第12話:崩壊の序章
エンツォの不正取引が公になった翌日、ラファエラは屋敷の窓辺に立ち、遠くの景色を見つめていた。王国監査局による調査が進む中、彼の地位と名誉は徐々に失われつつあった。静かに訪れた朝の光は、彼女にとって解放と同時に新たな不安をもたらしていた。
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監査局からの報告
その日の午後、監査局の役人が屋敷を訪れた。エンツォは逮捕こそ免れたものの、監査が終わるまで領地での権限が大幅に制限されることになった。ラファエラは役人たちが去った後、執事を通じてその内容を確認した。
「監査局は彼の取引を完全に把握しています。すでに王宮からも正式な通達があり、これ以上の取引は不可能です。」
執事の報告を聞き、ラファエラはわずかに微笑んだ。
「そう……やっと彼の手が縛られる時が来たのね。」
だが、その微笑みの裏には複雑な感情もあった。彼女が長い間耐え続けてきた冷たい婚姻関係が、ついに崩壊の兆しを見せたのだ。
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エンツォの怒り
一方で、エンツォは書斎に閉じこもり、監査局からの通知を睨みつけていた。その眼には怒りと憎しみが渦巻いている。
「俺をこんな目に遭わせたのは……」
彼はペンを握りしめ、机に叩きつけた。その音が部屋中に響く。
「ラファエラ……貴様か……!」
エンツォにとって、これまで築き上げてきた権威と名誉が崩れることは耐え難い屈辱だった。そして、その崩壊を招いたのが自分の妻だという事実が、彼の心にさらなる怒りを燃やしていた。
「俺を裏切った代償は大きいぞ……」
彼は冷酷な笑みを浮かべながら、次の手を考えていた。
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ラファエラの心境
夜、ラファエラはレオナルドと話し合うために彼を自室に呼び寄せた。彼女の顔には少しの安堵と、そして新たな不安が浮かんでいた。
「すべてが終わったわけではないのよね……」
彼女がそう呟くと、レオナルドは静かに頷いた。
「はい、ラファエラ様。監査局が彼の権力を削ぐことには成功しましたが、彼が完全に排除されたわけではありません。」
「分かっているわ。でも、これで彼の不正が明らかになった。私の目的は達成されたのよね……?」
ラファエラの声はどこか空虚で、彼女自身も自分が何を求めているのか分からなくなっていた。エンツォを追い詰めることだけを考えて生きてきた日々が終わりを迎えたことで、彼女の中にはぽっかりとした空白が生まれていたのだ。
「ラファエラ様、あなたは立派に戦いました。ですが、これからはご自身の未来を見据えて歩んでいかなければなりません。」
レオナルドの言葉に、ラファエラは静かに頷いた。そして、彼の優しさが心に染みるのを感じながら、小さく呟いた。
「ありがとう、レオナルド……あなたがいなければ、私はここまで来られなかった。」
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エンツォとの再会
翌朝、ラファエラは意外にも食堂でエンツォと顔を合わせた。彼はいつものように冷たい表情を浮かべており、まるで何事もなかったかのように振る舞っていた。
「お前もずいぶんと大胆なことをしたものだな。」
エンツォの皮肉混じりの言葉に、ラファエラは微笑みを浮かべて返した。
「そうね。でも、私があなたに道具扱いされ続けるのはもう終わりよ。」
彼女の言葉に、エンツォの目が一瞬鋭く光った。
「終わりだと?まだ何も終わっていないさ。お前がどれだけ足掻こうと、俺が再びすべてを取り戻すのは時間の問題だ。」
彼の冷たい声に、ラファエラはわずかに肩を震わせた。しかし、彼女の目には以前のような怯えはなかった。
「どうぞ好きにすればいいわ。でも、私はもうあなたの影の中にはいない。私の未来は、私自身のものよ。」
その言葉を残し、ラファエラは堂々とその場を立ち去った。彼女の背中を見つめるエンツォの顔には、怒りと悔しさが浮かんでいた。
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新たな始まりの予感
ラファエラはエンツォとの対峙を終えた後、庭園のベンチに腰を下ろした。冷たい風が彼女の髪を揺らし、空には淡い雲が浮かんでいた。
「これから私は……どうするべきなのかしら。」
彼女は一人つぶやきながら、自分のこれからの人生について考えていた。エンツォの影響力を削ぐことには成功したが、彼が完全に消えるわけではない。そして、それでも彼女には新たな未来が待っているはずだった。
「私は自由だ……でも、何を目指していけばいいの?」
その問いに答えられるのは、彼女自身だけだった。遠くで聞こえる鳥のさえずりが、どこか希望を感じさせる音に思えた。
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