第3話「杉崎さんと木下くん」

(お、落ち着くんだあたし……今二人きりだけど、落ち着け、落ち着け……)


 あたし、杉崎花音は、自分にそう言い聞かせていた。

 ゴールデンウィークの休みの日、あたしはお仕事が休みで、彼氏である木下大悟も学校が休みということで、あたしの家で二人で会うことにしていた。今日は父も母もいない。二人きりの空間。あたしも大悟も大人になったことで、意識するのは――


「……か、花音? どうかした?」


 その時、大悟があたしに話しかけてきて、ハッとした。い、いかん、あたしったら、その……え、えっちすることばかり考えてしまった。

 でも、さっきも言った通り、あたしも大悟も大人だ。大悟だって立派な男なんだし、えっちしたい気持ちはあるはず……でも優しい大悟は、あたしを襲ったりなんかしない。いつも隣で優しく笑ってくれる。


「あ、い、いや、なんでもない……大悟は大学忙しいか?」

「う、うん、勉強がそれなりに忙しいけど、まぁなんとかやれてるかな。か、花音はお仕事忙しい?」

「そうだなぁ、介護職だから、おじいちゃんおばあちゃんと話するのが楽しいよー。あたしバカだからさ、ためになる話聞いたりして、いつも笑ってるっていうかさ」

「そ、そっか、花音が立派に働いているって知ると、なんか僕も嬉しくなるよ」

「あははっ、あたしみたいな奴でも、人の役に立てるんだなーって思うと、なんかあたしも嬉しいよ」


 あたしはそう言って笑った。大悟も笑っていた。笑顔も可愛い大悟は、あたしの大事な人だ。高校二年生の時からお付き合いをしている。そこそこ長くなってきたが、ケンカをしたことは一度もない。きっと大悟が優しい性格をしているからだなと思っていた。


「大悟は大学院……だっけ、行かないといけないんだろ?」

「う、うん、大学のさらに先だね。だから社会に出るのはみんなの中でも一番遅くなりそうで……な、なんか、みんなに置いていかれるような気がして……」

「ううん、気にしなくていいよ。勉強を頑張ることも大事なんだよ。働いている方が偉いだなんて言う奴がいたら、あたしが黙ってないからね」

「そ、そっか、ありがとう……か、花音がいてくれるから、僕も頑張れるよ」


 あたしは嬉しくなって大悟に抱きついた。大悟は「お、おわっ!」とびっくりしてたようだが、あたしの背中に手を回してくれた。


「……なぁ、大悟」

「ん?」

「……あたしと、えっちなことするの、嫌か……?」

「え、あ、い、嫌ってことはない……けど、ぼ、僕そういう経験なくて、ど、どうしたらいいのか……」

「……大悟の好きにしてくれたらいいよ。あたしもう我慢できなくて」


 あたしはそう言って、大悟にキスをした……お互い舌が絡まって、えっちな気分がますます高まる……そっと唇を離すと、大悟の息遣いが聞こえてきて……あたしは大悟の手をとって、胸を触らせた。ゆっくりと大悟があたしの胸を触ってくる。


「……花音、大好きだよ」


 いつものおどおどした喋り方じゃない。大悟がはっきりと、あたしを好きだと言った。あたしはもうそれだけでダメだった。


「……大悟、大好きだよ。あたしのこと好きにしていいから……」


 また唇を重ね合って、あたしたちは――

 初めての経験をして、あたしはますます大悟のことが好きになった。

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