31.希望の光!
あの後すぐに服を届けてくれ、お礼を言うとお金はロベルトが払ってくれたと言う。だが、渡そうとしても全然受け取ってくれず、それなら俺も、受け取ってくれないなら要らない。着替えない。と言えば渋々受け取ってくれた。
すぐに着替えると、ミーアさんに美容院に連れて行かれ、乱雑だった髪も綺麗に整えてもらった。本当はいつ戻ってくるかわからないヴァルクを待っていたかったのだが、ロベルトに「当分戻って来ないから行ってこい」とせっつかれたので仕方なく。
でも、整えられた髪の毛を見て行ってよかったと思った。自分では見えていなかったので気にならなかったのだが、結構酷い状態だったのだ。そりゃあみんなも心配するよ。
そして、ロベルトの言った通りヴァルクが戻って来たのは日が沈んでからだった。
ギルドの営業も終わっているため、この場にいるのは俺とヴァルク、ロベルトと団長さん、それからミーアさんだ。
戻って来てすぐにどうなったか聞くと、団長さんはすぐに答えてくれず、「とりあえず中に入ってから話そう」と言われた。二階の部屋で、ロベルトを含む全員が座っているが、空気は少し重い。
もしかして、駄目だったんだろうか。ドキドキしながら団長さんの言葉を待つ。
「....結論から言うと、街に住めることになった」
「え!?本当ですか!?」
無理だったのかも、という思いが強くなっていたため、思わず立ち上がった。勢いよく立ち上がったせいで倒れそうになった椅子は、隣のヴァルクが支えてくれたので倒れずに済んだ。
団長さんが片手で座るよう促したため、ヴァルクにお礼を言って席につく。
「ただし、条件がある」
「条件......」
膝の上に置いていた手をぐっと握りしめると、その上に手が置かれた。ハッとしてヴァルクを見れば、安心させるかのように微笑んでくれる。
「まず、ヴァルクは雉羽騎士団で預かることになった。その上で、騎士学校に通ってもらう」
「騎士学校!?」
「ああ。彼の実力なら学校に通わずとも騎士団に入れはするがな。余計なやっかみを買わずに済むだろう。まあ、二年間は大変だと思うが」
騎士学校は二年間、長期休暇もなくその上全寮制のため、この街にあるとはいっても完全に隔離された状態になる。多少わかってくれる人が増えたが、学校はヴァルクのことを知らない人の集まりだ。そんな隔離された、フォローもできない場所には正直あまり行ってほしくない。
だってヴァルクが傷ついても助けることができないなんて。無駄に傷つくくらいならここを出て、自由気ままに暮らした方が良くない?
ヴァルクは、どう思っているんだろう。俺1人がぐるぐると悩んだって意味がない。
ちらりと隣を見れば、ヴァルクはずっとこちらを見ていたのか目が合った。その瞳に、迷いはない。
「.........ヴァルクは、もう決めてるんだな」
「ああ。通うよ。学校に」
「っ.....」
ヴァルクなら、なんとなくそう言うんじゃないかと思っていた。
「.....でも、辛いかもよ?やっぱり行かなければよかったって思うかも.....」
「それは行かなくても同じ事だ。それに、いつまでもサクヤに助けてもらうわけにもいかない」
「そんな事っ、俺の方が助けてもらってるのに!」
ヴァルクは静かに首を横に振った。
「サクヤが隣にいるだけで、俺は助けられていた」
隣にいるだけで?そんな馬鹿な。そう思うがヴァルクの顔は真剣だ。
「だから、堂々と、胸を張ってサクヤの隣に立ちたい」
ヴァルクの目は、もう未来を見据えている。
........そうだ。街に住むことはヴァルクの夢だったじゃないか。それなのに俺が足を引っ張ってどうする。
「......わかった。応援するよ。....けど、無理はしないで」
「ああ。ありがとう。...そんな顔をするな」
そう言われて頬を撫でられる。
俺は今どんな顔してるんだろう。笑いたいのに、涙が出そうだ。頬を撫でられるのが気持ちよくて思わず手に擦り寄せると、咳払いが聞こえた。
「2人の世界に入るのはもう少し待ってくれないか。まだ話したい事があるんだ」
「っ!?」
そうだった!みんないるんだった!!恥ずかしっ...!
羞恥のあまり顔を伏せたまま謝る。団長さんはくすりと笑って話し始めた。
「騎士学校を卒業したら
自由.....。凄い.....。本当に叶うんだ.....。
俺は立ち上がって腰を折った。
「団長さま、それからロベルトも。この度は私とヴァルクのためにご尽力くださり本当にありがとうございました」
一瞬静寂が訪れたが、団長さんがそれを破った。
「それならこちらもお礼を言わなくては」
「え?」
なんで団長さんが?
「黒を持つ者が必ずしも悪ではないとわかったことは、この国にとっても有益だ。第二第三の彼らを出さないように動くことができる。ありがとう」
そっか。他にも黒い髪と目を持った人がいても不思議じゃない。ここはゲームとは違うんだ。この先も、ずっと続く。
「私情が役に立ったのならよかったです」
ほんと、ただの私情以外のなにものでもないのに、お礼を言われるなんて素直に喜んでいいものなのだろうか。なんて言っていいかわからないから思った事を言っちゃったけど、団長さんは笑ってくれたのでよしとしよう。あの人いつも笑ってるけど。
「あの...、それで入学試験はいつなんですか?」
「明日だ」
「明日!?」
「正規の入学試験は一カ月程前に終わったんだが、あそこは随時募集しているんだ。ま、入学が遅れる分、試験は難しいがな」
なるほど....。じゃあ明日から二年間は全く会えないんだ....。
「それで、ここからが重要なんだが」
えっ、まだ重要なことあんの!?
「これから二年間はもちろん、騎士団にいる間もプライベートはないと思った方がいい。体のいい監視だからな」
うわぁ、それは大変そう.....。
「なに他人事のような顔をしている?サクヤに言っているんだぞ」
「えっ?」
俺ですか?でもなんで.....。
「本当は今日も騎士団の宿舎に入れろとうるさかったんだが、恋人になったばかりだろう?流石に可哀想だと思ってな。今夜だけ私が監視するということで話をつけてきた」
さらりと言われた言葉に目を見開く。
.....えっ、えっ?待って、今恋人って言わなかった?なんで知ってんの!?
「えっ、えっと、あの.....」
頭の中が真っ白になって、顔が熱くなる。後半に言われたことなど全く入ってこず、わたわたと狼狽えながら隣を見れば、ヴァルクはどこ吹く風だ。ヴァルクが自分から言うとは思えないけど、聞かれたら普通に答えそう。いや、別にいいんだけどね?
「私とロベルトは適当に監視しているから、今夜くらいゆっくりしなさい」
........なんか、ゆっくり、に含みがなかったか.....?
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