ネグレクト少年の拾い食いとヤンデレ少女の餌付け 〜全てはあの子の「離れないで」という懇願で。気づけば僕の方が溺愛していた〜

小鳥遊 愚香

罪と罰

第0話 取り返しのつかない方を、選んだ

 それは、破滅への誘いだった。


 彼女は、自分の両親が車両火災で“溶けてくっついた”あの日の罪を、抱きしめたまま生きている。

 そして今、同じ熱量で、僕との関係を永遠にしようとしていた。


 離れたくない。ただ、それだけの願いが、

 幸福を壊した記憶となって、いまも彼女の精神を焼き焦がしている。


 彼女──わたらいさんが、僕の指を絡め取る。

 逃がさないと宣言するように、強く、恋人繋ぎで。


「ねえ、一緒に探してくれるよね?」


 事故の前、彼女は黒猫を追って車を降りた。

 その一秒が、彼女だけの生死を変えた。本当に、それだけの差で。


「離れ離れになりたくないの」

 その声は、泣く直前みたいに細く震えていた。


「……お願い」


 触れたままの指先も震えている。

 離したら、全てが終わると信じ込んでいるように。


 僕は悟った。

 これは、僕が“選ばれた”ということだ。


 だから僕は、言葉の代わりに

 指を解かず、彼女の震える唇へそっと口づける。


「……もし、くっつくなら。僕は、このままがいい」


 その一言で、彼女の瞳が泣きそうに潤む。

 彼女が僕を救ってくれた過去を思えば、

 差し出せないものなんて、一つもない。


 ──彼女に出会う前から、僕はすでに壊れていた。


 迷いはない。嘘もない。

 それでも、僕はいつだって優しさの形を間違えてしまう。


 兄の秘密を守ると選んだ、あの夏の日から。

 僕の人生は、ゆっくりと狂い始めた。


 そして今。

 その延長線上に彼女がいるとしても。


 これは誤りじゃない。

 また、選んでしまったんだ。

 取り返しのつかない方を。


 救い方を間違えたのは、ここが最初じゃない。

 すべては──救急外来のよじれた光の中から始まる。


 あの光は、僕の最初の誤ちを、ただ静かに照らしていた。

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