東国の勇者の場合38

 しかし、その注意事項はモーリス卿にも言えることだというのに。まず先手で自分を試すような発言をしている。一体何を狙っているのか。正直国内のゴタゴタなんてものどうでもいいが、自分が渦中に置かれたり巻き込まれたりするようにことにだけはならないでほしい。

 それにしてもよくまあ、いけしゃあしゃあと講説を垂れることができ出るものだ。よほどの無知で自分のプライドの高さに気づいていないか、よほどの傲慢さで、自分にも当てはまる指摘をしていてもなんとも思わないサイコパスか。

 まあ、今すぐに、答えを出したところでどうにかなる案件でもないし、少し放置ということで問題ないだろう。

「ところで、勇者殿から見てこの世界はどう見える。」

 何だこの質問は。

「どう…とは、どういった意味でしょうか。」

「そのままの意味だよ。異世界から来た君にはどうやってこの世界を見ているのかが知りたいんだよ。」

 どう見ているか。考えたこともない。正直この世界にきてまだ日が浅いし、見ている世界はかなり狭い。自分の常識に当てはめるなら異常な光景しか見えないそんな世界である。

「とても、いい世界だと思います。」

「ほう、どういった点がそう思うのか詳しく聞かせてもらっていいだろうか。」

 何かを探られている感じがする。それがまた異様に気持ちが悪い。

「正直、まだすべてを見たわけではないので全部を知っているかと言われればそうではないし、良いところしか見えていないという前提でお話ししたいのですが、この領地に住んでいる方々はみな笑顔で活気にあふれています。それを見た時に自由に暮らすことができているのだと思いました。さらに、自分が元居た世界では自然の木々がなくなりつつあります。そういったものと比べると自然の多く暮らしやすい世界と思います。」

 嘘は言っていない、そのはずだ。だが、本気でそう思っているかというとそういうわけではない。滑稽な作り話のような感情だ。

「ほう、木々がないと。」

「はい」

「いったいどんな風景なのか教えてもらっていいかね。」

 なんとまぁ、難しいことを。コンクリートだとかビルだとか言っても伝わりそうにないし、一応言い換えることも出来るがめんどい。

「ちょっと説明難しいんですけどね、科学っていうものが発展しているのでそれが影響してる世界ですね。」

「ほう、カガクか。その話興味深いなぁ。」

 モーリス卿の顔がほころび少し体が前のめりになった。

「今度時間をとってその話について聞かせてくれないか。本当は今すぐ聞きたいのだが、これからの予定もあろう。」

 確かに、今日周る領地はここだけじゃなかったはずだ。これからの事を考えるとここで話し込むのは得策ではないか。

「そうですね、それではまたの機会に。」

 そう言って手を差し出した。握手をしろというサインである。さっき先手を取られたからちょっとした仕返しである。

「ああ、ではまた。」

 そう言ってモーリス卿は握り返していた。

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