第8話 裏切りの代償





ラファエラはエンツォとの対峙を経て、彼の秘密を暴くための行動を本格的に開始することを決意した。冷たい婚姻の裏で行われている取引は単なるビジネスではなく、何らかの違法性を帯びた陰謀が隠されていると確信したからだ。そして、それに関与しているアリシアという謎の女性。すべてを明らかにすることで、自分自身を守り抜かなければならない。



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エンツォの不在を狙った行動


その夜、ラファエラはエンツォが屋敷を離れるという情報を得た。彼は定期的に外部の取引先と会合を持つため、深夜に出発し、朝方に戻ることが多かった。彼が留守にしている間に、彼の書斎を再び調べることを決意する。


「今度こそ、決定的な証拠を掴まなければ……。」


彼女はレオナルドに協力を仰ぎ、使用人たちが書斎付近に近づかないよう手配をしてもらった。レオナルドは彼女の計画に対し、内心不安を抱きつつも「お力になれるのなら」と快く引き受けてくれた。



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決定的な証拠


深夜の屋敷は静まり返り、月明かりが廊下をぼんやりと照らしていた。ラファエラは書斎の扉を慎重に開け、再び中に入った。前回とは違い、今回は詳細に調査するための準備を整えていた。彼女は手袋をはめ、埃が積もった書類を慎重に扱いながら、一枚ずつ目を通した。


しばらくすると、ある一枚の書類が彼女の目を引いた。それは領地内の財政に関する詳細な収支報告書だったが、その中に異常な点を見つけた。莫大な金額が特定の取引先に送金されている記録があり、その名義は匿名だった。さらにその取引内容には、「特殊な商品」とだけ記載されており、具体的な内容は伏せられていた。


「この『特殊な商品』って……何?」


ラファエラの心は不安と興味で高鳴った。彼女はさらに調べを進め、別の棚からいくつかの手紙を見つけた。それらの手紙には、アリシアの名前が頻繁に出ており、彼女がこの取引の重要な役割を果たしていることが示されていた。


「貴族間の競争を利用し、彼女を媒介にすれば、誰にも我々の関与は疑われない。」


その一文を読んだ瞬間、ラファエラの手は震えた。これは単なるビジネスではなく、もっと深刻な陰謀に繋がっている。エンツォは彼の立場を利用して裏取引を行い、領地の財産を私的な目的のために搾取している。しかも、その一環にアリシアという女性が加担していることが明らかになった。


「こんなことが許されるはずがない……!」


ラファエラは怒りに震えながらも冷静さを保ち、手紙と取引記録をすべて読み終えると、必要な部分を抜粋して自室へと持ち帰った。彼女はこれらの証拠を使い、エンツォの行動を公にする準備を進めるつもりだった。



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エンツォとの再対決


翌日、ラファエラは意を決してエンツォに話を切り出した。朝食の席で彼女が沈黙を破る。


「エンツォ、私たち話があるわ。」


エンツォは彼女を一瞥したが、特に興味を示す様子もなく、淡々と答えた。


「何だ?」


ラファエラは彼の冷淡な態度に苛立ちながらも、静かに切り出した。


「あなたの取引について聞きたいの。『特殊な商品』とは何かしら?」


その言葉に、エンツォの目が一瞬だけ鋭く光った。彼はフォークを置き、ゆっくりとラファエラを見つめる。


「君は何を知っている?」


「あなたが領地の財産を使って、裏取引をしていること。しかも、その中でアリシアという女性が重要な役割を果たしていることも。」


エンツォは一瞬黙り込み、次の言葉を選ぶように慎重に考えているようだった。そして、冷たい声で言った。


「それがどうした。君には関係のないことだと言ったはずだ。」


「関係ない?いいえ、関係大ありよ。あなたの行動が私やカヴァッレリ家を危険に晒しているのよ!」


ラファエラは感情を抑えきれずに声を荒げた。しかし、エンツォはその言葉を一蹴するかのように無表情で答えた。


「君に選択肢はない。これ以上詮索するな。私の邪魔をすれば、その代償を払うことになる。」


その言葉に、ラファエラは恐怖を感じながらも、彼の脅しに屈するつもりはなかった。


「代償なら払う覚悟はできているわ。でも、私を道具として利用し続けることは絶対に許さない。」


ラファエラの強い決意を前に、エンツォは何も言わずに席を立ち、その場を去った。彼の背中を見つめながら、ラファエラは自分の行動がさらに危険な結果を招くかもしれないと感じつつも、後戻りする気はなかった。



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裏切りの代償


その日の夜、ラファエラはレオナルドと密会し、これまで集めた証拠を見せた。レオナルドはその内容に目を通すと、驚きと同時に深い憂慮を表情に浮かべた。


「これは……大変なことです。ラファエラ様、この証拠を公にするつもりですか?」


「ええ。エンツォを止めるためには、これしか方法がないわ。」


レオナルドはしばらく考え込んだ後、静かに言った。


「分かりました。私も協力します。ただし、旦那様がこれを知れば、ラファエラ様が危険な目に遭う可能性があります。」


「それでも構わない。私は自分の未来を取り戻すために戦うわ。」


その言葉に、レオナルドは深く頷いた。そして二人は、エンツォの行動を暴露するための計画を練り始めた。



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この夜、ラファエラは「白い婚姻」の裏に潜む真実を明らかにするため、ついに行動を起こした。裏切りの代償を払う覚悟を胸に、彼女は冷酷な夫とその陰謀に立ち向かう道を選んだのだった――。





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