1-2
――不吉で、鬼魅の悪い?
古和玖はすっと目を細めて、睨むように男を見据えた。
その銀色の視界に映っているのは、眼鏡の奥に潜む赤い瞳だけではないのか。
おそらくはさらに深く、
その目には。
「あなたには、どこまで視えているんですか」
緊迫した声音をさらりと受け流して、男は悠然と煌びやかに微笑んでみせる。
「さあ。俺が今まで出会ったこともない、とびっきり面白そうな怪談が目の前にある――それくらいです」
ひんやりとしたぬるい風が、二人の間を流れ落ちた。
緩やかに風に吹かれる金糸を骨ばった片手が鮮やかに抑えるのを、古和玖は目を逸らさずにじっと見ていた。
男は古和玖と視線を合わせ、にっこりと笑む。人のよさそうで、胡散臭さを微塵も感じさせない――それでいて、あまりに綺麗すぎてどこか裏があるように思えてしまう、そんな美しい笑顔だ。
「縁がありそうなのでまた会いましょう、少年。それと、今宵は出歩かないほうが良いと思いますよ。どうもこのあたりの若い
狐のような笑顔を残して、男は軽やかに身を翻した。
「……」
その背中を見送って、古和玖は眼鏡の縁に指を添える。
大丈夫。自分の目は、今は、たぶん。
「人には、か」
ゆっくりと手をおろして小さく呟くと、古和玖は男とは反対方向に向かって歩き出した。
――人には危険すぎる。
初対面で怪談呼ばわりしておいて、去り際には人間扱いをする。
もしも古和玖のことを奥の奥まで見抜いているのなら、到底、人間なんて思えないだろうに。
まだ僕は、人間でいられるのだろうか。
とっくに消えたはずの想いがふつりと泡のように浮かんできたから、紙屑のようにぐしゃぐしゃに丸めて、呑んだ。
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