剣聖は部下と幼馴染を信頼している
オーランドはソフィア宅からラタエの町に帰って来ていた。オーランドはあの警備体制なら襲われても最低限ソフィアを逃すことは充分可能だと思っていた。
騎士事務所で書類の整理をしていると、同郷で今は賞金稼ぎをやっているアレンが尋ねて来た。
「どうした? 」
「いや、怪しい商人をまた見つけてね。小さいことかもしれないが伝えておこうと思ったんだ」
アレンには組織のことを話していた。実力は申し分ない。性格も良し。口も硬い。頼らない理由はなかった。周りの女性ファンはうるさいが、彼自身の評価は覆らなかった。
少しでも情報が欲しいオーランドはその商人のことについて詳しく聞くことにした。
「姿を隠したり、消したりする魔道具は売ってなかったんだけど、服だけを溶かす液体や爆薬を売ってるらしい」
「ほう」
オーランドは明らかにいかがわしい目的にしか使わない液体を売っている商人を調べる必要があると確信した。
「それは危険だ。組織には繋がらないかもしれないが、この町の公序良俗のため取り締まる必要がある。案内してくれ」
アレンはオーランドの顔つきにただ事ではないと思った。
「OK。今すぐでいいかい? 」
アレンは席を立ち今すぐにでも行けるとアピールする。
「いや、リベラがパトロールから帰って来てから行こう」
オーランドはアレンを席に着かせた。
「わかった」
オーランドはパトロールから帰って来たエレナに事情を話して、三人で商人がいる場所へ向かった。
ラタエ東側の人通りが少ないエリアに商人が構える店があった。外観は綺麗にされている小ぢんまりとした店である。
オーランドは店の扉を開く。来客を知らせるような音はなかったが、店員が奥から「いらっしゃいませ」と現れた。アレンが小声であれが商人だとオーランドに教えた
商人はレジに立ちこちらの様子をニコニコと見ていた。
オーランドは常に近づいていく。
「聞きたい事がある。いいか? 」
「はい。なんでしょう」
商人はオーランドが近寄っても笑顔を崩さなかった。
「ここは何を扱っているんだ」
「はい。主に薬品を扱っております」
薬品と聞きオーランドはここが違法薬物を扱っているのではないかと疑った。
「薬品を売るには許可が必要だ。とっているのか? 」
「はい。もちろんです。お見せしましょうか? 」
商人はやはり笑顔を崩さない。オーランドは証拠を見せると言って店から逃げられても困るので一旦ここで引くことにした。
「いや、いい。ここでしか手に入らない薬があると友人から聞いたものでな。少し心配になっただけだ」
「そうでしたか。気になるのでしたら見ていきますか? 」
「嬉しい誘いだが、いいのか? 」
「ええ。案内いたしますよ」
商人はオーランド達が入ってくるまではいたであろう奥の部屋へと入っていた。
オーランドは後ろの二人に目配せをして合図を送った。二人は合図に従いエレナはここで待機。アレンはオーランドについて行った。
部屋は特に怪しいところのない商人の休憩所に見えた。一つ特徴を上げるとするなら、扉の上に先程までいた店の区画の映像がリアルタイムで流れていた。
商人は入って来た方向とは別の方向にある扉を鍵を使い開けた。アレンと共に中に入ると、そこには怪しく光る液体が入った小瓶が棚にびっしりとあった。また、棚もそこら中にあって広さも先程いた場所の倍はある。液体の光る色もまちまちで、ピンクに緑に青と様々である。
「ここは本来一見さんはお断りなのですが、特別です」
商人は話し出した。そして、オーランドとアレンに体を向けた。
「かの有名な剣聖オーランドが来てくれたのですから」
――バン
勢いよく扉が閉まった。
「嵌められたってわけか」
アレンが扉を開けようとノブを回すもガチャガチャ鳴るだけだった。アレンはノブを回すのをやめて扉をぺたぺた触り出した。
「開きそうか? 」
「なんとかね」
アレンは扉にかけられた魔法を分析、解くため魔力を扉に流していく。オーランドは時間稼ぎのために商人に話しかける。
「ここにある薬品はなんだ」
「色々ありますよ。服を溶かす薬から一滴で家を爆破させる薬品、さらには肉体を強化する薬までなんでも」
商人は近くにある瓶を取り、中の液体を揺らしながら答える。
「違法薬物か? 」
「中にはそう言ったものもありますね」
商人は瓶に口をつけて中の液体を一気に飲み干した。
「なぜ、ここに俺たちを案内した? 」
商人の体が膨れ上がっていく。服を弾け飛ばし、半裸となった。筋肉は人が手に入れることができないほどの大きさに傍聴している。
「あなたを始末するためです。先程も言った通りここには危険な薬品がたくさんあります。貴方には効果がなくても、お友達はそうではないでしょう? 」
「なるほど」
商人はオーランドの動きを封じるためにここに閉じ込められたというわけである。恐らくアレンに情報をわざと流したのだろう。棚の配置から剣も振りにくい。
ただオーランドは動揺しなかった。ここに連れて来た二人ならたとえ自分が失敗してもなんとかしてくれると信頼していた。それに相手が薬で強くなろうと一撃で仕留めれば問題ない。
「舐められたものだな」
オーランドは筋肉で一回り以上大きくなった商人に一瞬で懐に入り顎に一発拳を放った。魔法で守る暇もなく脳を揺らされた商人は意識を失った。倒れる商人の体を棚にぶつからない様に支えるオーランド。
「開いたよ」
アレンはノブを回して扉を開いた。
「色々仕掛けがあってね。予想より時間がかかったよ」
「問題ない。こちらも終わったところだ」
オーランドは商人を担いで、アレンと共に部屋を出る。部屋を出るとエレナが二人の男を縛り上げていた。
「そいつらは? 」
「ハワードさん達が部屋に入ったあとに襲いかかって来た人達です」
「奥の部屋には何がありましたか? 」
「違法薬物だ。悪いが応援を呼んで来てくれるか? ここには俺が残る」
「わかりました」
エレナは男達を縛り終えると店から出て行った。
「僕も残ろうか? 」
「頼む」
「了解」
エレナが呼んだ応援の騎士達に薬品のことを任せて、三人は店を出て事務所に戻った。起きた商人を尋問したところ組織に繋がる有益な情報は持っていなかった。
今回は空振りに終わったがこの町の秩序を守れた。オーランドはいい仲間を持ったと思っていた。自分一人ではないことを心強く思った。そして、一人だけ女性達から黄色い歓声を浴びるアレンを見て仲間と呼ぶのはやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます