十三話、魔物の秘密
部屋の中央の光を放つ床の上には、ひときわ強く青白い光をまとう小さなドラゴンスケルトンが身体を丸めてうずくまっている。
「眠っているのかしら?」
「かもしれないね」
両手のひらで、ソッとすくいあげる。サイズは一階層にいたネズミゾンビくらいしかない。重さも羽のように軽い。とても小さな魔物。けれど魔力は間違いなくSSS級で、爺ちゃんやボクと同じくらいの強さを感じる不思議な存在。
【ダレだ? オマエたち】
目を覚まし、首を伸ばすようにしてボクとサアヤを、血のように赤く妖しく光る目でしっかり見つめる。しかも言葉をカタコトだけど話せるみたいだ。
「ボクは、ここで生まれた猫スケルトンのニャーだよ。隣にいるのはボクの大切な人サアヤ、一緒に旅をしてるんだ」
小さなドラゴンスケルトンはゆっくり起き上がる。ゆらゆら揺れる尻尾の骨はボクより細いし、翼の骨はまだ小さくて飛べそうもない。
【そうカ。オマエが、センダイボスのチカラをうけついだモノか】
「うん。君のことも教えてほしい」
【オイラは、セカイのキオクのカケラ、せんだいぼすドラゴンスケルトンのノコリビだ。そしてニャーがドラゴンスケルトンをオモッテながしたナミダからウマレタ】
顎の骨をカタカタさせながら発する声は、窓ガラスを引っ掻いたように高く頭の中にまで響く。ボクは平気だけど、サアヤはあまりの高音にクラクラよろけてしまい、頭を抱えて床に座りこんでしまった。
「じゃあ、もしかしてボクが旅に出た後に生まれたの?」
【そうダ。だからマダなまえモない。ニャーがツケロ】
「いいの?」
【オイラはオマエのナミダからウマレタんだ。オマエがナヅケルべきだロ】
「分かった。少し考えるから待ってて」
【マツ】
座りこんでしまったサアヤの背をさすりながら悩む。するとボクの中にいる爺ちゃんが鼓動して、同時に頭の中に”クオーティア”と名前が思い浮かんだ。
「君は、クオーティアドラゴンだ」
【クオーティア……イイなまえダ。これでダンジョンをマモレル】
名前を得たドラゴンスケルトン、クオーティアが宣言すると最下層全体の空気が熱を持ち、部屋の中央の青が、水に波紋が広がるようにサァー……ッと赤く染まっていく。クオーティアドラゴンの身体からあふれる青い光も赤へと変化した。
「空気が変わった?」
【オイラがダンジョンにセイシキにボスとミトメラレタ。だからオイラのマリョクのイロにダンジョンがソマッタ】
「そうなんだね。この感じ、もしかして火属性?」
【そうダ。おいらホノオがツカエル。だがイマはマダつかえない】
魔属性の爺ちゃんがボスの時よりも、ダンジョン内は暑く感じる。汗ばんでしまうくらいでコートも着ていられなくて脱いだ。
「じゃあ、爺ちゃんより攻撃向きなんじゃない? 爺ちゃん、ほとんど魔法とか魔力、使わなかったからさ」
【いや、イマはツカウべきトキでナイからな。オイラはソノトキがクルまでネムル】
「使うべき時? いつもは使わないの?」
【ソウだ。オイラたちダンジョンぼすハ、せかいノききノときニだけ、ダンジョンからデル。そしてチカラつかう】
「危機が来ないと使わないんだね。そっか、だから爺ちゃん凄く強いのに力を使わなかったんだ」
ボクの言葉にクオーティアドラゴンが、うなずき【そのようなコトがオキナイことイノル】と小さくつぶやき、ボクの手のひらから飛び降りて、赤く光る床にうずくまるようにして眠ってしまった。
サアヤをおんぶして部屋を出て、螺旋階段をテンポよく二段飛ばしで駆け上がっていく。息苦しいほどの暑さでサアヤもグノーもグッタリしてしまっているから、そのままダンジョンの中を一気に走り抜ける。五十二階層あたりまでくると、少しずつ暑さも和らいできた。けどグール系の魔物が多いうえに、暑さのせいで腐ったような匂いも酷い。サアヤは袖口で鼻を押さえて耐えてる。
「サアヤ、グノー、水、飲んで」
「あ……りがとう。ニャー……さん……」
『ニャーさん〜ありがとうぅ〜……』
二十一階層にたどり着くと、サアヤとグノーに水を飲ませた。サアヤの竹筒の中の水は飲み切ってしまった。ボクは魔物でスケルトンだから、まだまだ大丈夫だし体力もあるから、ボクの水もサアヤにあげた。
「魔物は名前がある子と無い子がいるのかしら?」
八階層まで来ると地上と変わらない気温にまで下がり、少し回復したサアヤが顔をあげ、か細い声で聞いてきた。
「うん。たとえ生まれた時にS級魔物だったとしても名前を持たない魔物は、しだいに理性を無くし下級魔物へと堕ちていって最後には消えていくんだって」
「消えてしまうの?」
「例外は無いって聞いたよ。そしてダンジョン内で理性を無くした名もなき魔物たちは、消えないために本能で魔力のある人間を襲うんだ。だから人間のいる地上を目指すんだ。それが上階層に行くにつれて魔物のランクが下がる理由とダンジョンの真実なんだってさ」
「そうだったのね」
「全部、爺ちゃんから聞いた話なんだけどね。 人間にとって名前が重要なのと同じくらい魔物にとっても名前は重要なんだよ。だから爺ちゃんは、ボクが消えたりしないように、産まれてすぐ名前をつけたんだって言ってた」
「沢山の知識と名前……やっぱりニャーさんの、お爺さまは、とっても優しかったのね」
「うん! ボクの自慢の爺ちゃんだよ」
三階層まで戻ってくると、サアヤもグノーもすっかり元気になって自分の足で歩きだした。グノーは飛んでるけどね。
「本当はゆっくりダンジョン見てほしいんだけど、水が無くなったから一気にダンジョンを抜けだしたいんだ」
ボクが提案すると、サアヤは立ち止まって腕を組んで考えこんでしまった。サアヤはダンジョンに行くのを楽しみにしてたから、やっぱりもう少し探検したいのかもしれない。
『ねぇ〜。サアヤァ〜。ルフトラーガのぉ〜ダンジョンにぃ〜おいでぇ〜』
「ルフトラーガのダンジョンって、グノーの住んでる浮遊大陸の?」
『うん〜。ルフトラーガのぉ〜ダンジョン〜イフェルはぁ〜安定ぃ〜安心のぉ〜楽しいぃ〜ダンジョンだぁ〜』
今いるメディセーラの”ヨル”のダンジョンは、ボスが変わったばかりで不安定で初心者には危険だから、安定してる浮遊大陸ルフトラーガの”イフェル”のダンジョンがオススメなんだって。もう一つのグレングル大陸は、帝国を支配してるルネディア家そのものが危険らしいから近づかない方がいいみたいだ。
「分かったわ。イフェルのダンジョンに行きましょう!」
「うん。他のダンジョンも見てみたいからね!」
「そうね。空に浮かぶダンジョン! とても素敵だと思うわ! でもその前に王都に行ってピネお姉さまにも会わなくてはいけないわ」
グノーの説明を真剣な表情で聞いて納得したあとは、凄く晴れやかに鼻歌を歌いながらサアヤは歩きはじめた。
『決まりぃ〜だぁ〜! 行こうぅ〜』
「行こおー!」
「行きましょーう!」
三人で歌いながら出口に向かっていく。グノーだけは人間に見つからないように、サアヤの胸元に潜りこんだ。
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