第14話新たな旅立ち

エンツォとの戦いに終止符が打たれた日、ラファエラは静かな庭園で一人たたずんでいた。冷たく暗い婚姻生活の中で耐え抜き、ついにその影から解放された彼女の心には、これまで感じたことのない安堵と自由の感覚が広がっていた。しかし、その一方で、これからの自分の未来をどう切り開いていくのか、明確な答えはまだ見つかっていなかった。



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屋敷を去る決断


翌朝、ラファエラはレオナルドを自室に呼び出した。彼女の顔には決意が宿っており、彼に相談したいことがあると切り出した。


「レオナルド、私はこの屋敷を出ることを考えているの。」


彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な顔つきに変わった。


「ラファエラ様、突然どうして……?」


「ここは私にとって、エンツォの影が色濃く残る場所。彼がいなくなったとはいえ、この屋敷に留まる限り、私は本当の意味で自由にはなれないわ。」


ラファエラの言葉には、冷静な分析と強い意志が込められていた。レオナルドはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。


「おっしゃる通りです。ラファエラ様が新たな人生を歩まれるには、ここを離れるのが最善かもしれません。ですが、行き先は決めていらっしゃるのですか?」


「まだ具体的な場所は決まっていないけれど、自分の力で歩んでみたいの。どこかで、新しい自分を見つけるために。」


レオナルドは彼女の目を見つめながら答えた。


「それなら、私もお供させていただけますか?ラファエラ様の新しい人生を支えたいと思っています。」


彼の申し出に、ラファエラは一瞬驚いたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「ありがとう、レオナルド。あなたがそばにいてくれるなら、私も心強いわ。」



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使用人たちとの別れ


屋敷を去る日、ラファエラは使用人たちを呼び出し、自分の決断を伝えた。長年仕えてくれた彼らに感謝の言葉を述べながら、彼女の心には少しの寂しさもあった。


「皆さん、これまで本当にありがとうございました。この屋敷を去ることになりましたが、私の心にはいつも皆さんとの思い出が残るでしょう。」


使用人たちは涙を浮かべながらも、彼女の新たな旅立ちを祝福した。


「ラファエラ様、どうかお元気で……私たちはいつでもあなたの幸せを祈っています。」


その言葉に、ラファエラは深く頭を下げた。そして、屋敷の門をくぐり抜けるとき、振り返って静かに呟いた。


「さようなら、私の過去。」



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新たな土地での生活


ラファエラとレオナルドが向かったのは、王都から少し離れた静かな地方の街だった。華やかさこそないものの、緑豊かな自然と穏やかな人々に囲まれたその街は、ラファエラにとって新しい人生のスタートを切るには理想的な場所だった。


二人は小さな家を借り、新しい生活を始めた。ラファエラは、自分自身の力で生計を立てるために地元の商人たちの手伝いを始めた。これまで貴族としての役割に縛られてきた彼女にとって、地に足をつけた生活は新鮮であり、充実感を与えるものだった。


「これが……本当の自由というものなのね。」


彼女はそう呟きながら、小さな庭で咲く花々を見つめた。そのそばには、レオナルドが微笑みを浮かべて立っていた。



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愛を選ぶ瞬間


ある日の夕暮れ、ラファエラは家の前でレオナルドと共に並んで座っていた。空がオレンジ色に染まり、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる中、彼女はふとレオナルドに向かって言った。


「あなたがここまで一緒に来てくれたこと、本当に感謝しているわ。」


「私はただ、ラファエラ様が幸せでいることを願っているだけです。それが私の喜びでもあります。」


彼の言葉に、ラファエラは少しだけ照れたように笑った。そして、静かに目を閉じて言葉を紡いだ。


「もし……私があなたと共に生きていくことを選んだら、あなたはどう思う?」


レオナルドは驚きながらも、その言葉をじっくりと噛みしめるように考え、静かに答えた。


「それ以上の幸せはありません。ラファエラ様、私はこれからもずっとあなたをお支えします。」


その言葉に、ラファエラの目には涙が浮かんだ。しかし、それは悲しみの涙ではなく、これからの未来への希望に満ちた涙だった。


「ありがとう、レオナルド。これからは……私たちの人生を一緒に歩んでいきましょう。」



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未来への一歩


ラファエラとレオナルドは、手を取り合いながら新たな人生を歩み始めた。彼女にとって、この旅立ちはただの移動ではなく、自分自身を取り戻し、愛と希望に満ちた未来を築くための最初の一歩だった。


過去の痛みや苦しみは、もう彼女を縛るものではなかった。そして彼女の隣には、どんな時でも支えてくれる存在がいた。新しい街で、彼女は本当の意味で自分自身の人生を生きることを決意した。




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