八話、スキル
「お母さま、お父さま、私、明日ニャーさんと旅に出ようと思うの。いいかしら?」
ピクニックから帰って、人型になって湯浴みでサッパリして、なごやかな雰囲気のなか夕食をすませて、今日あった色んなことを話し終わった時、ついにサアヤが旅立つことをフェリアとガウムに伝えると、時間が止まってしまったかのように室内は静まりかえった。外から聞こえていた虫の声さえも止まってしまったように感じる。
しばらくしてから、フェリアはホゥと息をつくとサアヤを真剣な表情で見つめる。
「それは冒険者になるということかしら?」
「えぇ。ニャーさんと一緒に、この目で世界中を見て回りたいの」
「魔物もいるし危険もあるのよ? それでも行くというのかしら?」
「はい。危険は覚悟しているわ。感は鋭い方だから魔物を避けて進むこともできると思うの」
旅立ちをすぐに許してくれると思ってたけど、フェリアは困った顔をしてる。
「あなた、どうしましょうか?」
「オレはいいと思うぞ」
「ですが、普通の旅行ではないのですよ?」
「分かっている。だからこそ行く意味があるんだ」
「どのような?」
「オレたちはこのクランシャン村からすら出たことはない。だが世界は果てしなく広い。それこそ生きてる全ての時間を使っても回りきれないかもしれん。だからこそ見る価値がある。サアヤは言ったじゃないか。世界をみたいと!」
ガウムの言葉に、フェリアは少し考えるそぶりをしてから立ち上がると、優しい手つきでサアヤの頬を撫でた。
「……。わたし達はクランシャン村を出る勇気はありませんでしたからね……。そうですね……。サアヤが望むならいいかもしれないわね」
「私は世界を見たいと本気で思っているわ」
ふわりとサアヤを抱きしめて、フェリアは耳元でささやくように。
「……仕方のない子ね。分かったわ。行ってらっしゃい」
「ありがとう! お母さま!」
「そのかわり、たまには帰ってきて旅の話を聞かせてくださいね」
「もちろんよ」
サアヤもフェリアを抱きしめかえす。
「旅立つことに決まったようだな。よし! ではコレをサアヤとニャーに渡そう」
ガウムが部屋の一角にある大きな棚の引き出しから腕輪を取り出して、ボクとサアヤの手に握らせる。
「銀で出来てるのね。お守りなのかしら?」
「真ん中に七色のキラキラの石がついてる。鳥の模様も綺麗だしおしゃれだね」
宝石は光にかざすと、青にも黄色にも見えて美しい輝きを発してる。
「いや。お守りでもファッションでもないぞ。冒険者ギルド員の証だ。この腕輪があれば他国に行くときに金貨を払わなくても入国できるし、身分証にもなるし、お金を出し入れすることもできる優れものだ」
「どうしてお父さまが、こんなモノ持ってるの?」
「それはな」
「それは?」
「?」
もったいぶってニヤニヤしながらもガウムは、そりかえるくらいに胸をそらして誇らしげに。
「オレが村長だからだ。クランシャン村は小さい村でギルドがない。だから冒険者を希望する者達には村長のオレが渡すことになってんだ」
「そうだったのね。もしかしてたまに来ていた方々は冒険者なのね」
「あぁ。この辺りで冒険者登録が出来るのはオレの家しかないからな。まぁ、たまに村人以外の冒険者達も旅で足りなくなった物を買うために来るけどな。じゃ、真ん中の石に触れてみてくれ」
手のひらに乗せた腕輪の宝石を恐る恐るサアヤが触れると、腕輪全体が輝きを放ち、ゆっくりと七色の石に光が集まり吸い込まれていく。
「あら? オレンジ色に変わったわ!」
「サアヤはオレンジだからDランク冒険者だな。腕輪の内側を見せてみろ」
「はい」
「サアヤ・ラスディ、十三歳、クランシャン村、スキルは索敵C、危険回避A。癒しの手E、うん。お前にピッタリのスキルのようだな」
「ふふふ! なんだか冒険者という感じがして嬉しいわ」
腕輪を胸に抱きしめて微笑むサアヤの頭を、ガウムがくしゃりと撫でながら、楽しそうに冒険者について話しはじめた。
「ギルドの館は二つある大陸に一つずつある。煉瓦造りのそこそこ大きな建物だから王都に行けば分かるはずだ。冒険者を管理するギルド長も一人ずつ居る。そして大陸には巨大ダンジョンがやはり一つずつある。他にも大小様々なダンジョンが存在するみたいだな。冒険者はダンジョンを踏破したり、依頼を受けて魔物討伐や護衛をするのが目的だ。依頼はパーティーを組んで受けるんだがパーティーランクによって受けられる内容が変わるんだ。サアヤたちは新人だからEランクからだな。残念ながら個人のランクでパーティーランクが上がったりすることはないんだ。実績重視らしい。ちなみに腕輪の宝石の色でランクは分かる。
レッド、Eランク
オレンジ、Dランク
イエロー、Cランク
グリーン、Bランク
ブルー、Aランク
ヴァイオレット、Sランク
ブラックは特別で世界に三人しかいないと噂のSSランク
なぜ腕輪で見えるように宝石を使っているのかは不正や犯罪を防ぐためだな。ランクが上がれば貰える報酬が増えるからな。長々と話したが、まぁ、こんな感じだ」
ガウムの説明を聞きながらボクも、ソッと宝石の部分を触ってみる。もちろん爺ちゃんから受け継いだスキルと魔力の、ほとんどは隠蔽スキルで隠した。
「ニャーはどうだ? ほぉ! ブルー……Aクラスとは、さすがだな。スキルはどうだ?」
今までサアヤの前で使った十個ほどのスキルだけ腕輪に刻まれるように念じてみた。
「ニャー・ラスディ、十歳、クランシャン村、浮遊、高速、獣化と……。十あるスキル全てAとBとは素晴らしいな!」
「ふふふ! ニャーさんはやっぱり凄いのね!」
「ボクは凄くないよ。これは爺ちゃんから貰った大切なモノなんだ」
「お爺さまはニャーさんのことが、とても大切だったのね」
「そうだな。スキルや魔力は生命力そのものだ。それをニャーに託したということは最上級の愛情と信頼だろう」
「うん。爺ちゃんはいつも優しくて、ボクをとても大切にして守ってくれたんだ」
別れを思い出して涙がホロホロ頬をすべり落ちていく。胸に手を当てると、爺ちゃんの鼓動が伝わってくるような気がする。
「泣かないでニャーさん。これからは私たちがいるわ」
「そうよ。旅に出たとしても、このラスディの家が貴女の帰ってくる家よ」
「そうだぞ。その証拠に腕輪にも、ニャー・ラスディと書いてあるだろう。いつでもサアヤと二人で我が家に帰ってこい」
ぽふんっと軽い音を立てて猫スケルトンに戻ると、サアヤの胸にぴょんっと飛びこんだ。サアヤは優しく抱きしめて背骨を撫でてくれる。フェリアとガウムもボクの頭を撫でてくれた。
◇
ピチチッ! ピーピーピー!
鳥の声とカーテンの隙間から差し込む朝日で、目が覚めるとサアヤのベッドの中だった。昨日は泣き疲れて、いつの間にか寝てしまったみたいだ。
「おはようございます。ニャーさん」
「おはよサアヤ」
タンスを開けてサアヤは、洋服や下着や色々な小物を大きなトランクに詰めてるところだった。
「今日は、ついに出発よ」
「まずはどこ行くの?」
「そうねぇ……。ニャーさんの生まれた場所に行ってみたいの。いいかしら?」
今はもう何もいない場所。だけどボクにとっては爺ちゃんとの沢山の忘れられない思い出が詰まった、とても大切なところ。
「もちろんだよ! ボクもサアヤに見てほしい」
「ふふふ! 決まりね。楽しみだわ!」
ダンジョンは危険がいっぱい。だけど、どんな魔物が現れてもボクが必ず守ると決めた。
「うん! 楽しみだね」
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