第16話 タレ目の魔術師


 純白と京太郎だと気付いた倉之助は構えを解き、愛音も肩をなでおろす。

 駆け寄ってきた純白は水着姿ではなく魔女風の姿になっている。


 ツバ広の魔女帽子にブレザータイプの衣装とマント。生真面目な純白が着るとどことなく冷たい雰囲気になり、見開いた目はどことなく危うさを感じさせる。

 純白は愛音を抱きしめて再開を喜ぶと倉之助をちらりと見ると『ちょっと話があるからついてきて』と言って戸惑う愛音を連れて離れていった。


「――はぁ」

 京太郎の救助方針で揉めたことが響いているのか、それとも第三者に良からぬこととを吹き込まれたのか――

 そんなことを倉之助が思っていると遅れてやってきた京太郎が倉之助の前に立つ。


「すまない、遅くなった」

「無事で何より。……その服装は〈ショップ〉で購入したんでござるか?」

「ああ。似合ってるか?」


 見た目はスーツ姿に黒いマント。貴族のお坊ちゃん風で絵になる姿だ。


「あー……お忍びの貴族みたいでござるな。似合ってるでござるよ」

「そう言う割には浮かない顔だな」

「あまりのイケメンぶりにおいどん嫉妬爆発」

「そう言ってもらえると奮発した甲斐があったと思うわ」


 タレ目の優男がニッと笑う姿はいかにも様になる。倉之助は歯ぎしりをしてみせたがぱっと表情を変える。


「んで、明らかに近接用ではござらんな。魔法メインの構成でござるか?」

「ああ。また殴られるのは嫌だったからな。〈ギア:魔法使いの服〉で【精神】のステータスを強化して〈マジックアイテム:ワンド〉で魔法の精度を上げてる」


 そう言って懐から取り出したのは長さ三十センチほどの棒。質素だが気品のある細工が施されている。


「使い心地はどうでござるか?」

「かなりいいな。魔法を撃った後も軽く操作できるから当てやすい。弾数も〈ギア〉のおかげで十三発に増えたしな」

「かなり良い品でござるな。しかし……〈ギア〉を装備しても十三発というのは心もとない」

「まぁ無理すれば二十発はいけそうだがマジで吐きそうになるからそこまで絞り出せねぇわ。それに〈マインドポーション〉があるからそこまでしないでもいいだろ」

最下級レッサー?」

通常品ノーマル。最下級はあんま回復しないから飲む手間を考えたら普通の〈マインドポーション〉がいいと思ってな。これで俺はすっからかんだよ」


「なるほど。……ちなみにモンスターの討伐報酬はいくらか分かるでござるか?」

「いや、知らないが……100ポイントぐらいはもらえるんじゃないか?」

「一体で10ポイントでござるよ」

「マジかよ!? シケてんなぁ……」

「〈マインドポーション〉は最下級で80、通常品で200ポイントでござるが大丈夫でござるか?」

「通常品の回復量が二十発分ぐらいだから元が取れないことはないが……」

「ちなみにアシストだと5ポイントでござる」

「カツカツだな……。大魔神はどうするんだ――ってかそれで戦うのか? ミニガン……じゃねぇな。透明な液体――火炎放射器か?」


「これは水鉄砲でござるよ」


「は? これがか?」


 京太郎は唖然とした様子で倉之助の水鉄砲を見る。


「そうでござるよ。百リットルタンク二つ備えたスタミナ駆動のモンスター水鉄砲でござる」

「んなアホな。タンクが二つってことは二百リットルだろ? 風呂水一杯分じゃねぇか。よく担げるな」

「鍛えているんで」


「いや、そんなレベルじゃないだろ……魔法は使わないのか?」

「セール品なんで〈ウォーターバレット〉は買って試したがメインは水鉄砲でござるな。体感だが一発あたりの消耗が格段に少ない」

「んー……まぁ無から水弾を作る魔法と撃ち出すだけの水鉄砲じゃ消耗に違いが出るのは当然か。……もしかして魔法は失敗だったか?」

「給水の問題があるからなんとも。それにモンスターが必ずしも水で溶けるとは限らんから損ではなかろう」

「まぁ確かにな。隊列はどうする?」

「基本的においどんが先頭、愛音殿と騎士殿を中央、殿を京太郎に頼みたい」

「それだとお前が危険じゃねぇか?」

「そのぶん稼げるでござるよ。それにおいどんにはがあるでござる」

 倉之助が首飾りにハメられた〈魔技〉をトントンと叩くと京太郎は納得した。


「交換したカタログの〈魔技〉か。どんな能力にしたんだ?」

「シールド系でござるな。メイン盾として正面に出るつもりだったのでな」

「そっかぁ……」


 ニヤリと笑う倉之助に京太郎は羨ましそうにする。


「――もし未練があるなら〈エリクサー〉と取り替えるでござるよ」


 ダンジョンマスターにはやるなと言われたが愛音との会話で〈エリクサー〉の希少性に気付かされた今では多少のペナルティを受けても取り戻す価値があると考えている。

 しかし京太郎は気まずそうに頭を掻いた。


「あー……できるなら俺も交換したいが……〈エリクサー〉は情報を教えてくれた人に預けたから手元にはないんだ」

「ふむ……純白殿の落ち着きようから相手はウマか――あるいは口のうまいキツネか?」

「キツネの方だ。使い魔を作ってランダム転移で情報収集をしてるところに純白ちゃんが遭遇したらしい」

「――そうか」


 倉之助が顔をしかめると京太郎は申し訳なさそうにした。


「すまねぇ」

「――京太郎殿の境遇は承知している。しかし〈エリクサー〉を渡したのは悪手でござるな。悪用されれば京太郎殿にも害が及ぶやもしれん」

「俺だって嫌だったが〈カタログ〉よこせって言われてな。大魔神に渡したなんて言ったら後で何されるかわからないから咄嗟の判断だ。いずれ返してもらうつもりだが……望み薄だな」

「なら切り替えるしかあるまい」

「――そうだな」


 京太郎はそう言って表情を引き締めた。

 そんな時だった。


「純白ちゃん、やめて!!」


 純白の〈ウォーターバレット〉が愛音が着ていた〈保温の柴犬パーカー〉を貫いた。


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