあカズヤ、あの子とはどうなったんだ?」


「…………何の事だ?」


「ああごめん! いい言わなくて!今ので分かったから!」


「……」


「それでさ、お前は今一人で潜ってるのか? 別に嫌味じゃないぞ、確認のためだ」


「ふん!馬鹿にするなよ!一人で13階まで行ってるんだ!俺は一人でも先に行けるんだ!今に見てろよ!」


「おうそうか、そりゃ凄いな。 ところで話は変わるんだが、仲間募集してないか? 魔法スキル持ちが丁度二人いるんだが」


「……なに?」


 その後、場所を変えて話そうという事になり武器屋を出る。武器屋の店主から「やっと喧しいのが帰るわい」と安堵の表情で見送られたのは言うまでもない。





 場所を変えてフードコートに来ている。

 昼時ということもあり人が多いのだが、運の良いことに一つ空いていたので座る事が出来た。

 食事は田中が奢ってくれると言うので、遠慮なくサトルとカズヤは注文していた。アキヒロは昨日の事もあり遠慮しようとしたが、田中に無理やり注文させられた。


「遠慮すんな、成長期なんだから食えるだけ食え」


 この時の田中は、何だか頼もしい大人の男に見えた。


「なあ、本当に魔法スキル持ちがいるのか?」


「ああ、この二人だ」


 訝しんでいるカズヤだが、魔法スキル持ちがアキヒロとサトルだと言われて、更に疑いの目を向ける。


「あのな、さっきも言ったが、俺は一人で13階まで潜ってるんだ。これからも深く潜るつもりでいる。嘘言って足手まといを押し付けられても困るんだが」


 余りの一方的な物言いにサトルが反応するが、それを田中に制される。


「まあ待て、魔法スキルは嘘じゃないさ。この二人は間違いなく魔法スキル持ちだ。 それになカズヤ、こっちから見れば、一人で13階まで潜れるってのも怪しいんだぜ」


「なに?」


「本当に一人で!そこまで潜る実力があるなら!足手まといが居ても関係ないよなぁ!?」


「当たり前だ!その程度で、俺の歩みを止められると思うなよ!」


 立ち上がり大声で罵り合う二人。

 注目されて恥ずかしいから止めてくらないかなと、アキヒロとサトルは下を向いてジュースを飲んでいた。


「じゃあ二人をよろしく」


「ああ、俺に任せろ!」


 アホだなこいつ。アキヒロの中でカズヤに対する印象が変わった。


 少しすると自分の言動の不味さに気付いたのか、冷静になったカズヤが真面目な顔で聞いて来る。


「なあ、本当に魔法スキルを持ってるんだよな?」


「疑り深いな。大丈夫だ、さっき調べたからな」


「探索者カード見せろよ。あれを見れば信用出来る」


「探索者カードは無い」


「何だと?」


「金がなくてギルドに登録してないんだよ」


 カズヤに何故登録していないのか事情を説明をする。

 アキヒロは家庭の事情で金が無く、それでも家族のために何とかしてお金を稼ぎたいという思いから探索者を志した。

 サトルはとにかくモテたい。女の子にモテたい、女の子と仲良くなって良い事がしたいとい邪な感情からだと説明する。


 そうかとカズヤは納得する。そして、


「アキヒロ、大変だったな。俺に任せろ、しっかりと稼がせて家族を楽にさせてやる。

 サトル、お前はクズだ!恥を知れカス野郎!」


 いきなり罵倒されたサトルは驚き、シュンと落ち込んでいる。

 アキヒロに比べて事情が邪なだけに、自分でも自覚があるので言い返す事が出来なかった。


「まあまあ、その辺りにしとけ。 魔法スキルを持っているのは間違いないんだし、仲間になるって事で良いだろ?」


「そうだな……。いや、ダンジョンに行って確かめてからだ」





 ダンジョン11階


 アキヒロとサトルはゴブリンを相手に立ち回る。

 相手は二体と同じ数ではあるが、人に比べて身体能力の劣るゴブリンだ。

 しかし、人を殺すのに躊躇の無いモンスターでもある。

 昨日戦って分かってはいたが、アキヒロ達にとって強敵と呼んで差し支えないモンスターでもあった。


「このっ!」


 ロングソードを大きく振り回すが、ゴブリンに距離を取られて当たらない。


「ギギッ」


 馬鹿にしたように笑うゴブリンを必死に追うアキヒロ。追いかけては剣を振るが、当たる事は無く体力だけが消耗していく。サトルも同じようなもので、必死に振り回しても掠りもしない。

 昨日初めて武器を持ったのだと考えると、この結果は妥当なのかも知れないが、ここは命のやり取りをするダンジョンだ。負けは死に繋がるのだ。


「だあーっ!!」


 アキヒロは方向を変え、サトルを刺そうとするゴブリンに突撃を仕掛ける。

 横目でサトルを見ていて良かった。

 もしもあのままだったら、サトルはかなりの傷を負っていただろうから。


 アキヒロのロングソードがゴブリンを貫き、勢い余って一緒に倒れる。急いで立とうとするが、目を離したもう一体のゴブリンに棍棒で殴られた。


「ぐっ!?」


 再び地面に倒れるアキヒロ。

 更に殴ろうとするゴブリンに、今度はサトルが突撃して体を貫いた。


「はあはあはあ……」


 息を切らした二人は、互いに見合ってニッと笑う。

 無様ではあった。泥臭くて、戦いと呼べるようなものではなかったかも知れない。それでも二人は見事に勝利した。


「お疲れ、ほいポーション」


「ありがとうございます」


 田中からポーションを受け取り、一気に飲み干す。

 ポーションも昨日初めて飲んだが、体の中に染み渡るような気がして、癒してくれるような感覚があった。

 それを今回は、強く感じる事になる。

 ゴブリンに殴られて傷んだ体から、痛みがスッと消えたのだ。


「これがポーション……」


 アキヒロは自分の体を確認して、どこにも痛みがないのを確かめる。

 凄い、そう呟いてポーションが、ただの飲み薬でない事を理解する。


「カズヤ、どうだお前的には?」


 腕組みをして、じっと二人を見ているカズヤに田中が問いかける。


「そうだな……これを使って、もう一度魔法を使ってみろ」


 そう言って手渡されたのは、タクト型の一本の杖。

 モンスターと戦う前に、一度魔法を使って見せている。その時は無手で行い、アキヒロは静電気を起こし、サトルは何も出せずに魔力切れを起こした。


 杖を持ったところで何が変わるのか知らないが、アキヒロは全力で魔力を雷に変えて放った。


 バチッと鳴り、雷が光の線となり走る。

 それは威力のある魔法であり、モンスターにも通用する殺傷能力を保持していた。


「なんだそれ! 俺にも貸してくれ!」


 サトルが興奮気味に、アキヒロの手から杖をを奪い取る。そして魔法を使うと、コロコロと小石が飛び出して魔力切れを起こした。


「ぐへぇ、何で俺だけ石ころ……」


「地属性魔法は強力な分、魔力消費が多いからな仕方ないさ」


 カズヤが落ち込むサトルに淡々と説明する。

 どうしてそんなこと知っているのかと疑問に思うが、カズヤは杖を拾って田中に渡そうとする。


「俺はいいよ、必要ないからな」


「何でだ? お前の実力も見ないと、パーティ加入の判断が出来ないだろ?」


「いやいや、俺は入らないよ。最初から言ってるが、この二人だけだ。 それに、俺みたいな年上が入ったら気まずいだろ?高校生同士で組んだ方が楽しいぜ」


「いや、お前もそう歳は変わらないだろうが」


「何言ってんだ? 俺は今年で24だぞ」


 田中のまさかの年齢に驚く三人。

 いやいやそんな、見た目が、見た目が俺達と変わらないじゃんとは三人の声だ。


「はい嘘ー! 田中さん、いや田中! そんな嘘言っても誰も信じないぞ!」


「僕も無理があるかと……」


「大人になりたい気持ちは分からんではないがな、お前は鏡を見た方が良いぞ」


 三人の声にたじろぐ田中。

 まさか本当のことを言って、否定されるとは思わなかった。だから、しっかりとした身分証を見せて、納得させようと試みる。


「嘘じゃねーよ! ほら運転免許証!」


 しかし、その運転免許証に写っている写真は、田中と似てなくはない偽物だった。


「はいまた嘘ー!てか偽物じゃん!」


「流石に偽造はまずいんじゃ……」


「お前な、これで騙せると思ってんのか? 鏡見てみろ、この写真の人痩せてるじゃないか」


「バカヤロウ! 正真正銘本物だ!」


 ムキになると尚更怪しく思えて来る。


「探索者カード見せろ、あれの偽造不可能だからな、あれを見せれば信じてやる」


 カズヤが提案するのは、特殊な手法で作られた探索者カードを見せる事。探索者カードには名前や年齢、レベルにスキルといった探索者として重要な個人情報が記載されている。

 また特殊な手法で作られただけあり、偽造は不可能で、新たに記載するのも探索者協会以外では不可能である。


「……持ってねーよ」


「は?」


「だから持ってないって言ってんだよ。俺には必要なかったからな、登録してないんだよ」


 まさか人にあれだけ登録するように勧めていたのに、本人がやっていないなど到底信じる事は出来ない。


「はいまたまた嘘ー! スリーアウトチェンジ!」


「いくら何でも、それは無理があるんじゃないですか?」


「嘘を吐くならもっとマシな嘘をつけ。まともに相手してるのが馬鹿らしくなるぞ」


「ぐぬぬぬ、ガキども……」


 歯軋りをして悔しがっている田中だが、こんなあからさまな嘘を大人がつくとは思えず、やはり皆信じていなかった。


 やがて田中はふうと息を吐いて落ち着くと、話を戻そうと提案する。


「話が進んでいないから、俺の年齢がどうとかは忘れろ。埒が空かん。 それでどうなんだカズヤ、こいつらは合格か?」


 問われたカズヤは腕を組むと、右手を伸ばし左目に軽く触れる。

 あっどこかで見た事あるな、そのポーズ。なんてツッコミたいサトルだが、場の雰囲気がカズヤに集まっているため口をつぐむ。


「まだまだだが……まあ、及第点だ。よろしく頼む」


 上から目線だが、カズヤはアキヒロとサトルを認めた。

 アキヒロはほっとしているが、サトルは微妙な反応をしている。

 アキヒロは仲間が増えて安心というものだが、サトルは単純に、俺の活躍の場を奪うんじゃないだろうなとアホみたいな危機感からだった。


 こうして同級生三人で、新たな探索者パーティが結成されたのだった。

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