第3話 課長が戦う
ダンジョン内のモンスターに攻撃を与えたい場合。
我々の攻撃は、物理が主体となる。
ちなみに銃や爆発物が効かないことは、世界中の周知の事実となっていて、これは過去に戦車などでダンジョンに出撃した際に証明された事だ。
砲撃。銃弾。
これら人間を葬るのには有効的な攻撃も、ダンジョン内では無意味。
モンスターたちは、それらの攻撃をいくら浴びても無傷であった。
この事から、モンスターと戦うには、人間の直接介入が重要だとなったのだ。
剣でも、槍でも、拳でも、何でもいいので、直接攻撃を加えると、モンスターにダメージが通る。
ここで疑問なのが、弓。
あれもほぼ銃と同じ遠距離武器だろうに、モンスターには有効となっている。
ここがいまだに解明されていない謎となっている。
「課長。広い場所ですね」
「そうですね」
真新宿ダンジョン5層。
ここは視界が開けている場所だった。
ドーム空間のようになっていて、天井が高い。
横も広く、所々にある大岩を除けば、遠くを見渡すことが出来る。
「うじゃうじゃいますよ。引き返しますか」
「沖田君。帰りたい気持ちが出ていますよ」
言葉の中にある意味を読み取ると、帰りたいんですけどどうしますに聞こえます。
「ば、バレました」
「そんなに帰りたいですか」
「だって、この数は面倒で・・・」
ここにいるモンスターのランクとしてはDランク帯たち。
この程度であれば、彼女のレベルでも余裕で倒せるレベル帯だ。
しかし、確かに彼女の意見も一理ある。
一度に対戦となると面倒である事は正しい判断だ。
この世界には、様々なランクが存在しているが、モンスターランクは何を基準にして決まっているかというと、ハンターランクに付随することが決まっている。
ハンターランクDの人が倒せるモンスターをモンスターランクDとしている。
こういう基準で、政府が見極めをし、国際基準と照らし。
ハンター自身に、自分が戦ってもいいモンスターかどうかを提示している。
ダンジョンで魔晶石を狩る者『ハンター』
これは、ダンジョン攻略を目的とした職業の一つと言われている。
最初、未知なる場所で冒険をするだろうから【冒険者】と名付けようとしたのだが、この中に邪な考えを持ってダンジョンに潜る者がいるだろうからとこちらに変更された。
それで、命名の時に考慮されたのが魔晶石を狩る者たち。
狩人から、ハンターという名称が採用となった。
これは中々いいネーミングだと思う。
魔晶石を手に入れるという事は、つまりはモンスターをハントしないといけないので、ある意味では正しいのだ。
「さてさて。進みましょう。ここらのモンスターの中では珍しいものがいません。あの赤スライムは大変に珍しかったんですがね」
赤いスライムは、亜種で決定だと思う。
自分の中では、珍しさだけじゃなく強さもDランクで仮に決めていた。
まあそんな事を思おうが、結局自分の一存では、それらを確定に持っていけないので、深く考えるのはやめておこう。
本部に帰って、部長にでも検討してもらおう。
「ええ。面倒じゃないですか」
「大丈夫。自分のそばにいてください。えっと1m以内でお願いします」
「え。課長のそばにいてもいいんですか!」
「ん? 嫌ですか。なら、距離を広げますよ。3mくらいにも設定できます」
「いいんです。いいんです。そばにいます!」
と言って彼女は自分の右腕に左腕をからませた。
自分の肘に、彼女の胸が当たっているのですが、これはセクハラとかパワハラにはなりませんよね。
自分から、腕組んでくださいって言ってませんからね。
大丈夫ですよね。五味さん!
自分セクハラしてませんよ。証拠のデータも・・・。
って、これを撮影したら、なんか怖いことになりそうなのでやめておこう。
「え? どういうことです」
近くに寄れという話なのに、男女のデートみたいな事になった。
「離れるなって言ってたから」
「いえいえ。1m以内にって話で・・・」
「だから離れるなって」
話が通じてないので、諦めてこのまま進むことにした。
「まあいいでしょう。沖田君がいいなら、このまま進みます」
「はぁい」
二人で進軍を開始した。
◇
「課長。モンスターが来ませんね。ダンジョンに人間なんていたら、見境なしに襲ってくるのに・・・全然ですね」
「ええ。そうですね」
「もしかして課長が何かしてるんですか」
「まあ。気にせず行きましょう」
「わかりましたぁ」
ここで紹介しましょう。
自分の力は音。
様々な音を発することが出来る自分は、モンスターにとって最悪の音をプレゼントしている。
聞けば耳を塞ぎたくなるほどの音を出し続けているのです。
周囲2mから20mの範囲でモンスターが嫌がる音を出し続けて、こちらに近づくにつれて強烈に設定しているので、モンスターたちが近寄って来ません。
この技の名は、不協和音。
モンスターだけじゃなく人間用にカスタマイズも出来る。
嫌いな人間を寄せ付けない事が可能となる。
ただし、自分。
嫌いな人間があまりいないのでご安心を。
しかしながら、人間に使用したことは・・・・二、三回はあります。
すまない。
唯一の友人たちよ。
君たちは自分に近いんですよ。
人には、パーソナルスペースというものがあるでしょ。
よく考えなさい。君たち!
久しぶりに美形の友人たちの顔を思い出していると、沖田君から質問が来た。
「課長。次の階層にいけそうですよ。今日はどこまでですか?」
あちらの奥に階段が見え始めた。
自分の腕に絡んでいる彼女が嬉しそうに指差す。
「そうですね。ここは10層でいいでしょう。自分たちは基本行動を徹底します。その後の階層はハンターギルドの領域となるでしょうから」
大体ここまでの情報が集まれば、ギルドが後々の攻略して、情報を収集すれば良いからだ。
ここまでのレベル帯を調べて、ここに入ってもいい人間のレベルを把握するのが重要なんです。
現在のハンターギルドと政府の関係は、このように相互協力関係になっている。
これもハンターたちがいきなり挑戦して死傷者とならないようにするためでもあって、互いに利益がある。
◇
10層。
ダンジョンは十の数字の時にボス部屋が存在している。
これはどのダンジョンでも確定の様で、こちらのダンジョンも例外なく存在していた。
扉が勝手に開くと登場したのはアクロマルス。
イノシシ型のモンスターで、下あごがしゃくれている。
皮膚が焼け爛れているみたいに、所々が剥がれているのだが、これは戦った後じゃなくて。
最初からの姿だ。
ダメージを受けたようなふりをしているらしい。
これは擬態なんだそうだ。
何のためにそんな事をするのか。
研究者たちはそのどうでもいい論争をしていたりする。
「課長。あれは・・・10層でいきなりのBランク帯ですよ。どうします」
たしかに10層のボスでBは珍しい。
大体強くてもCが基準だ。
「そうですね。自分がやりましょう。沖田君は、下がっていてください」
「大丈夫ですか課長」
「ええ。安心して。これくらいは大丈夫」
「心配ですよ。課長はおっちょこちょいだから」
(それは君じゃないのかな・・・とは言えないので、このまま戦闘に入ろう)
「それでは下がって」
「はい」
先程とは違って彼女の返事も真剣なものに変わった。
緊張感ある場面で、ふざけた返事をする事はない。
「アクロマルス。これには耳がないですからね。聞いてくれません」
モンスター図鑑にも載っている基本知識。
このモンスターには耳がありません。
という事は音を聞いてくれないので、自分の攻撃が通用しないと思う所でしょう。
彼女も、自分の能力を知らないけど、なんとなしにそんな事を思ったはず。
だからあんなに心配をしてくれた・・・・。
わけじゃないか。
それはないか。
「ではいきますよ。アクロマルス」
音を圧縮して手の平に集める。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお」
猪突猛進。
イノシシ型のモンスターと言われる所以は、見た目だけじゃなくて移動時に曲がるのが苦手なことからだ。
真っ直ぐ突進してくるが、この速度が速い。
巨体が猛スピードで迫るプレッシャーに、腰を抜かしてしまうと、もろに攻撃を受けるだろう。
車に引かれた以上の衝撃だろうから、骨折程度の怪我じゃなすまないはずだ。
「このタイミングかな」
アクロマルスが自分の手前30mの位置に来た瞬間。
真上に飛んだ。
「そして。ここですね」
アクロマルスが元々自分がいた位置にまで来てくれたら、手を伸ばしてアクロマルスの背中に触れる。
「
【ベキっ】
骨が折れる音が聞こえた後。
【ごああああああああ】
断末魔が10層の部屋に鳴り響いた。
絶命する前に、一礼を忘れない。
自分は、深く頭を下げた。
自分の必殺技『
アクロマルスの背骨を折るには十分な威力で、このパンチで内臓も粉砕となり、魔晶石へと変換されていった。
直径10㎝の魔晶石となった。
アクロマルスは、Bランクモンスターのレベル帯にしてはイージー。
強さで言えばCなのだが、輩出してくれる魔晶石の大きさがBランク相当なので、Bへと昇格しているお得感満載のモンスターだ。
魔晶石の大きさの目安は。
Eランクで1㎝。
Dランクで3㎝。
Cランクで5㎝。
Bランクで10㎝。
Aランクで25㎝。
Sランクで50㎝。
このEの1㎝の価値でも、燃料にすれば、車のエネルギー40㎞相当の走行距離を稼げますし、武器資材とすると鉄砲玉100発には換算される。
だから、末端のハンターでもなかなか良い稼ぎになる。たまにいるモグリのハンターが出現するのも、こういう稼ぎの良さから来るものだ。
ただし、彼らはソロが多いために、死亡率も高い。
そこで、政府が、彼らを管理したかった理由に、せっかく危険を冒してまで潜るのだから、真っ当に稼いでもらいたいという思いがあったりする。
まあ、でもここにも裏がある。
相手は政府だ。
ギフターズである彼らを野放しにするわけがない。
それに政府の中枢は、別のとある争いがあるのですが。
まあ、とりあえずそこに目を瞑っても、一般人でもお金持ちを持てるチャンスはあるので、正規ハンターとして働いた方が良い稼ぎとなる。
「はい。終わりました」
「課長!!! 凄い。今のなんです。うちのパンチと同じ?」
「まあ、そんな感じでね」
倒した後、雰囲気が一変した。
辺りの空気が淀んでいく気がする。
「ん? 変だな。倒したはずだから、扉が・・・」
入口の扉が開いているのは当たり前。
ボスを倒せないと判断したら退却をしてもいいからだ。
しかし、出口の扉が開かないのは、謎。
ボスを倒せば開く扉が、開かずの扉となるなんておかしい。
「課長・・これ・・・な、なんですか」
「ん? な!?」
沖田君の体の周りが淡く光る。
彼女の足元を見ると、地面に何らかの魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。
「これは、何かの仕掛け。ダンジョンのイレギュラートラップ? まずい沖田君」
「か、課長」
彼女の手を握って、入れ替わるようにして、自分が光の中に入った。
「これは、ここに来た誰かを狙った罠か」
モンスターを倒したことで油断させて、どこかへ転送する罠だと思う。
「ここで掛からねば、誰かが引っ掛かるまで行われるはずです」
これは、ここで自分が罠に掛かっておいた方が良い。
新米ハンターでは対処できないはず。
「ならばここは自分が入ります。沖田君。君は本部にこの事態を連絡してください! 五味さんによろしくとお願いしま・・・」
「課長・・・・課長・・・・課長おおおおおおおおおお」
こうして、どこかへ飛ばされた。
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