第6話 BF(ボーイフレンド)シフト表、起動!

 火曜日の朝、オレは普段より遅く目を覚ました。

 昨晩は遅くまで起きて、自作アプリを改造した「BFシフト表」アプリを開発していたからだ。

 ベッドから起き上がり、スマホの画面を見つめる。カラフルな時間割が画面いっぱいに広がっている。


【鳳城レイナ】

・期間 一週間(来週月曜〜日曜)

・目的 元カレ撃退

・特記 ギャル先輩の彼氏らしく振る舞う


【白雪ほのか】

・期間 一ヶ月(来月末の告白まで)

・目的 恋愛実習

・特記 理想の彼氏像を演じる


【花園みこと】

・期間 三週間(文化祭まで)

・目的 恋愛経験アピール

・特記 自然なカップル感を出す


 スケジュールを組むのは得意だけど、これは過去最大の難題だ。三人の予定が重ならないよう調整し、さらに三人それぞれの「彼氏役」をこなさなければならない。


(でも、オレはやらなきゃいけない。断れないんだから)


 そう自分に言い聞かせながらも、心の奥底では罪悪感が芽生え始めていた。


「兄ちゃん、朝ごはんできてるよー!」

 妹のあかりの声で我に返る。

「はーい、今行く」


 朝食を食べながら、あかりが不思議そうな顔をした。


「兄ちゃん、今日元気ないね。寝てないの?」

「ちょっと遅くまで勉強してた」


 また嘘をついてしまった。あかりにまで嘘をつくなんて。胸がチクリと痛む。


 学校へ向かう道すがら、スマホの通知が次々と鳴る。レイナ、ほのか、そしてみことからだ。それぞれのメッセージに当たり障りのない返信をしながら、今日の放課後の予定を組み立てていく。

 今日の放課後はレイナとの約束がある。みことからの「今日少し話せますか?」というメッセージには、『ごめん、今日は六時から先約がある。明日はどう?』と返信。なんとか調整はできたが、こんな日々が続くのかと思うと、胃がキリキリと痛み出した。


     ◇


 放課後、生徒会室で資料作成を手伝っていると、ほのかが入ってきた。


「あら、時任くん」

「こんにちは、白雪さん」


 内心では動揺している。


(昨日の「恋愛実習」の話、他の人に聞かれたらまずい)


「あの、スケジュールの件ですが……」

 ほのかは他の生徒が聞こえない位置に来て、小声で言った。

「明日の放課後はどうですか?」


 また断れない。でも、三人の予定が重なるのは避けたい。


「大丈夫です。四時半なら」

「分かりました。では、図書室で」

 ほのかは少し頬を赤らめて去っていった。


 副会長の佐々木が近づいてきて、ニヤニヤしながら言う。


「なに? 白雪さんと内緒話? 珍しいね、白雪さんが誰かに相談するなんて」

「いや、生徒会の件で少し」


 嘘に嘘を重ねている。いつかバレるんじゃないか。そんな不安が頭をもたげる。


 資料作りを終え、文化祭準備のミーティングを済ませると、時計は午後五時五〇分。急いで屋上へ向かう。

 屋上のドアを開けると、既にレイナが待っていた。


「やっほー。時間ピッタリじゃん」

 レイナは感心したように言った。

「スケジュール管理は好きです」

「それ、いいじゃん。じゃあ、打ち合わせしよっか」


 レイナとの打ち合わせが進む中、オレの心は揺れていた。


(レイナは本当にいい人だ。明るくて、優しくて……でも、オレは嘘をついている)


「ところで、本当に彼氏のふりをするの大丈夫? 難しい?」

 レイナが心配そうに尋ねた。

「いえ、やります。でも、具体的にどんな風に振る舞えばいいか、教えてもらえますか?」

「そうだね。とりあえず、明日放課後に練習してみない? 校外に出たいんだけど」


(明日はほのかとも約束がある。どうにか調整しないと)


「何時頃から?」

「うーん、四時くらいでいい?」


(四時かぁ……)


 白雪さんとは四時半から約束している。校外となると……。


「すみません、四時だと少し厳しいです。五時からなら」

「五時ねぇ……まあいいか。じゃあ、明日の五時に正門前で待ち合わせね」

「はい、分かりました」


 約束を交わし、オレは屋上を後にした。階段を降りながら、頭の中では複雑なスケジュールが組み立てられていく。


【明日の予定】

・昼休み 花園みことと打ち合わせ

・一六時三〇分 白雪ほのかと図書室

・一七時〇〇分 鳳城レイナと校外


(なんとかなるさ……)


 そう自分に言い聞かせながら、オレは明日への準備を始めた。でも、心の奥底では不安が渦巻いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る