第41話 【外伝】 海の神さま 5
結局その日は朝から夜まで話し合いが続き、神議りで扱う内容から、港や海路の事前準備まで、一気にまとめ上げられたようです。
鎮西の神々はすでに先へ向かわれていたため、宗像三女神様は翌朝、ヒルコ様の船団へ乗り込み、佐太神社へと出発されました。
見送りに立つミホツヒメ様と事代主様へ、三女神様も手をふり返します。
「ホント、事代主さんはすごいねぇ。普段はミホツヒメ様に怒られてばかりなのに、海のこととなると別人みたい。」
「ヒルコ様とあんなに息が合うとは知りませんでした。雰囲気は全然違うのに。」
「事代主様は大国主命様の子、ヒルコ様は両親に捨てられた捨て子。生まれも育ちもまるで違いますが、お二方とも、民草と共に歩くと言う姿勢は共通して持っておられるのですよ。」
イチキシマヒメ様が、面白い話をしてくれました。
「昔、事代主様とヒルコ様は、どちらがどの海を管理するかで話し合ったそうです。でも、お互いが相手をほめ称えて『どうぞどうぞ』と譲り合い、話がまるで進まなかったとか。」
「えっ、譲り合ってたの?」
「ええ。最後は二人で大笑いして、境界線だけを定め、あとは話し合いで決めましょう、と。」
「なんか……平和だねぇ。」
「海は恐ろしい場所です。だからこそ、たとえ敵でも、海の事故では助け合うのが海の民の誇り。お二方も、そんな海の民の心を大事にしておられるのでしょう。」
「なるほど……つまり、『ただの歩く酒樽』ではない、と。」
「何でそこに行きつくのよタギツヒメは!」
この日のヒルコ様の船団には、大きな笑い声が響きわたったと伝わっております。
その年の神謀りでは、住吉大神さまの言付けで一時ざわめきが起きたものの、海の神々があらかじめよく備えておられたおかげで、すぐに落ち着きを取り戻したと申します。
いつとも知れぬ、ある年の神謀りのことでございました。
さて――これは少し先の世の話でございます。
後年になって、事代主様とヒルコ様は、どちらも商売の神さま「恵比須さま」としてお祀りされるようになりました。
ところが、姿かたちも、雰囲気も、まるで違うお二方。
「いったい、どちらが恵比須さまなんだろう……?」
民の方が困ってしまい、ふとたずねたところ、お二方は顔を見合わせ、ふっと笑ってこうお答えになったとか。
「「どっちも恵比須さまに決まっておろうよ」」
そのため、美保神社も西宮神社も、どちらも恵比須さまの総本社とされているのでございます。
海の神さまらしい、なんともおおらかで、気風のよいお話でございました。
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