笑われても、君が好き。大学生編 短編集

りおん

第1話「ある日の沢井家」

 秋から冬に変わっているこの季節、だんだんと寒くなっているのを肌で感じていた。

 私、沢井真菜は高校三年生。もちろん受験生だ。これまでしっかりと勉強はしてきたが、心の中では不安な気持ちもある。

 本当に私が大学に合格できるのだろうか。そのことをよく考える。

 でも、私には夢があった。お兄様……日車団吉さんの大学に合格して、お兄様と一緒に大学に行くこと。そしてお兄様の入っているサークルに私も入って、大学生活を楽しむことだ。

 そのことを考えると楽しみで、勉強も頑張れるような気がする。

 

「……よし、ここまでやったら大丈夫かな」


 私は部屋で独り言を言った。今日も家で勉強をしていた。ただ難しくて分からないところもある。またお兄様に訊きたいなと思った。

 

 コンコン。

 

 その時、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。私が「はい」と言うと、お姉ちゃん……沢井絵菜が入ってきた。

 

「真菜、お風呂あがったから、入っていいよ……って、勉強してたのか?」

「ああ、うん、できることはやっておこうと思って」

「そっか、真菜は偉いな、私なんかと全然違う」

「そんなことないよ。お姉ちゃんだって高校生の時、一生懸命勉強してたよね」

「い、いや、団吉がいたから頑張れたって感じで……私一人だととても無理だった」

「ふふふ、お姉ちゃんが前向きなのは、お兄様のおかげでもあるんだね」


 私が笑うと、お姉ちゃんは「そ、そうかな……」と、恥ずかしそうにしていた。可愛い。

 お兄様とお姉ちゃんは、高校一年生の時からお付き合いをしている。私はそれが嬉しかったのと同時に、ちょっと寂しい気持ちにもなった。

 というのも、私もお兄様が好きだからだ。優しくて、勉強ができて、可愛い顔をしているお兄様。お姉ちゃんの気持ちに気づいて、二人がお付き合いをする前に、私も好きなんだなと気づいた。

 私の気持ちはずっと心の中にしまっておいた。お姉ちゃんが笑って幸せな方が嬉しいのだ。

 でも、以前お兄様と二人でお出かけした時、自分の気持ちを抑えられなくなって、お兄様に告白した。困るだろうなと思っていたら、お兄様は「真菜ちゃんも大事に想っているよ」と、優しい言葉をかけてくれた。それだけで十分だった。


「……ん? 真菜? どうした?」

「ああ、いやいや、ついお兄様とデートした時のこと思い出しちゃって」

「そ、そっか、真菜も団吉とデートしたいって言ってたもんな」

「うん、あの時は嬉しかったなぁ、こんな私でもお兄様はちゃんと見ていてくれて。私のことも守るからって言ってくれたよ」

「そうだったな、優しい団吉らしいな」

「あ、私がお兄様を奪っていくんじゃないかって、今思ったでしょ?」

「え!? い、いや、それは思ってない……」

「ふふふ、顔に出てるよ。大丈夫だよ、お兄様のことは好きだけど、お姉ちゃんを邪魔するわけじゃないから」


 私がそう言うと、お姉ちゃんは「そ、そっか……」と、ちょっとホッとしたような表情を見せた。


「今は、お兄様の大学に合格することが一番だからね」

「そうだな、真菜が合格してくれると、私も嬉しい」

「うん、そしてお兄様と一緒に大学生活を楽しむんだ。そう思うと頑張れるよ」

「そっか、もう少し大変だろうけど、頑張って」

「うん! あ、今度お兄様に勉強を教えてもらうことできないかなぁ」

「ああ、じゃあ団吉に訊いてみようか、空いてる日ないか」


 そう言ってお姉ちゃんがスマホをポチポチと操作していた。お兄様にRINEを送っているのだろう。

 大学生になることがこんなに楽しみなんて、自分でもびっくりだ。試験まで頑張っていこうと思っていた。

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