悠ちゃんは、驚いた顔をした。私は、そのことに驚いた。悠ちゃんはとっくに、私の気持ちくらい知っていると思っていた。その上で、知らないふりをしているのだと。でも、違ったみたいだ。悠ちゃんは本当に私を妹だと思っていて、完全に妹だと思っていて、それ以上の可能性なんて、頭を過ぎりもしなかったのだろう。

 いっそ笑いたいような気分になった。全然これっぽっちも脈なんかない。そんなことちゃんと分かっていたけれど、ここまで徹底的だと、いっそ。

 ねえ悠ちゃん、悠ちゃんにはずっと、お母さんしか見えてなかったんでしょ?

 口にはできなかった。そうだよ、と言われても、そんなことないよ、と言われても、どちらにしても私には続ける言葉がないし、その言葉を探すうちに、抑え込んでいる涙が決壊してしまいそうな気がしたから。

 これ以上悠ちゃんと向かい合っているのもつらくて、ドアを閉めようとすると、悠ちゃんがドアに手をかけてそれを止めた。

 「待てよ、」

 「なに?」

 「それでも、出ていくのは今じゃない。明日美はまだ高校生だし、それに出ていくなら、」

 俺が出ていく、と、悠ちゃんは言おうとしたのだと思う。私はその言葉を聞く前に首を横に振った。強く、耳鳴りがするくらい、強く。

 悠ちゃんがそう言うであろうことも、私には分かっていた。

 明日美は咲子さんの子どもだけど、俺はそうじゃないから。

 そんな悲しい台詞だけは、口にしてほしくなかった。

 私は悠ちゃんを好きで、悠ちゃんはお母さんを好き。それだけでもう、これまでと同じ三人暮らしは成立しないし、そもそも家族としての形だって崩れていってしまう。それだって分かっているけれど、それでも、そんな悲しい台詞だけは。

 「明日美。」

 見上げれば、悠ちゃんはなんとも言えない顔をしていた。今にも泣きだしそうにも見えたし、はっきりと意思的にも見えたし、微笑もうと努力していることも感じ取れた。

 「ありがとう。」

 悠ちゃんがその顔のまま、呟くように言って、それを聞いたら私は、もう涙がこらえられなかった。わっと泣き出した私の髪を、悠ちゃんは撫でてくれた。お父さんが死んでしまったときも、お母さんが倒れたときも、そして今も、私が悲しかったり混乱しているときには、いつもこの手のひらがあった。もう同じ布団で寝られなくなってしまったけれど、この手のひらだけは、変わらずにあった。

 

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