第10話 王都の暗雲 ― 修繕士の名が広まる時

 盗賊団を退けたその夜。

 村は安堵と勝利の宴に包まれていたが、僕の胸には消えないざわめきがあった。

(……もう、ただの辺境村の話じゃ済まない。必ず外の世界に広まっていく)


 その予感は、すぐに現実となった。


 ◇ ◇ ◇


 ――王都・王城会議室。


 豪奢な円卓の上には、修繕された剣と兜が並べられていた。

 それはギルバート商隊が持ち帰ったものだ。


「これが……例の修繕士の品か」

 鎧姿の将軍が眉をひそめる。


 剣を手に取った別の騎士が、試しに振るう。

 ――シュッ!

 空気が震え、刃はまるで魔剣のように軌跡を描いた。


「な、なんという切れ味……! この剣は、王都最高の鍛冶師ですら再現できなかったはずだ!」

「兜もだ。防御の魔力が宿っておる……修繕ごときでありえん」


 重苦しい沈黙が会議室を覆った。


 やがて玉座に座る国王が、低く口を開いた。

「――修繕士リオン。辺境の村に住まう青年だと聞く」


 王の言葉に、誰も逆らえない。

 その瞳は静かでありながら、確かな興味を帯びていた。


「この力は、国にとって希望となり得る。だが同時に、敵国にとっては脅威だ。放置すれば必ず争いの火種となろう」


 将軍が険しい顔で頷く。

「すでに盗賊団が動いたという報告もございます。放っておけばいずれ他国の間者も動きましょう」


「……ロイを呼べ。彼には再び辺境へ向かわせる。リオンを王都に迎え入れるのだ」


 国王の決断が、王国全土を揺るがす波紋を生み出すことになる。


 ◇ ◇ ◇


 一方その頃、辺境の村。


 僕はまた農具を直し、子どもたちに頼まれた木の剣を修繕していた。

 村は笑顔であふれ、魔物や盗賊を退けたことで自信もついている。


「リオンさんがいれば、もう怖いものなんてないな!」

「次は水車小屋も直してくれる?」


「はは……まあ、壊れてるなら任せてください」


 そんな日常に安堵しながらも――心の奥には、不安の影が消えなかった。


(王都は……必ず僕を放っておかない。もう一度、あの使者が来るはずだ)


 遠く、空にそびえる王城を思い浮かべる。

 暗雲が広がるような感覚が、胸を締めつけた。

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