4-3

「……なるほど」


 息を乱しながら叫んだ古和玖に、奇はふつりと呟いた。


 妙に透明なをしていた。

 何かに気づかされたような、何か大切なものを見つけたような。


 澄んだ美しい眼差しをしていた。

 生きた体温と鼓動を、銀色の瞳の奥に宿していた。


「なるほど、なるほど」


 奇はゆるりと肩から力を抜き、ふわりと優しく微笑む。


「いいですね、とてもいい」

 何が、とは言わない。


 訝しげに眉根を寄せる古和玖に、奇はさらりと着物の袖を翻した。


「――失礼しました。俺はもう行きましょう。その代わり」


 洗練された動きで扉の前まで近づき、古和玖の隣を通り抜けてドアノブを握ったそのとき、奇はわずかに古和玖のほうを振り向いた。


気を付けてくださいね。初めて会ったときにも言いましたが、どうも最近、このあたりの怪談は荒れていますから。――人にはあれは危険です」


 では、とそれだけ言い残してドアが開き、そして、ぱたんと閉じる。

 遠ざかっていく足音。



 古和玖はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがてふーっと長く息を吐き出すと、再びずるずると椅子に座り込んだ。


 まだ小さな成長途中のてのひらを開いて、じっと見下ろす。



 また、言われた。

 初めて会った時も、今も、――『人』と。


「……そんなわけ、ないだろ……」


 ぐっと握りしめた拳に額を押し当てて、古和玖はしばらく、じっとその場から動かなかった。





 『僕』が死ぬまで、あと、一人。

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