知り合いのこんなひとたち

尾八原ジュージ

第一話 二月二十九日

 大学の同窓に、ちょっと変わったひとがいる。


 業界は伏せるが、営業マンである。マメで愛嬌があって頭の回転が速く、ぱっと見好感の持てるナイスガイであるから、向いていると思う。実際バリバリ稼いでいるらしい。

 そして、モテる。なんかよくわからん女性関係を築いては壊し築いては壊ししている。月水金担当と火木土担当の彼女がいて(なお日曜日は彼曰く安息日とのこと)、それもしょっちゅう入れ替わっている。たぶん一生結婚しないだろう。

 実は拙作に登場するキャラクターのモデルの一人でもあり、仮の名前をシロタ氏としておく。


 シロタ氏、「二月二十九日が苦手」だという。

「これまで何度か大きめの怪我したけど、それ全部二月の二十九日なんだよ」

 と語る。

 いわく、ジャングルジムから落ちて肩を脱臼したのも、軽トラにはねられたのも、階段から落ちて右足を骨折したのも、転んだ拍子に奥歯が抜けたのも、すべて同じ日付――二月二十九日のことだったという。だからシロタ氏は、その日には大事な予定を入れないようにしているらしい。

 そこまで日付が被るとなると、なにかしら超自然的なものの意図を感じる。

「シロタ君、何か思い当たる原因ってないの? たとえば、その日に別れた彼女がいたとか」

「ないよ」

「その日が誕生日の女の子と付き合ってたとか」

「それもないと思う」

「じゃその日に堕……」

「ないない。あのさ、シゲちゃん(私のこと)は僕をどういう目で見てるわけ?」

「だってシロタ君は……」

「ないって! だいたい子供の頃から始まってることだからね? さすがに年齢一桁の頃は童貞ですよ、僕も――ていうかさ、咄嗟に女絡みの事情しか思いつかないあたり、想像力が貧しいよね。一応あなた作家のくせにね」

 詰られてしまった。

 ちなみに2024年の同日、自宅に引きこもって過ごしていたシロタ氏は、本棚から突然落下してきたトロフィーが頭に当たって気絶し、火木土担当の彼女に救急車を呼んでもらったそうな。


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