第4話 ギャルは割と自分勝手?



「大丈夫、アニメはヲタクじゃなくても見る!」


 そう、最近は大衆向けのアニメがたくさんある。それこそ、女の子だって少年誌で連載されているアニメを見たりするし、子供たちに人気のアニメを高校生や大学生が見ることだってあるし。

 そうそう、萌え系アニメに嫌悪感を感じる人はいても大衆アニメなら問題って場合だってあるんだから!


 俺は別に、嫌われたくないだけで自分の趣味を好きになってほしいわけじゃない。


「くっ……どうしたらいいんだ」


 素直にヲタクですとカミングアウトする方がいっそいいのか? 相手もある程度大人なんだし距離はできるとしてもその方が俺の気が楽ではないか? 

 いや、相手が不快になる……とか? 家族を不快にさせるのは俺としても避けたい。家族? 俺とエマさんは家族なんだろうか? 

 だとしたら、家族にドキドキした俺は……え? ヘンタイなのでは……?



——コンコン


「ゆめっち〜、悪いんだけど洗ってあるスウェットかしてくんない?」


 エマさん?!?!?!?!


 突然ノックされるドア、鍵をかけているからかドアノブがガチャガチャと空回る。いや、普通に男の部屋に入ろうとすんな? はい?


「ええっ、待って」


 俺はドアから離れてクローゼットへ向かう。多分、寝巻きがないのだ。母さんはエマさんに比べると小さいからサイズのあう部屋着をかせなかったんだろう。

 っても女の子に貸せるようなスウェットなど持ち合わせていない!! とにかく無地のTシャツでもなんでもいいから探せ俺!


「少し時間がかかりそうだから下で待っててもらってもいいかな?」

「ちょ、開けてよ。もう降りるのだるいし」

「いや、ちょっと待ってほんとに」

「はーい。十円玉登場!」


 かちゃ、かちゃ。

 脆弱な鍵はドアの向こうの十円玉に攻略されて開く。ドアノブを抑えようとしても間に合わない。無情にもドアは開いてしまった。


「えっ……?」


 エマさんは、驚いたような顔で俺の部屋を眺めていた。俺視点、全部スローモーションに見えた。ゆっくりと部屋にある俺の推したちを彼女が見ていた。

 俺ができる最善策はなんだろう? 言い訳をすることだろうか。


 エマさんと目が合う。


「あの、すみません、俺ヲタクです」

「あーそうなんだ。これ、好きなの?」


 彼女は天井に貼ってあるミーちゃんのポスターを指差した。


「はい、好きです。あのエマさんがヲタクが嫌ってことはその」

「うーん、ヲタクは嫌いだけど別にゆめっちはキモくなくない?」


 俺氏、混乱。

 エマさんはあたかも「当然でしょ?」と言わんばかりに首を傾げている。ここは「キモっ!」とか言ってドン引きするところでしょうが、普通は。


「でも、なんでヲタクが嫌いなんです?」

「うーん、キモいから?」

「あっ、そそうですよね?」

「でもさ、ゆめっちはキモくなくない?」

「俺、ヲタクですよ」

「それはそれ、これはこれ。的な。でスウェットかして欲しいんだけどいい? 入るよ」


 躊躇なく俺の部屋に足を踏み入れて、俺が先ほどぐしゃぐしゃにしたクローゼットを漁り出す。隣に来た彼女のシャンプーのいい香りで俺は今の状況をすぐに忘れそうになった。女の子ってこんなにいい匂いするんです???????


 ところで、ヲタク=キモいから嫌い。でも俺=キモくないってのは論理的に破綻しているのでは。


「あ、これかりるね」


 エマさんは、ミントグリーン色のスウェットを取り出して俺に向き直った。そのスウェットの胸には大きく俺の嫁「ミントナ」がプリントされている。

 どうやらヲタクは嫌いだが、ヲタクが好んでいるコンテンツは別に嫌いじゃないらしい? 無茶苦茶である。


「わかった。どうぞ……」

「さんきゅ。まじ助かったわ〜。メイク道具とかアイロンとか持ってきたんだけどさパジャマ忘れるとかまじ鬱〜」

「大変でした……ね」

「ほんそれ。でもさ、凪子さんすごい優しくて安心したんだ。ほらうちのママは可愛いけど男〜男って感じだったし」

「そうなんだ」

「ってか、ごめんね。私がさっきヲタクが嫌いな話をパパとしてたから気ぃ使わせちゃったよね」

「あ、いや……そんなことはないよ。うん」

「よし、じゃー、おやすみ〜」


 目的を達成したエマさんはスウェットを片手に部屋を出ていった。


 彼女のペースに巻き込まれ、彼女の論理に左右され、俺の心は完全に乱されている。それ以上に、シャンプーの優しい香りと可愛い笑顔が俺の脳みそに焼き付いている。

 俺は彼女にとってキモいのか? キモくないのか。


 なんかそんなことはどうでも良くなってしまったような気もする。壁に佇んでいる推しと目があった。


 俺は初めて、三次元の女の子にドキドキしているのかもしれない。



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