Iターン募集中告知事項アリ

山岡裕曲

第1話 移住者田中圭佑

僕の名前は田中圭佑。現在は大阪の製氷工場で働いている。

一生懸命働いて素敵な女性と出会い、かわいい娘も来てくれた。不満はない…はずだった。


「ねえお父さんー、レナにもチャンネル譲って!」

「あ、ああごめんね。いいよ」

「お父さんまたいなかで暮らすテレビみてたのー?」

「うん、なんか心にひっかかるというか。いいなと思うんだ」

そこに僕の妻まいが割り込んできた。

「あら、もし田舎で仕事決まったら家族みんなで住もっか。もしやるならレナが小学校に入るタイミングに重ねてほしいな」

「おいおい、まだ俺は行きたい、なんていとててないぞ?」

「『まだ』ってことはやっぱそういう気持ちはあるんだ?」

「…少し」

「ならちょうど良かった。私の趣味紅茶なの知ってるよね?この古民家、移住者にくれるんだって!ここでカフェとかやりましょうよ!」

「なるほど…Iターンか…」

夢みていた田舎暮らし、喧騒から離れのびのびと子育てをする姿を想像し自然と笑みがこぼれた。


数カ月後、田中一家は体験宿泊ということでIターン候補地である枝島に上陸した

「ここなら本土とも近いし、万が一のことがあっても広島市にいけるのも安心だね」

「そうね。とりあえず市役所にいって説明を受けましょう」

市役所では魅力的な提案を次々とされた。チラシにあった物件の譲渡はもちろんのこと子どもを連れてきた家庭には祝い金も渡しているらしい。住民サービスも人口が少ない分手厚いようだ。

「すごくいい島だね。ここで暮らしたいな」

「ありがとうございます。私共に何か質問はございますでしょうか?」

「ああそうですね、この『告知事項あり』とはなんですか?」


役所職員は驚いた顔でチラシを見返した。

「いけない!これ言わないとダメな奴だったすみません!実は譲渡する物件がある地区なんですが、時折奇妙な声が聞こえると噂があるんですよ」

「え?奇妙な声とは…」

「ピギャー!とかピギー!とか。我々も声の正体が何か調査中ですがまだ詳しいことはわかってないんです」

「え、もしかしてお化け!?こわーい!」

レナがプルプル震え出した

「レナ、大丈夫よ。あそこみせてもらったけど裏山もあったじゃない。きっと野生動物がいるのよ。」

「そうか、そうだよな。もし害獣だった場合…」

「あ、その点はご心配なく。こちらで罠などは支給させていただきますし猟友会も活動してますので」

「ああ、なら良かった。」

不安が晴れた田中一家は枝島への移住を決める判を市役所で押した。


一方そのころ、枝島のはずれにあるとある一軒家

「ピギャー!ピギー!フスードンドンドンドンドンドンドン!」

この世のものとは思えない鳴き声がこだましたかと思えば

「キャケロビャ!」とマヌケな音を出してから静止する怪奇現象が住民でも噂になっていた。

「…町内会長、いつもご迷惑おかけしております」

「いいんだよ辰男さん。ここではお互い様だよ。淳兵くんのことは一部の町内会役員にしか知らせない、でいいんだね?」

「はいお願いします。『アレ』はしっかり見ておきます」

疲れ切った老人が恰幅のいい町内会長に頭を下げていた。

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