第4話 折衷案

「トマス、テメェがこのパーティーに居続けたい理由は何だ!」

 ヴィルはトマスに自身のパーティー参加理由を問い質す事にした。そんな彼の問にトマスは

「魔王軍に殺された家族の仇を討ちたいんだ! それ以外何があるってんだ!」

 まるっきりお荷物なトマスだが戦う理由は一応あるのだ。

「他の皆も……思いは同じはずた。魔王に一撃ぶちかます……そうしたいからここまでやってこれたんだ」

 ヴィルはパーティーメンバー達の魔王を討伐したい理由に、今の窮地から脱する為の活路を見い出すのだった。

 「ミリジアもエルフィルも……魔王にぶつけたい恨みがあるはずだ」

 このパーティーに集った皆は全員が魔王に太なり小なりの恨みを抱えている。

 そんな皆の魔王への復讐心を利用して魔王を当て馬にする事でトマスへの当たりを和らげるというものである。

 共通の敵の存在は民族や宗教、種族を超えて結束できる。多少の能力の差など帳消しに出来るはず……

「まぁ、分かるんだけどさぁ。今日、トマス追放するって言い出したのアンタでしょ?」

 つまみの串焼き肉を食べながらのミリジアからヴィルにツッコミが入る。

「そうそう、あんたの手の平どんだけグルングルンなのよ」

 こちらは乾燥した木の実をつまみに同じく酒を流し込んでいるエルフィルから。

「お前、ブレブレ」

 骨付き肉にかぶりついているミノさんから端的な指摘がなされる。

 確かにトマスの追放を言い出したのはヴィルだが、それは今の彼が目覚める前の本来の傍若無人なヴィルである。

「まぁ、良いじゃねぇか! 明日からも頑張ろうぜ! 目指すは魔王討伐だ!」

 話を綺麗に纏めたつもりになっていたヴィルだが、ここで悲報である。

「明日は近隣の村が魔王軍に攻められたからって救援に行くって話だったでしょ?」

 ミリジアからジト目でツッコミが入れられる。

「そ、そうだったか? いや〜うっかりしてたぜ」

 話を誤魔化すヴィルを見るミリジアの視線は冷ややかである。

「襲われた村はオーガを始めとする強力な魔物が主だと聞いています。気を付けていきましょう」

 目覚める前の記憶が曖昧なヴィルにはありがたい、アリーナからの状況説明を兼ねた明日への意気込みが語られる。

(いきなり魔王に挑むよりは肩慣らしも兼ねて手頃な敵を相手に戦うのは丁度良いかもな……)

 などと考えていたヴィルの考えがお笑い草になろうなどとはこの時の彼には知る由も無かった。



 翌日、冒険者ギルドのある地方の街ブリムフォードを出立したヴィル達、勇者一行は南西に半日ほど歩いた位置にある小さな村ハスヴィルを目指していた。

「村が襲われたってなると……それなりに急がないとならないよな」

 前を歩くヴィルが誰にともなく後ろを歩くミリジア、アリーナ、トマスの三人に声を掛ける。

 ちなみにヴィルの隣にはミノさんが前衛として立ち、最前列に斥候としてエルフィルが歩いている。

(…………)

 ヴィルは何気なくトマスを見る。彼は一応のアイテム係としてポーター……いわゆる荷物持ちの役割を果たしている。

 そんな彼の周りには三匹の魔物が従って共に歩いていた。

(せめて空飛べる奴が居れば、上空から偵察とかやりようはあるんだろうが……)

 ヴィルは一人桃太郎なトマスの使い道を考えていた。

 今後のパーティー運営を考えれば、彼がパーティーの役に立つ方法を確立しなければ、いずれパーティー内の不和が再燃してしまいヴィルの破滅も確定してしまう。

 そんな先行き不安な現実にヴィルが頭を抱えていると

「もう、歩けない〜! だから馬車を雇おうって言ったじゃないかぁ〜!」

 パーティーから遅れがちだったトマスが遂に地面にへたり込んでしまった。

(こいつ、の◯太みてーな事言いやがって……魔物に襲われた村に出してくれる馬車なんてある訳ねーだろ!)

 思わずトマスの言動に内心でツッコミを入れるヴィル。口に出したら破滅フラグだから駄目なのは分かっているが……辛い。

 そんな彼にアリーナが駆け寄り

「慈愛の女神様、この者に癒しと安息を……」

 神への祈りを捧げ始めると……


ーパアアァァー


 彼女の手が輝き出し、トマスの身体を光で照らしていく。

「ちょっとぉ〜! いちいちこんなんで止まってたら村に着くの夜になっちゃうじゃない! 夜戦なんて私、嫌だからね!」

 アリーナの治癒魔法で疲労が軽減されたトマスがパーティーに復帰すると、ミリジアから彼に対する不満がぶっちゃけられた。

「ま、まぁ……荷物が重すぎたのかもしれないしな。多少は仕方ないだろ?」

 なんとかしてミリジアを宥めようとするヴィルに対し彼女は

「私だって荷物背負ってるんですけどー! 必要数のマジックポーション全部〜!」

 荷物持ちのトマスに全てを預けるのでは無く、ヴィル達のパーティーでは一応各自で必要な道具はそれぞれ分担して持っているのだ。

 トマスの役割はそれ以上の余剰分や予備など、即時必要とはならない道具を纏めて持たせてある訳だが……

 彼の負担は他と比べても大差は無いはずなのに……やはり体格のせいもあるのかもしれない。

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