第6話 お願いの代償
蛍光灯の半分が落とされたフロアに、書類をめくる音だけが響いていた。
昨日の寸止めが頭から離れない。視線は何度も真理子さんへ引き寄せられ、鼓動が妙に早い。
真理子さんはパソコンを見つめながら、作業をしている。カチカチとマウスを動かす音が聞こえる。
確認作業が終わったのか、真理子さんが椅子に身体を預けて伸びをしている。真理子さんの動きをひとつひとつ目で追ってしまうようになった。
気がつくと、真理子さんの前に立っていた。
急に近づいた俺に真理子さんは、少し驚いた様子だ。
「どうしたの?」
首をかしげる仕草に、喉がつまる。
「昨日の……昨日の続きをお願いします」
意を決して声にした。
自分でも驚くほど、熱を帯びた言葉だった。もう我慢ができなくなっている。
俺の言葉に少し目を見開いた後、真理子さんはゆっくりと笑みを浮かべ、俺のネクタイを指でつまみ上げる。
指先でネクタイを撫でながら、囁く。
「いいわよ。ただし――私の言うこと、全部聞けるならね?」
喉が渇き、頷くしかできなかった。
「じゃあ、証明して」
◇
コピー機の影に押し付けられる。背中に硬い壁が触れる。
「私が良いと言うまで、絶対に動かないこと」
ゴクリと喉を鳴らす俺を、真理子さんは愉しげに見ていた。
ネクタイを弄びながら、胸をわずかに寄せてくる。布越しの柔らかさが伝わり、呼吸が浅くなる。
「ほら、息が荒いわよ」
囁きながら、俺の腕に自分の手を添える。
それだけで全身が震え、下腹部は熱を帯びていく。
腰をずらされ、太腿に指先が触れる。小さな円を描くように撫で上げられ、熱が這い上がってくる。喉が勝手に鳴った。
「動かないで。……いい子ね」
命令の言葉が、胸の奥を締め付ける。
真理子さんの視線が、真っ直ぐ俺を射抜く。
「そんな顔して。……ほんと、わかりやすいわね」
頬が熱くなり、目を逸らそうとすると、顎を軽く持ち上げられる。
視線を外させてもらえない。羞恥で心臓が暴れ、呼吸が乱れる。
「動かないで。こんなことで、興奮してるの?」
胸が触れるほどの距離で、吐息が混ざる。
意識すればするほど、荒い呼吸は抑えられない。
指先が鼠径部ぎりぎりをかすめる。布越しの刺激に腰が浮きそうになるが、核心には触れない。焦燥が喉を詰まらせる。
「……誰か入ってきたら、どうするの?」
耳元の囁きに背筋が震え、羞恥と恐怖が混ざり合う。
それすらも熱に変わっていく――。
「昨日の続きって...」
真理子さんが俺の太ももを撫で上げながら言う。
その時突然、電話が鳴った。
真理子さんは受話器を取り上げ、普段どおりの明るい声を響かせる。
「はい、来週の件ですね。ええ、大丈夫ですよ」
受話器越しの柔らかな声とは裏腹に、もう片方の手が静かに俺の腰へ伸びてきた。
ベルトの上を指先でなぞり、わざと軽く押し込む。骨の感触を確かめるみたいに、何度も上下に滑らせる。
腰が反射的に震え、息が乱れる。だが電話口の声は変わらず落ち着いている。
「……はい、そちらの資料も確認しました」
指先が、ゆっくりとベルトの留め具に触れる。
金属に爪が当たり、カチリと小さな音を立てた。
背筋が跳ねる。逃げられない。外される――。
「ええ、構いません。資料も問題ありません」
そして、バックルが外される。
ジッパーに指がかかり、下ろされる音が、爆音のように耳に響いた。
「っ……!」
呼吸が乱れる。
するりと布の中に真理子さんの指が潜り、硬さを直接握り込まれる。
熱が掌を通して脳まで突き抜け、腰が勝手に跳ねた。
(声出さないで)
彼女の目はそう言っている。
電話口では柔らかく笑いながら、視線は俺を捉えている。
爪で俺の先端をかすめ、ゆっくり握り直す。
そのたびに、背筋が震え、視界が滲む。
真理子さんの爪先が、俺の先端を執拗にこすってくる。自分の股間が熱く、強く脈を打っていることがわかる。
真理子さんは腰が動かないように耐えている俺を横目で見ながら、電話の相手と話し続けている。
「ふふっ、そうなんですか。それでしたら...」
明るい声とは裏腹に、真理子さんの手は俺の肉棒を掴み、上下に動かし始めた。
時折、親指で先端をかすめることも忘れない。
「...ふっ...」
声が漏れそうになりながらも、必死に堪える。
「はい、それでは明日までに……」
仕事の声とは裏腹に、俺の下半身は荒々しく弄ばれる。
強弱をつけて真理子さんの手に扱われるたびに、腰が壁から離れそうになる。
必死に耐えても、熱はもう抑えきれない。
限界が近い――。
「ありがとうございます。助かります」
電話口で笑みを絶やさないまま、真理子さんは俺の先端をグリグリと親指で強く擦り始めた。
膝が震え、呼吸が荒くなりすぎて、もう誤魔化せない。
喉から声が漏れかけ喉を手で押さえた瞬間、ぐっと強く握られ、全身が痙攣した。
……そのままこの熱から解放されると思った。
けれど彼女は、寸前で手を離した。
◇
カチッと受話器を置く彼女。
息が整わない俺に、親指と人差し指を見せ、擦り合わせながら、彼女は言う。
「こんなに、ヌルヌルにして。どうしてほしいか、ちゃんと言いなさい」
俺の先端から垂れ流された液を弄びながら、彼女は俺の返事を待っている。
ネチリネチリと、俺の目の前で指に絡む液体の糸を見せつけてくる。
羞恥で震えながらも、言葉を吐き出した。
「もっと……触ってください」
「ふふ…良い子ね」
微笑んだ唇が残酷に見える。
「でも、今日はおしまい。動くなって言ったのに、喉を押さえて動いたでしょ」
真理子さんは涼しげに笑う。
「あれはっ…声が…」
言い訳をしようとする俺に近づき、真理子さんは俺のネクタイを静かに締め直す。
熱を奪ったまま、何事もなかったようにデスクへ戻っていく。
◇
荒い息が止まらない。
張り詰めた熱は収まらず、硬さを抱えたまま震えている。
欲望の波を寸前で断ち切られた身体が、脈打ちながら悲鳴を上げていた。
――もう、完全に支配されている。
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