二人目の不審者

竜太郎

第1話

どうせ社会の歯車として生きるなら、楽な仕事がしたい。友人の紹介で始めたコンビニのアルバイトは、怠惰な私に最適正だった。

 作家を目指す傍ら始めたのだが、深夜帯は時給が十五パーセント増しの売り文句に見事に釣られ、今レジに立っている。

 街は大規模停電が起きたように暗く、天井や商品棚の蛍光灯は、この街唯一の光のように輝いている。昼間に比べて当然客足も無く、期限切れの廃棄処分や、新作の在庫整理や陳列に時間を費やした。

 日付が回って三十分が過ぎた頃、男が一人が入店した。真っ直ぐレジに向かうなりすぐ「トイレ借りてもいい?」私は訝しむも快諾した。

 店員に予め尋ねる人などこの世にいたのだと、絶滅危惧種を見るかのようだった。男は駆け足でトイレに向かうと勢いよく扉を閉めた。

 その五分後、別の男が入店した。男は商品棚を眺めているというよりは、誰かを探すように店内全体を見回している。五分前の男とは違い、私に断りもせずにトイレに行く。その後レジに向かってきた。

 「男がここに来ませんでしたか。」

 その間、店内の出入りは一度もなかった。

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二人目の不審者 竜太郎 @waltalow

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