第4話 沈黙の支配
飲み会の席で、真理子さんに「直樹くんも来るでしょ?」と軽く言われた瞬間から、胸がざわついていた。
それはただの社交辞令かもしれない。
けれど俺にとっては、誘われたこと自体が特別に聞こえてしまう。
◇
居酒屋では、彼女はいつも通り明るくて気さくで、誰にでも笑顔を向けていた。
上司に冗談を飛ばし、後輩のグラスを気遣い、場を仕切る。
その姿は、昼間のオフィスと同じ「頼れる先輩」。
だけど俺は、横顔を盗み見るだけで胸が高鳴っていた。
テーブルの下で、膝がかすかに触れた瞬間、心臓が跳ねる。
◇
飲み会がお開きになり、同僚たちが散っていく。
気づけば、真理子さんと俺だけが同じ方向。
自然にタクシーに乗り込んだ。
街の灯りが窓に流れていく。
車内は静かで、狭くて、やけに鼓動が大きく聞こえる。
シートに置かれた彼女の手。
俺は意を決して、その手に触れた。
驚かれると思った。
振り払われるかと思った。
けれど真理子さんは、逆にゆっくりと俺の手を掴み、自分の膝の上に乗せた。
タイトスカート越しに、張りのある肉感が掌に広がる。
思わず息を呑む。
布越しでも分かる。
柔らかさと同時に、弾むような張りがある。
指先にまとわりつく熱は、掌から腕へとじわじわ這い上がっていく。
その感触があまりにも生々しくて、体の奥が勝手に反応してしまう。
下腹部がじんわり熱を帯び、ズボンの内側で硬さが膨らみ始めた。
羞恥と昂ぶりが入り混じり、息が荒くなる。
その上から、彼女の右手がそっと重ねられる。
逃げられない。
撫でているように見えて、俺は何もしていない。
触れさせられているだけだ。
完全に支配されていた。
◇
しばらくして、俺の手に重ねられていた真理子さんの右手が動いた。
俺の太腿に触れ、爪先でゆっくりなぞり始める。
布越しに、熱と刺激が這い上がる。
なぞる軌跡は、少しずつ、じわじわと股間に近づいていく。
喉の奥が震え、息が荒くなる。
股間は脈打つように熱を帯び、ズボンの内側で張り詰めていく。
太腿をかすめるたびに、その硬さが自分でもはっきり分かる。
羞恥と興奮が一度に押し寄せ、腹の奥が痺れるように疼いた。
背筋にじっとり汗が滲み、脚先まで震えが走る。
――こんなところで反応してるなんて、情けない。
――でも、止められない。
「……っ」
声が出そうになり、唇を噛んで必死に堪える。
この車内には、運転手がいる。
もし声が漏れたら、すべてが知られてしまう。
その想像が余計に胸を締めつけ、下半身を熱くする。
――気づかれたらどうしよう。
――でも、このまま続けてほしい。
矛盾した思いが絡み合い、羞恥の奥から快感がじわじわと膨れ上がる。
恥ずかしさに震えながらも、ぞくぞくする。
逃げたいのに、もっと深く支配されたい。
けれど真理子さんは視線を窓の外に向けたまま、何も言わない。
ただ無言で、俺の反応を楽しんでいる。
まるで「出方を窺っている」ふりをしながら、すべてを見抜いているように。
爪先が、股間のぎりぎり手前で止まった。
息が詰まり、心臓が爆発しそうに高鳴る。
もう、自分の意思ではどうにもできない。
彼女の指ひとつで、俺は壊されてしまう。
支配されているのは、身体だけじゃない。心もだ。
◇
タクシーが停まった。
彼女はすっと俺の太腿から手を離し、自分の太ももから俺の手も外す。
あっけないほど自然にドアを開け、夜の街へ降りていく。
振り向きざまに、窓越しにただ一言。
「……またね」
ドアが閉まり、車が動き出す。
掌には、彼女の熱がまだ残っている。
昂ぶりを抱えたまま、俺はシートに沈み込んだ。
もう、逃げられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます