[更新停止中]剣聖はモテたい
桜羽 遼
剣聖はモテたい
――――エンゲルス王国には剣聖と呼ばれる者がいる。
路地裏にて男が女を庇うように前に出る。
その二人に対峙する男はただ、立っているだけである。
「この女に一体なんのようだ? 」
対峙している男は黙っているだけであった。
「あいつを倒せば良いんだな? 」
男は女に視線をやる。
「ええ。期待してるわ」
女の額には汗が浮かんでいた。
――――剣聖はこの国最強の剣士に与えられる称号である。
女の前にいた男が右腿につけていたホルスターから拳銃を抜き、魔力を銃に流して発砲した。
対峙していた男は剣を振り、銃弾の軌道を変えて男の右肩に跳ね返した。
――――剣聖になりたい理由は様々である。己の力を示すため、剣聖の名誉を使い道場の名を売るため、先代の意志を継ぐため等である。
「てめぇ。何者だ」
男は銃を落とし、傷口を押さえた。
「俺はオーランド・ハワードだ」
剣を納めた男が名乗りをあげ、騎士の証明であるバッチを見せた。バッチは手のひらサイズで盾に国旗が描かれたものであった。
「ハワードって剣聖のハワードか!? 」
「おい、あいつがお前になんのようだよ! 」
男は後ろの女に声をかけた。その声は荒ぶっていた。
――――この男、オーランドもある理由から剣聖となった。
「……私がお尋ね者だからよ」
彼女は自らの手配書を男に見せた。そこには彼女の写真とかけられている賞金が載っていた。
「バーで知り合った後、楽しく会話してたのよ。名前を聞くまではね」
女はため息をついた。
「怪しまれないように立ち去ったつもりだったんだけど……今思えば最初から目をつけていたのね」
「嘘だろ」
「降参よ、ハワード」
男は膝から崩れ落ち、女は両手をあげてオーランドに近寄っていった。
「…………逮捕する」
(お近づきになろうとしただけなんだけどな……)
――――オーランドが剣聖になったのは女性にモテたかったからである。
――――十数年前
エンゲルス王国北部のある村に一人の少年がいた。少年の名前はオーランド・ハワード。後に剣聖となる少年である。
彼は常にモテたいと考えていた。みんなからチヤホヤされたかった。女の子達からモテたかった。ただそれだけを願い生きてきた。しかしどうすればモテるのか分からなかった。だからこそ彼は研究した。どうすればモテるのか。
幸運なことに研究対象は身近にいた。アレンという名前の少年である。彼は赤い髪が特徴な少年だった。彼はいつも女の子達に囲まれていた。女の子は全員彼が好きだったのだ。
アレンに目をつけたオーランドは常に彼と周りの女の子達の反応や会話を遠くから眺めていた。
ある日、アレンは親に連れて行ってもらった狩りで獲物を狩ることに成功したと自慢していた。周りの女の子達は彼を褒めちぎっていた。
オーランドはすぐに村近くの山に入った。入った時は夕方だった。朝に帰ってきたオーランドは全身傷だらけの血まみれになっていた。しかし、彼は全長五メートルにもなるイノシシを背負いながら歩いていた。村の全員が驚き中には気絶する者もいた。褒めてくれる人はいなかった。
またある日、アレンが銃を使えると言って女子達に黄色い歓声を受けていた。オーランドは銃を買えるほどのお金はなかったので石を指で弾く練習をした。銃と遜色ない速度を出せるようになったので皆んなの前で披露した。目の前にあった木を2、3本ぶち抜いた。場は静まり返った。
またまたある日、アレンが剣を使えると言って女子達に囲まれてチヤホヤされていた。オーランドには剣を買う金がなかったので素手で剣と同じことができるように努力した。とりあえず木を切れるようになったのでみんなに見せた。場は静まり返っていた。
アレンの真似をし、女の子達から引かれるを繰り返す日々何年か過ごしたある日剣聖と呼ばれる人間が来た。その剣聖は王国の騎士であり野生動物の活性化調査及び犯罪者の取り締まり強化のため地方の巡回をしていてこの村を通ったらしい。アレン含め全員が彼に夢中になった。
その日以降女の子達の会話が剣聖を褒めるものが増えた。というより村中の女性の会話がしばらく剣聖の話題だった。強い男はかっこいいとか、職業が騎士というのも安定性があっていいとか、国民の安全を守る仕事は素敵とか、そんな言葉があちこちから聞こえた。だからこそオーランドは騎士、そして剣聖を目指すことにした。
――――現在
オーランドは努力の末、剣聖となった。
しかし彼は、彼女いない歴=年齢だった。努力はした。古今東西あらゆる恋愛指南書を読み込み、周りにいるモテモテの人間の真似をし、失敗したことから学び続けてきた。それでも彼女ができた事はなかった。今日も彼は女性からモテる為に仕事に励む。
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