FILE 15: 監査官の分析

銀座、画廊の地下。

監査官は、3つのモニターに映し出された情報を、静かに見つめていた。

一つは、本牧ふ頭の混乱を、彼が掌握する複数の監視カメラから捉えたライブ映像。

一つは、渚の極秘回線から送られてくる、柏木本部長からのリアルタイムの報告音声。

そして最後の一つは、世界中の軍事・諜報衛星の動きを追う、リアルタイムのトラッキングマップ。


「……面白い」

監査官は、初めて感情らしいものを声に滲ませた。

「CIAを陽動に使い、モサドを炙り出し、その両者がぶつかった瞬間に、本命が全てを攫っていく。見事な作戦だ、中国」


彼は、キーボードを数回叩いた。画面に、一人の男の顔写真と経歴が表示される。

若宮誠わかみや まこと

三崎市政策担当秘書

経歴: 東京大学法学部卒業後、外務省入省。チャイナ・スクールとして将来を嘱望されるも、5年前に突如退官。その後、手島渚の市長選出馬の際に、スタッフとして参加。現在に至る。

特記事項: 外務省時代の専門は、対中ODA(政府開発援助)の企画立案。その裏で、中国国家安全部(MSS)のカウンターインテリジェンス(防諜)担当官と、非公式な接触を繰り返していた記録あり。


「……やはり、君か」

監査官は、若宮の写真を見つめた。手島渚という、最も信頼できる場所に、最も危険な蛇が潜んでいた。若宮が、天野博士の不満や、トリトン・コンプレックスの情報を北京に流し、この全てを仕組んだのだ。


渚の会見も、CIAのディープフェイクも、モサドの拉致計画も、全ては若宮――いや、北京の掌の上で踊らされていたに過ぎない。


監査官は、渚の暗号化端末に、新たなメッセージを送った。

『監査報告:第四のプレイヤーは、中国。天野博士は、彼らに奪われた』

『あなたの秘書、若宮誠を洗え。彼が、北京に通じる"裏口"だ』

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