腐れ縁の幼馴染が高校デビューで髪切って眼鏡外したら俺の好みド直球だった
啄木鳥
腐れ縁の幼馴染が高校デビューで髪切って眼鏡外してた
冬も終わり随分と暖かくなってきた四月の頭。
今日は俺が新高校一年生になる日、つまり、俺が今日から通う高校の入学式だ。
まあ、入学式の風物詩的存在である桜はもう散ってしまっているのだが。
それでも、俺はとうとう高校生になるというこの日に胸を高鳴らせていた。
新しい学校、新しい友達、新しい先生。
そんな風に、俺の周りの環境がガラッと変わるのだ。
正直、不安がないと言えば嘘になるが、それを上回るわくわくで俺の頭はいっぱいになっていた。
高校デビューというのも少しやってみた。
ワックスで髪の毛を少し遊ばせる程度のものだが。
ピーンポーン
俺は、これから一緒の高校に通う腐れ縁の幼馴染という奴を呼びに家まで行く。
ちなみに、その腐れ縁の名前は
長髪&ぼさぼさ頭で眼鏡を掛けている、ザ・陰キャって感じの見た目の奴だ。
由紀とは保育園・小学校・中学校と全て同じで、よく一緒に遊んでいた親友みたいなもんだ。
春休みに入ってからはあんま会ってないけど、あいつも俺みたいに高校デビューとかしてんのかな……?
ま、あいつのことだから一か月前と同じような恰好か。
ガチャ
「おっ、由紀。久しぶりだな~! 早く学校行こ……」
「——ん、どうした? 変な顔で固まって」
——嘘、だろ。
こいつ、高校デビューしてきてやがる。
しかも……
「あっ。そ、そういや私、思い切って髪切って眼鏡外してみたんだけど、ど、どうだ?」
「——っ!」
俺はすぐにこいつから距離を取って背を向ける。
……マジかよ、こいつ。
——俺の好みド直球なんだけどっ!
長髪でぼさぼさだった髪は、肩くらいの長さに揃えてぼさぼさ感のない癖のない髪質になってるし。
長すぎて目が隠れていた前髪も眉毛辺りの高さまで切り揃えてあるし。
——それにっ!
髪と眼鏡のせいであまりに見えなかった目。
——ジト目じゃねぇかっ!
俺の癖にぶち刺さりだよっ、クソがっ!
「……おい、大丈夫か? なんか挙動が変だけど」
「いや、大丈夫……じゃないわ、一旦ちょっと離れ……」
返事をして振り返ったその時。
由紀が俺のことを見つめていた。
「やめろっ、その目で俺を見るんじゃない!」
「えっ、ええっ? 見るなって……ほんと変だぞ?」
ヤバいって、俺って幼馴染の見た目が好みド直球になっただけでこんななるの?
さすがに自分に幻滅するわ。
最低じゃん! 人を見た目で判断するとかさ!
何? 俺って見た目で判断するタイプの人間だったってわけ?
いや、ちょっと落ち着け……
こいつはただの小向由紀。
腐れ縁で幼馴染で親友のただの女友達。
俺はこいつにドキドキなんてしない、見た目が変わっただけで態度を変えたりなんかしない……
「……すまん、なんか取り乱した」
俺は必死に精神を安定させ、顔を上げ彼女の姿を見る。
「あ、あぁ。大丈夫か?」
「ーーっ!」
やっぱヤバいって。
これ反則だろ、なんでこんなに俺の好みド直球なんだよ。
「そ、そういや、ど、どうだ?」
「……ど、どうって、何が?」
「わ、私の、見た目。高校デビューってやつしてみたんだが」
……これ、正直に言ったら絶対引かれるだろ。
好みですって、マジタイプな見た目ですって言ったら絶対引かれるだろ。
……ここは、まあ、良さげな感じで褒めときゃいいだろ。
「……ま、まあ、良いんじゃね?」
「……お前、嘘ついてるだろ」
「えっ?」
なんでばれた?
「晴樹、嘘つくときは視線が泳ぐからな」
マジかよ、そんな癖自分でも知らんぞ。
「ちゃんとほんとのこと言え」
「……無理」
「なんでだよっ! ちゃんと言え!」
「……ごめん、マジでこれだけは無理だって」
ほんとに。
「……似合ってないなら似合ってないって、はっきり言えばいいのに」
「いや、似合ってないってわけじゃ……」
「嘘つけ! じゃあ、何で嘘つく必要があるんだよ!」
目に涙を浮かばせながらそう訴える由紀。
俺はその表情をされて、言葉に詰まる。
「……別に良いよ。似合ってないなら、明日から前みたいにするから」
「ちがっ、そういうことじゃなくて」
「違くないでしょ。似合ってないから、だから、そんな言葉に詰まってるんでしょ」
由紀は俯き、俺の横を通り過ぎようとする。
「……み、だから」
「……えっ?」
「好み、だから。お前のその格好、好みなんだよ、俺のっ!」
くっそ、ついに言っちまったって。絶対にキモがられるって。
「……えっ、ちょっ……いやっ、待って」
「……えっ?」
罵詈雑言を浴びせられると思ったら、由紀の反応がおかしい。
なぜか顔を赤らめ、動揺しているように見える。
——って、えっ? いやっ、ないって、さすがにそれはっ。
「ごっ、ごめんっ。ちょっと、そのっ、嬉しくて……」
「……はっ?」
「……あっ、いや、さっきのは違くて。嬉しいとかじゃなくてっ、そのっ」
ちょっ、ヤバいって、さすがに。
ヤバイ、なんか顔がにやけてきた。平静を装え、俺。ここでにやけるとかキモすぎるわ。
「……俺のこと、好き……だったりするん?」
おかしいって! なんで俺こんなこと由紀に聞いてるん!?
さすがにキモすぎるって!
そんな俺の心の叫びを無視して、由紀はこくりと小さく頷く。
「……とりあえず、学校、行くか」
「……晴樹は?」
「へっ?」
「晴樹は、私のこと、好き、なの?」
俺の服を小さく掴み、上目遣いでこちらのことを見る由紀。
——反則だろ、それは。
「——好き、かも」
「あ……ありがと」
そうして、俺たちはふわふわした気分のまま学校へと向かった。
——何なの、これっ!?
腐れ縁の幼馴染が高校デビューで髪切って眼鏡外したら俺の好みド直球だった 啄木鳥 @syou0917
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