結束し強者へ挑む
デミトリアの屋敷を訪れてから数日が経ち、丁寧な接客と潤沢な設備と心休まる環境に旅路の疲れはおろか、これから控えている戦いに向けての不安や緊張も適度に解され万全な状態へとエルクリッド達の心身は向かっていく。
その間にデミトリアの姿は何度か見かけはしたが軽い挨拶程度であり、これから戦う者同士としてあえて距離を置いている彼の態度が感じられた。
そうして十分な時間をかけてエルクリッドが仕上がった頃合いにデミトリアとの戦いの内容が提示され、それを伝える役を担ったタラゼドから聞かされたエルクリッド達は驚愕する。
「デミトリア様一人に対して、あたし達全員で……ですか?」
えぇ、と小さく頷きながらタラゼドがエルクリッドに答え、聞かされた内容に各々が思案する。デミトリアが提示したのは挑戦者たるエルクリッドと、その仲間全員を相手どるという戦い。
同じように複数人を相手にするのは十二星召セレファルシアらでもあったが、デミトリアのそれは条件ではなく彼本人の希望という形で異なるもの。
無論、本人の希望である以上はそれを断るのも可能であるが、それだけに意図が何なのかというのは疑問である。それについてもタラゼドは己の知り得るデミトリアという人物とリスナー像に触れた。
「デミトリア殿は一対一において不敗のリスナーであると同時に、今現在彼と単独で挑み勝てる者はいません。同時にその強さ故に力比べにおいてデミトリア殿は不公平と考え、勝る要素を相手に与えるのが務めだとよく仰っています」
「でもそれって、逆に相手に失礼なんじゃないっすか? 傲慢、っていうか」
「シェダさんの述べたようなご意見があるのはデミトリア殿も承知の上、傲慢とも取れるのも間違いありません。ですがそれを口に出せる程の実力者であり、未だ衰える事を知らずにいるのも事実ですからね」
老いて行くにつれて腕が落ちる事はリスナーとて例外ではない。老いて尚も成長し高みに在り続けるというのは稀にいる存在であるが、デミトリアがそれというのは認めたくはないが事実であった。
確かな自負、傲慢そのもの、いずれにしても揺るぎない強い思いがそうさせ、そこに至るまでに経た道程は果てなく遠く、百戦練磨の言葉すらも生温いだろう。
バエルを見出したリスナーというのも鑑みれば合点が行く要素もあるが、いずれにせよデミトリアに単独で勝利するのは難しいのはタラゼドが無理と言い切った点からも確かなもの。
エルクリッドは椅子に座った状態で足を組んで顎に手を当てて思案し、どうするかを考え始める。これまでの十二星召達の時と同じように仲間達と力を合わせて挑むべきか、己一人で挑み困難を突破して高みを目指すべきか。
(あたしが選ぶ道……バエルとは違うもの、なら迷う事はない、よね)
答えはすぐに導き出せた。自分が強くなるにあたって誓った事は変わらない、孤高にして誇り高きリスナーとは異なる道を進み強さを得て打ち勝つ。
それを達成してさらなる高みへ挑むならばと、席を立ちノヴァ達を見回してから息を吸って答えを出す。
「デミトリア様との戦い、皆と一緒に戦いたい。もちろん強要はしないし、あたしも一人で戦ってみたいって思いはあるけれど、あたしが目指すものは一人じゃ掴めないものってのは間違いないんだ」
立ち直った時に誓ったものをエルクリッドは思い返す。バエルとは違う強さを身に着ける、今の仲間達との旅を経てそれはより確かな思いと形となり道を示していた。
バエル以上に強大な相手なのは間違いはない、それに挑む事は無謀そのもの。そんなエルクリッドの思いに真っ先に答えたのは、彼女を最も間近で見続けたノヴァである。
「僕も、お手伝いします!」
「ノヴァ……ありがとね、でも無理はしないでよ」
「わかってます」
明るい声色と瞳に闘志宿るノヴァに迷いはなく、ほんの少しの恐れはあれどもそれは強者に対する冷静さ故のもの。
エルクリッドもノヴァを撫でながら笑みで応えると、シェダとリオもまた、仲間の為にその意思を示す。
「ノヴァだけ戦わせるってわけにはいかねぇな、俺もやるぞ。故郷の事で借りを返し切れてねぇしな」
「同感ですね、私もデミトリア殿にローズの力を示すには一人ではなく皆と共に挑む事でと考えています。エルクリッドがそうであるように、私自身も、一人では掴めないものを知りたい」
「シェダ、リオさん、ありがとう」
それぞれの目的を果たしてもシェダとリオはエルクリッドと旅をする事を選んだ。貸し借りのそれとは違う、確かな繋がりが育んだものがそうさせた。
かつて同じような光景を見てきたタラゼドは静か微笑みながら頷き、エルクリッドらが士気を高め戦略を相談し始める姿を見守る。昔と変わらぬ者達がいると感じ、その姿を目に刻みながら。
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