第20話永遠の約束





公爵領の復興計画が順調に進み、クラリティとガルフストリームは新たな挑戦を共に乗り越え、公爵家の未来に明るい希望を抱いていた。しかし、これまで形式的だった夫婦関係を完全に超え、本物の絆で結ばれるには、最後の一歩が必要だった。そんな中、二人にとって特別な出来事が訪れる。



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特別な招待状


ある日、ガルフストリームの元に、隣接領地の侯爵家から正式な招待状が届いた。それは、侯爵家の娘の婚約披露宴への招待状だった。この披露宴には、公爵家をはじめとする領主たちが集まり、新たな同盟や関係性を築く場として期待されていた。


「行くべきだろうな。」

ガルフストリームは招待状を見つめながら呟いた。その声には、どこか迷いが含まれていた。


「もちろんです。こうした場は、公爵家の立場を示す良い機会です。」

クラリティは迷わず答えた。彼女もまた、公爵夫人としての責任を果たすために、こうした社交の場に積極的に出席する必要性を感じていた。


しかし、ガルフストリームは静かに首を横に振った。

「君がこの場に出ることで、彼らに狙われる可能性がある。特に、君を傷つけようとする者がいるかもしれない。」


その言葉に、クラリティは一瞬驚いたが、すぐに微笑んだ。

「私はあなたと共に行きます。それがどんな場所であっても、あなたの隣で公爵夫人として立つ覚悟があります。」


彼女の揺るぎない言葉に、ガルフストリームは少しだけ笑みを浮かべた。

「分かった。ならば共に行こう。だが、何かあれば私が必ず守る。」



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婚約披露宴の舞台


婚約披露宴が開かれたのは、侯爵家が所有する壮麗な城館だった。煌びやかな装飾が施された会場には、領主や貴族たちが集まり、華やかな雰囲気に包まれていた。


クラリティは、美しい青のドレスに身を包み、堂々とした態度で会場に現れた。その姿に、周囲の貴族たちが驚きと尊敬の眼差しを向けた。これまで「形だけの夫人」と囁かれていた彼女が、今では自信に満ちた公爵夫人としてその場に立っていたからだ。


「君がいるだけで、この場が輝いている。」

ガルフストリームは彼女に静かに囁いた。その言葉に、クラリティは小さく微笑み、彼の腕を取り歩き出した。


会場では、さまざまな貴族たちがクラリティに声をかけてきた。その多くが、彼女が公爵領の復興に大きく貢献しているという噂を聞いてのことだった。彼女は穏やかな態度で一人一人に応え、彼らの心を掴んでいった。



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陰謀の影


しかし、華やかな宴の裏には、依然としてクラリティを快く思わない者たちが潜んでいた。隣接領地の中には、公爵家の復興とクラリティの台頭を脅威と見なす者も少なくなかった。


その夜、クラリティが一人でバルコニーに出て星空を眺めていると、不審な足音が聞こえた。振り返ると、一人の男が近づいてきていた。その男は侯爵家の使用人のようだったが、どこか様子がおかしかった。


「奥様、少しお時間をいただけますか。」

そう言いながら、男は手に持っていた小さな包みを差し出した。中身が見えないそれに、クラリティは警戒心を抱きながらも、冷静に答えた。


「その包みは何ですか?」


男は答えず、包みを無理やり彼女に押し付けようとした。その瞬間、後ろから鋭い声が響いた。

「そこで何をしている!」


振り返ると、そこにはガルフストリームが立っていた。彼はすぐさまクラリティの前に立ち、不審な男に向き合った。


「奥様に危害を加えようとする者が誰であろうと、容赦はしない。」

その言葉に、男は怯えた様子を見せ、すぐにその場から逃げ出した。ガルフストリームは騎士たちを呼び、不審な男を追わせた。



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二人の絆の深まり


ガルフストリームは、クラリティの安全を確認すると、静かに彼女の手を取った。

「君に危険が及ぶことは、私には耐えられない。」


彼の真剣な表情と言葉に、クラリティは胸が熱くなった。

「あなたが守ってくださると信じていました。私は怖くありませんでした。」


彼女の言葉に、ガルフストリームは少し驚きながらも、微笑んだ。

「君は本当に強くなった。いや、もともとその強さを持っていたのかもしれない。」


二人は静かに見つめ合い、これまでの形式的な関係を超えた、深い信頼と愛情がそこに存在していることを感じた。



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永遠の約束


婚約披露宴が終わり、屋敷に戻った二人は夜空を見上げながら語り合っていた。ガルフストリームは、静かにクラリティの手を取り、優しい声で言った。


「クラリティ、君と出会い、君が私の隣にいてくれることで、私は変わることができた。これからも、共に歩んでいってほしい。」


クラリティは彼の瞳を見つめ、静かに頷いた。

「もちろんです。私は、どこまでもあなたと共にあります。」


その言葉に、ガルフストリームは満足そうに微笑み、彼女をそっと抱き寄せた。


こうして、形式的な結婚から始まった二人の関係は、真の愛で結ばれた夫婦となったのだった。

その夜、月光が二人を優しく包み込む。クラリティは彼の肩にそっと頭を預け、静かに囁いた。


「あなたと共に歩めるなら、どんな未来でも恐れません。」


ガルフストリームは彼女の手を握り返し、穏やかに微笑んだ。

「では、共に見に行こう。――我々の築く未来を。」


遠くで風が鳴り、夜空の星々が祝福するように輝いていた。

その瞬間、二人の間にあった“形式”という壁は完全に消え去り、

ただ、ひとりの男とひとりの女として、深く結ばれた――。


翌朝、朝日が差し込む執務室で、ガルフストリームは新たな地図を広げた。

それは、公爵領と周辺地域を繋ぐ新しい交易路の計画図だった。

隣に立つクラリティの瞳には、確かな決意の光が宿っている。


「ここからが本当の始まりですね。」

「――ああ。我らの手で、この地に永遠の繁栄を。」


そして、ふたりは手を取り合い、新たな時代へと歩み出した。

かつて形式だけの夫婦だった彼らは、今や領地を導く真の“公爵と公爵夫人”として、

誰もが羨む絆で結ばれたのだった。


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白い契約書:愛なき結婚に花を みずとき かたくり子  @yuru2025

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