第19話 夢の続きをもう一度
流星群が降り注ぐ屋上。
ゆらは涙を拭いながら、真琴とこよりを見つめていた。
真琴が優しく微笑む。
「あん時、教室で見て泣いたやん。みんなで」
「……奇跡みたい」
こよりも空を見上げる。
「私たちの始まりの場所で、同じ景色」
ゆらの目にまた涙が浮かぶ。
でも今度は、違う涙だった。
「来てくれて……ありがとう」
声が詰まる。
「私、一人じゃないんだね」
「当たり前やん」
真琴がゆらの手を握る。
「うちら、ずっと一緒やで」
「……仲間だから、なにより、友達だから」
こよりも反対の手を握った。
三人で手を繋いだまま、流れ星を見上げる。
光の雨が、優しく降り注いでいた。
「なあ、ゆら」
真琴が口を開く。
「折原さん、めっちゃ心配してはった」
「……走り回ってた」
こよりが付け加える。
「雨の中、ずっと」
ゆらの表情が曇る。
「折原さん……」
その時、屋上の扉が開いた。
「ゆら……」
息を切らした折原が立っていた。
服はまだ雨で濡れたまま。
ゆらは折原の顔を見た瞬間、堰を切ったように泣き出した。
「折原さん!」
駆け寄って、思わず抱きついてしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
折原は一瞬驚いたが、優しくゆらの背中に手を置いた。
「よかった……ゆらが無事で」
「私……私……」
ゆらは折原の胸で泣きながら言葉を絞り出す。
「青山さんに言われたんです」
真琴とこよりが近づいてきた。
「私たちが諦めれば、折原さんを監督にしてあげるって」
ゆらの声が震える。
「ノースブリッジを買い取って、折原さんに監督作を……」
「なんやて!?」
真琴が驚く。
「そんなこと言われて……」
「……だから」
こよりが理解する。
「ゆらは一人で……」
ゆらは折原から離れて、涙で濡れた顔を上げた。
「折原さんの夢を邪魔したくなかった」
嗚咽混じりに続ける。
「でも……でも本当は」
言葉が詰まる。
「本当は、諦めたくない」
ゆらが拳を握りしめる。
「まだ何も作れてない。何も証明できてない。
このまま終わりたくない……!」
折原が優しく言った。
「俺も、正直勝てるとは言い切れない」
流れ星を見上げながら続ける。
「むしろ、正直厳しいと感じている」
3人が折原を見つめる。
「でも」
折原の声に力が込められる。
「挑戦することに意味があるはずだ。
君たちと一緒に作ることに、価値があるはずなんだ」
真琴が涙を拭きながら言った。
「うちも、まだ諦めたくない」
「……最後まで」
こよりも頷く。
「やり遂げたい」
ゆらが深く息を吸った。
「もう一度……最初から」
4人を見回しながら言う。
「今度こそ、みんなで最後まで」
折原が手を差し出した。
「一緒に、作ろう」
ゆらがその手を取る。
真琴とこよりも手を重ねた。
流れ星が、4人を優しく照らしていた。
始まりの場所で交わした、新しい約束。
今度こそ、最後まで走り抜くという誓い。
* * *
翌日、昼過ぎ。
折原家のリビングに、ようやく4人が集まった。
全員、寝不足の顔。
「おはよう……って、もう昼やけど」
真琴が大きくあくびをする。
「みんな無事で良かったわ」
折原の母親が優しく微笑んだ。
「特製のお昼ご飯、作ったから」
テーブルには豪華な料理が並んでいた。
ハンバーグ、エビフライ、サラダ、スープ。
「わあ!すごい!」
ゆらの目が輝く。
「やり直しお祝いパーティーよ」
母親がウインクした。
「さあ、乾杯しましょう」
オレンジジュースで乾杯。
グラスが触れ合う音が、新しい始まりを告げているようだった。
* * *
食事中、話題はアイドル時代のことに。
「そういえば」
真琴が思い出したように言った。
「まだ発表してない曲があるんや」
「あ、『夢の続き』?」
ゆらが反応する。
「あれ、ファンの前では披露できなかったよね」
「……特別すぎて」
こよりが頷く。
折原が首を傾げた。
「特別?」
「私たちの本当の夢を歌った曲なんです」
ゆらが説明する。
「アイドルとしてじゃなくて、一人の人間としての」
「聞いてみたいな」
折原が言うと、3人は顔を見合わせた。
「……今なら」
こよりが小さく言う。
真琴が立ち上がった。
「せやな。折原さんには聞いてもらいたい」
ゆらも頷く。
「公園、行きましょう!」
* * *
夜9時。
近くの公園は人影もまばらだった。
街灯の下、3人が並んで立つ。
「これ、振り付けもあるんです」
ゆらがスマホを取り出す。
「折原さんのためだけの、特別公演」
音楽が流れ始めた。
優しいピアノのイントロ。
3人が動き出す。
月明かりの下、しなやかに、美しく。
♪夢の続きを 描いていこう
♪転んでも 立ち上がって
♪君と一緒なら きっとできる
ゆらの表情が、真琴の腕の動きが、こよりの回転が。
全てが完璧に調和していた。
折原は息を呑んで見つめていた。
3人の生き生きとした動き。
汗が光り、髪がなびき、笑顔が輝く。
(これは……)
折原の脳裏に、ある考えが浮かんだ。
この美しい動きを、そのまま映像にできたら。
生きた表情を、呼吸を、全てを。
♪明日への扉を 開けよう
♪新しい世界が 待ってる
歌が終わり、3人が決めポーズを取る。
息を切らしながら、でも満足そうな表情。
「どうでした?」
ゆらが期待を込めて聞く。
折原は、しばらく言葉が出なかった。
そして、小さくつぶやいた。
「これなら……できるかもしれない」
「え?」
3人が不思議そうに折原を見る。
折原の目に、新たな光が宿っていた。
希望の光が。
【お礼】
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございます。
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これからも続けていけるよう、頑張っていきます。どうぞよろしくお願いします!
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