視線の先の色
雨宮ロミ
視線の先の色
私の視界は真っ暗だ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
腕を枕にして、机の上に突っ伏したまま、顔を上げられない。
前の席の、大好きな佐山くんが、今日は休んでくれますように、って願ってしまう。
私の頭の中では、これまでのことが、ぐるぐると巡っていた。
―――
「相沢さん、喋るの、初めましてだよね。よろしくね」
席替えで前の席になったのは。クラスの人気者、キラキラの佐山くん。
「は、はい……」
私は、そんなもごもごした返事をして、目を合わせずに、俯いた。そんな、絞り出すようなはい、しか出てこなかった。目の前で私の髪の毛が揺れる。
自分に自信がなくて地味な私なんかが佐山くんの近くの席、だなんてなんだか申し訳なくて。どうすればいいのか分からなかった。
「相沢さん、顔、よく見せて」
「え……?」
なんだか、魔法のような柔らかい響き。私は、ゆっくりと、顔を上げる。
目の前に、少女漫画の男の子、みたいな、佐山くんの笑顔が映っている。綺麗な顔。
「俯いているから、顔、ちゃんと見てみたいな、って思ってたんだけど、ずっと思ってたんだけど。すごく、素敵だね」
長めの前髪越しの、ふわ、っとした柔らかい笑顔の佐山くん。私の心臓が甘く跳ねる。
私の視線は、その日から、下から前に向けられるようになった。佐山くんが振り返って、こちらを見てくれる時間を、逃さないように。そして、佐山くんとも話すようになった。
そして、思った。前髪越しじゃない、佐山くんを見たいって。
急に、気まぐれに思い立つように、洗面台に向かった。
ぱち、ぱち、ぱち、と前髪を、切ってみる。 佐山くん、何て言ってくれるかな。期待しながら、前髪を切った。
「なに、これ」
出てきたのは絶望したような声。鏡に映っていたのは、ガタガタの前髪の私。
――
それが、ここまでの、こと。
「どうしたの?」
私の願いも空しく、佐山くんの、柔らかい声が聞こえてくる。顔を、上げられない。恥ずかしい。顔が赤くなる。
「……前髪、切りすぎて、変になっちゃった」
「そうなの? 見せて」
「……だ、だって、ほんとに、変だから……」
「変じゃないよ。相沢さんだったらどんな髪型だって似合う」
恥ずかしがりながら、顔を上げる。佐山くん、馬鹿にするかな、おかしい、って笑うかな。
佐山くんと、一瞬目が合う。けど、佐山くんの視線は、すぐに下がってしまった。
「やば、すっごい、かわいい。似合ってる」
私の顔は、真っ赤になっていた。
視線の先の色 雨宮ロミ @amemiyaromi27
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