雨音と落雷

ドライアイスクリーム

第1話

雷恐怖症という恐怖症が存在する。


文字通り、雷に対し心の底から震え上がり身動きが取れなくなる症状のことだ。


そして、吐き気やパニック状態などに陥る。雷が自身の命を奪う可能性は限りなく低いと知っていてもなお、恐怖の対象であるのだ。


蜘蛛恐怖症の人間が、小さな蜘蛛に対し恐れおののくことと同義だろう。


さて、そんな雷恐怖症の持ち主として、とある1人の少女がいた。


少女はその場にうずくまり両耳を塞いでいた。


空からは滝のような雨が降り続け、分厚い雲が轟音を鳴らしている。


少女の衣服はずぶ濡れになり、長い髪の毛からは水滴が滴り落ちている。


しかし、そんなことは気にも留めず、少女は遠くから聞こえてくる雷の音に対し震え上がっていた。


自分は雷に殺されることはない。そう知っているはずなのに足がすくんで動けなくなる。


空が光り雷の音がして、少女は短い悲鳴を上げる。


遠方に雷が落ちたようだ。胃酸が逆流するのを感じた。


そんなときだった。


突如として、少女の眼前が瞬きをするほどの速度で光り、アスファルトを打ち砕いた。


その部分からは白い煙が立ちのぼっている。


何が起こったのか分からず呆然としていたが、おそるおそる前方を覗き込む。


すると、そこには雷で砕かれたアスファルトとえぐられた地面が見えた。


次いで、後方から落雷の音が鳴り響く。その後は左右に連続して聞こえてきた。


こんなことは通常ありえない。人間の目の前に雷が落ちる確率は非常に低い。


ましてや近辺で4回も連続して落ちるなど。


少女は、恐怖で心拍数が上がっていくのを感じた。


こんな絶望はあってはならないことだ。


早く逃げなくては。このままだと自分にも直撃してしまう可能性がある。


歯を食いしばり、恐怖と雨でぬれた寒さで震える両足でどうにか立ち上がろうとする。


しかし。


少女がうずくまっていた場所が、突如として崩れ落ちた。


膝をついていたアスファルトは地の底に向かって落下していき、慌てて近くの地面に両手をひっかける。


どうにか抵抗する少女だったが、雨でぬれた地面は滑りやすい。


その手はずるずると滑っていき、結果として地の底に向かって落ちて行ってしまった。


落下する途中で少女は考えた。このときは不思議なことに冷静でいられた。


近辺で発生した4回の落雷に、膝をついていたアスファルトの崩壊。


現実ならばありえないファンタジーのようだった。


それに、こうして穴に向かって落ちていくことも未知の体験だった。


そもそも、なぜこうした穴があるのかさえ分からない。


不意に思い出した。


不思議の国のアリスに登場するアリスは時計ウサギを追いかけて穴に落ち、摩訶不思議な世界を冒険することになった。


自分も似たようなことになるのだろうか。


少女はそんなことを考えてみたが、次の瞬間、脳内で響いた轟音と衝撃によってすべてを否定された。


それからどれ程の時間が経過したのだろうか。


雨と雷は収まり晴れ晴れとした天気が広がっていた。


しかし、少女は一切動かなくなった。


雷への恐怖心も晴れた天気を眺める喜びもすべて失った。

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