第17話 決戦の火蓋
翌朝、清々しい空気が王宮の広間を包んでいた。貿易政策に関する第二回会議がついに開幕する。セリカ・ラピッドにとって、この日はこれまで準備してきたすべてをぶつける場であり、自らの名誉と信頼を守り抜くための決戦だった。
広間には貴族たちが集まり、早くもざわめきが起きていた。その視線の多くはセリカに注がれていた。中には好意的なものもあれば、冷ややかなもの、あるいは興味本位のものもあった。しかし、彼女はそのどれにも動じず、まっすぐ前を向いていた。
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会議の開始
進行役である王宮書記官が会議の開会を告げ、最初にセリカの提案が議題として挙げられた。
「では、本日の議題であるラピッド令嬢の貿易政策提案について議論を始めます。」
その言葉が発せられると同時に、広間の空気が引き締まった。
セリカはゆっくりと立ち上がり、準備してきた資料を手に持ちながら、壇上へと歩み出た。その一挙手一投足に、会場の全員が注目していた。
「改めまして、ラピッド公爵家のセリカ・ラピッドと申します。本日は、私が提案した貿易政策の改革案について、具体的な説明をさせていただきます。」
彼女の声は凛としており、広間全体に響き渡った。その姿には、一切の迷いも弱さも感じられなかった。
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提案の説明
セリカはまず、現在の貿易体制が抱える問題点について詳しく説明した。具体的な数値や事例を挙げながら、現行制度がいかに公平性を欠いているかを指摘した。
「現行の貿易制度では、特定の貴族が過度に利益を独占しており、新規参入者や商人たちにとって非常に不利な状況が生じています。その結果、国内の経済活動が停滞し、貴族社会全体に悪影響を及ぼしています。」
彼女は淡々とした口調で話を続けたが、その内容は鋭く、核心を突いていた。続けて、改革案がどのように問題を解決するかについて述べた。
「私の提案は、貿易許可制度を見直し、より公平で透明性のある体制を構築することを目的としています。これにより、貴族と商人が互いに利益を享受できる関係を築き上げることが可能です。」
さらに、ヴィクトール・エバーグリーンから提供された成功事例を元に、改革案の効果を示す具体的なシミュレーション結果も提示した。その資料は詳細かつ説得力があり、多くの出席者が頷きながら耳を傾けていた。
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アルヴィンの反論
しかし、セリカが説明を終えるや否や、アルヴィン第二王子が立ち上がった。彼の表情には余裕があり、どこか挑発的な態度を感じさせた。
「ラピッド令嬢、あなたの提案は確かに斬新です。しかし、その実現には多くのリスクが伴います。例えば、透明性を高めると言いますが、その監視体制を構築するための費用はどこから捻出するのですか?」
彼の言葉に、保守派の貴族たちが頷き始めた。
「確かに、それは現実的ではない。」
「無駄な混乱を招くだけではないか。」
アルヴィンはさらに続けた。
「そして、あなたの提案が一部の商人に偏った利益を与える可能性についても懸念があります。この案は本当に公平なものなのでしょうか?」
その言葉に、一部の商人たちが不安げに視線を交わした。
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セリカの反論
アルヴィンの挑発に対し、セリカは少しも動じることなく、冷静に応答した。
「殿下、ご指摘ありがとうございます。まず、監視体制の費用についてですが、これは改革によって得られる税収の増加を活用することで十分に賄うことができます。その詳細な試算については、こちらの資料に記載されています。」
彼女は手元の資料を指し示しながら、具体的な数値を示して説明した。彼女の冷静な態度と明確な根拠に、多くの貴族たちが感心の表情を浮かべていた。
「また、この改革案は特定の商人を優遇するものではなく、すべての商人が平等に競争できる場を提供するものです。それが結果として国全体の経済を活性化させ、貴族社会にも多大な利益をもたらすと考えています。」
その堂々とした言葉に、一部の商人たちは再び彼女への信頼を取り戻し始めた。
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レオンの援護
議論が続く中、第一王子レオンが静かに立ち上がった。彼の発言は、それまでの空気を一変させるものだった。
「私もラピッド令嬢の提案に賛同する。確かにリスクは伴うが、それ以上に得られる利益は大きい。そして、何よりも重要なのは、この国が新たな未来へと進むための第一歩を踏み出すことだ。」
彼の言葉に、会場全体が静まり返った。レオンの発言は、貴族たちの間で大きな影響力を持つものであり、彼がセリカを支持していることは、多くの者たちにとって大きな指針となった。
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議論の収束
最終的に、進行役が会議をまとめる形で議論は収束した。
「ラピッド令嬢の提案については、さらなる検討を加えた上で、次回の会議で最終的な決定を行うものとします。」
その言葉に、セリカは静かに頷いた。完全な勝利とは言えなかったが、彼女の提案は多くの支持を集めることに成功し、次の会議へと繋がる形となった。
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新たな覚悟
会議後、セリカは広間を後にしながら小さく息を吐いた。その瞳には疲労の色が浮かびながらも、確かな達成感が宿っていた。
(次回の会議では、さらに強い反発が待ち受けているでしょう。でも、私は負けません。この提案がこの国の未来に必要であることを、必ず証明してみせます。)
馬車に乗り込む彼女の背中には、これまで以上に強い覚悟が刻まれていた。セリカ・ラピッドの戦いはまだ終わらない――むしろ、これからが本当の勝負だった。
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